『クリスタルストーン 〜運命に集う者たち』 冬が一歩ずつ歩み寄って来るように、一日一日と 寒さを増し、風は、体を刺すように冷たくなっていく季節。 その冷たい風を、もろともせず切り、まっすぐ前を向いて、 突き進む一羽の鳥がいた。 マーは、ゆずと言う名の故人を心に深く刻み、悲しみを 背負いつつも、なお 強く強く羽ばたいていた。 沢山の境遇の中、今まで、多くの悲しみを乗越えて、 精神共に強くなったその姿は、なんと、たくましいのだろう。 強さのオーラが、まるで、にじみ出ている気配さえ感じる その翼は 冬の灰色の空を自由に、心の動くままに、羽ばたいていく。 行く当ては、決まっていなかった。 大きな夢がある訳でもなかった。 しかし、困ってる人のために、何かしたいと思い、 マーは、空高く高く飛んだ。 自分を必要としてくれる所へ・・・。 その大きな翼は、灰色の島にたどり着いた。 そう・・そこは、害虫が次から次と出る灰の島。 島の上空から、マーは、見渡すと、一羽のペンギンが、 害虫に毒を刺されフラフラになっていた。 すぐさま、マーは、空の上から、ペンギンを抱きかかえ、 安全な場所に移した。 マーは、羽を一振りすると、例のごとく、 害虫は、光に包まれると、一瞬のうちに消し飛んだ。 その技の欠点と言えば・・・害虫もろとも吹き飛んでしまう事。 お金になる害虫を売れない事だった・・・(汗) 傍で見ていたペンギンは、マーの凄まじい破壊力に、 開いた口がふさがらない。 大きなその羽は、ゆずといた あの頃よりもさらに 磨きがかかり、互角の相手がいないほどの強さを持っていた。 クリスタルの石がなくても、マーは、自ら、 自分の深くにある力を見事に引き出していた。 そのパーフェクトなまでの、満ち溢れる力で、 少しでも困っている鳥達を助けていった。 砂漠の島の上空を飛んでいれば、 歩き疲れた鳥達を背中に、オアシスまで導いた。 食べ物や飲み物を必要としてる鳥達には、 果物が沢山落ちてる島から、果物を食べきれないほど、 拾い集め、救援した。 害虫で困ってる鳥達には、それこそ、 朝飯前のごとく、その力強い羽を敵に向け、 あっと言う間に倒した。 雪が積もり、多くの鳥たちが、各家で、 冬ごもりしている とても、とても寒い 真冬でもさえ、 それは、休む事がなかった。 マーは、その冷たい雪を羽に積もらせ飛んだ。 大雪で、遭難に合っている小鳥がいると知らせを受け、 深く深く雪を積もらせた雪山の上空を飛び、くまなく捜す。 体を刺すように吹き付ける吹雪に、普通の鳥だったら、 すぐにばててしまうだろう・・ しかし、マーの鍛えられたその羽は、寒さも吹き飛ばすほどの エネルギーを持っていた。 体から溢れるエネルギーの光を身にまとい、雪山の上に舞い降りると、 キョロキョロと木の陰や茂みの中を探した。 特に雪の積もってる辺りは、光の術で、一瞬で雪を吹き飛ばし、 雪の中で倒れていないか、捜してした。 そして、雪に埋もれかかっていた一匹の小さな小さな小鳥を 発見すると、大きな背中に乗せ、 暖かな家がある方向へと、飛んだ。 その飛ぶ速さは、矢のように早い。 冬の空に一本の光の線を作った。 誰もが、それが、鳥だと思わないだろう・・・ マーの誠意と強さは、もんごっこの島々に広まり、 各地の困ってる鳥達から、必要とされ、 どんな些細な事でも、駆けつけ優しく手を差し伸べた。 そして、見返りを望まない そのマーの正義感に、 誰もが、感心を示し、救った多くの鳥達は、心から感謝した。 また、一人・・・ また、一人・・・ 沢山の鳥達を助けて行くうちに、 マーも、また、とても嬉しい気持ちになった。 大きな仕事を成し遂げた後には、 心が晴れて、なんと、気持ちいいことだろう・・・ やりがいさえ感じていた。 自分のこの大きな力が、沢山の鳥達のためになる。 それが、こんなに嬉しいとは・・・w マーは、胸をはり、生き生きとした瞳をしていた。 自分の力が、役に立つたびに、今まで、修行してきて、 本当に良かったと心からそう思えた。 また、自分の力に、誇りを持てた。 マーは、誰にも負けない自信が満ち溢れていた。 月さえも、吹き飛ばせる自信を持ちながら、 マーは、大きく夜空を飛んだ。 夜空にきらめく星にも負けず、 光輝き飛ぶマーの姿は、流れ星のようだった。 この光の術は、マー特有の技。 誰一人として、その術を使いこなせる鳥はいない。 そして、もし・・・ゆずも生きていたのなら、 黒い風の術も、きっと、ゆずでしか使いこなせないものだろう と、 マーは、思っていた。 そう・・・あの時までは・・・。 大きな暖炉の前で、大事な大きな翼を、整えていた ある日。 とっぴ押しもない知らせが、耳に入ってきた。 それは―――――。 ゆずしか、使えないと思ってきた 黒い風の技を使える者がいると・・・。 マーは、耳を疑った。 まさか、ゆずのようには、あの強い術を身に持てる訳がない・・ マーは、どうしても、会いたくなった。 しかも、この寒い中、害虫島で、 今まで見た事もないほど強い害虫と戦っているという。 体が凍りつくほどの寒さの中・・・ うまく身動きすら取れないこの季節に・・・ どれだけ強い奴だろう・・・ マーは、ゆずのあの術を持つ鳥がどんな鳥なのか・・・ 術は、どのくらい強いのか・・・ いつしか、胸をワクワクとさせ、整えたばかりの羽を濡らし、 吹雪の中、害虫島目指してまっすぐ飛んでいた。 雪が降り積もり、灰色の害虫島は、すっかり銀世界になっていた。 マーは、近くの離れ島に降り立ちクルリと見渡した。 驚いた事に、この寒さの中で、数羽の鳥が戦っていた。 男性が二羽・・・と・・女の子が一羽・・・ マーは、男性の方を見て、いつ術がでるのかとワクワクしていた。 ・・・すると・・・ 見ていた方向とは全く逆の方向から、大きな力を感じ、 マーは、視線を変えた。 なんと・・・ 女の子がいる辺りから、黒い風が舞っていたのだ。 マーは、唖然とした。 その黒の風の術を出したのは・・・ 一人の小柄の女の子だったのだ。 一瞬頭の中が真っ白になった。 考えられなかった。 あの小さな体で、すさまじい破壊力を持っていた。 しかも、その破壊力は、あの時の・・ゆずの力そのまま・・ いや。。。女の子で・・しかもあの年齢からすると・・・ ゆずよりも、うわてではないか・・・ あの小さな体から、どうしたら、あれだけパワーがでるのだろうか・・ マーは、目の前にある力が、これから、 自分よりも確実に強くなると確信し、鳥肌がたった。 そして、その恐ろしさに、身震いした。 マーは、しばらく、まばたきも忘れて、 その女の子に釘付けになった。 追っていたマーの視線に気づいたのか、その女の子は、 吹雪の中、大きくジャンプすると、見せ付けるかのように、 小さな羽根をパタっと一振りした。 女の子の目の前にいたはずの害虫が、ものの見事に、 黒い風に飲まれ、吹き飛びあっと言う間に、消え去った。 そして、足が取られそうな深い雪の地面の上を フワリフワリと、身軽に移動していく。 移動しては、害虫を目にも止まらないくらい速さで、 見事に倒していく。 それは・・・なんと、見ていて、気持ちがよくなるくらいの強さ。 周りの男性の鳥たちも、その姿に、目を丸くさせていた。 今までにも多くの強い鳥を見てきたが、やはり、 ゆずのようには、強くはなかった。 なのに・・・女の子でありながら・・・ しかも小柄な体のこの子が・・・ あれほどにも・・強いのか・・ マーは、しばらく、身動きが取れなかった翼を羽ばたかせ、 彼女の近くまで行った。 そして、邪魔にならないように、その術が本物かどうか見極めた。 やはり・・・ゆずと同じ・・・術だった。 気が動転した。 そんな訳がない・・・ ゆずが、あれほどまで、修行して手に入れた術を、 こんな幼い子が・・・ 手にしてるとは・・・。 ボーっとしている間に、マーの背後に害虫が襲い掛かってきた。 「危ない!!!」 彼女が、フワリとマーの近くまで飛ぶと、 害虫だけを数秒で倒してしまった。 彼女の熱心な戦いぶりに、マーも参戦した。 マーは、彼女の敵には、手を出さないように、翼を一振りした。 マーの術は、光を放ち、 ただでさえまぶしい雪景色が、真っ白に輝き包み込まれた。 そして、一瞬にして、害虫が吹き飛んだ。 その破壊力に、また、彼女も目を丸くした。 害虫の島は、大きな光と黒い風の計り知れないパワーに包まれていた。 辺りはすっかり日が暮れ、 すさまじい数の害虫が異常にワサワサと出てきた。 ゆずは、害虫に囲まれているのにもかかわらず、 「アタシの名前は、ゆず!あんたwなんて言うの?w」 と、余裕な素振りを見せながら、話してきた。 ――――ゆず?! マーは、意識が飛びそうになった。 死んだはずのゆずと同じ名前を持った・・ その女の子は、マーに笑顔を向けた。 「・・・ゆ・・ず・・・?・・」 マーは、戦う手が止まってしまい、思わず、 ガジガジと害虫に噛まれてしまった。 慌てて、空中に舞い上がり、マーは、深呼吸した。 あの時・・・俺の目の前で、死んでしまったゆずと ――― 同じ名前 ―――?! 心臓が、いつになくドキドキと高鳴った。 「俺・・マー・・」 動揺を隠すように、マーは、戦いを続行させ、 害虫をかき消しながら、言った。 「そかーーw」 ゆずは、返事を返し、何事もないように戦っている。 俺に気づく訳がない・・・ だって・・あの時に、ゆずは死んだのだから・・ マーは、隣で戦うゆずを見つめた。 まだ幼いその瞳なのに・・・ たまに見せる真剣な眼差しが・・・ あの頃のゆずのギラギラとした瞳にそっくりで、 マーは、動揺を隠せなかった。 「どうしたの??wそんな恐い顔してwww」 ゆずは、マーに言葉を投げた。 何も返事のできないままマーは、 戦いを中止して、離れ島へ戻った。 言い知れない運命を感じていた。 ゆずの・・・生まれ変わりではなかろうかと・・・ 月明かりは、雪を反射させ、辺りをいつまでも明るくさせていた。 まるで、害虫との戦いを応援しているかのように・・・ しばらくすると、ゆずが、マーの近くにフワリと舞い降りた。 「おにーさんの術もすごいね!!w」 キラキラとした子供のような無邪気な瞳が、そこにはあり、 ほんの少し、マーは、気分を落ち着かせる事ができた。 「ぁーwありがとぉwww」 マーは、ニッコリと優しく微笑んだ。 「今までのは、ちょっとした手慣らしだよw」 そのゆずの言葉に、マーは、またも驚かされる。 「そろそろかな・・・w」 ゆずは、じっと暗闇の中で、目を凝らした。 その視線の先で・・・何かが、起ころうとしていた。 「ほらwマー兄ぃw見て見てww」 知らない間に・・あだ名が付けられていた。 マーは、そんなゆずをヤレヤレと見て、 ゆずと同じ方向に、視線をそそぐと・・・ そこには・・・・・・・ 今まで、そこに存在していなかった・・・ それは、それは、大きくそびえるクリスマスツリーが、 一本立っていたのだ。 真っ白な雪が降る中、キラキラと色とりどりのライトが放たれ、 幻想の世界のように美しく、その場を明るく穏やかにさせていた。 マーは、夢を見ているようで、目をこすり、 幻のような風景をただただ見つめていた。 しかし・・・ そのツリーの下は、別世界のようだった。 そのツリーの下から、数知れない多くの害虫が、 ワサワサと這い出てきていたのだ。 そのツリーの美しさとは、かけ離れすぎている害虫島で・・・ 何故・・・そこにツリーがあるのか・・・ マーは、少し頭が混乱してきた。 ゆずは、その光景をただ呆然と眺めるマーをスルリと横切り、 美しく輝くクリスマスツリーへと飛んだ。 そして、そのツリーの天辺に舞い降りると、 羽を大きく広げ、黒い風を一気に仰ぐ。 ツリーさえも、みじんになくなってしまいそうな破壊力なのに・・ 黒い風に当たりつつも、そのツリーは、 一層キレイに輝きを増していった。 ツリーは、まるで、ゆずの攻撃を受けてないかのようだった。 信じられない・・・ あのツリーは・・・もしかして・・・本当に幻なのだろうか・・ しかも、害虫もまるで、幻のごとく・・・消えたり、姿を現したり・・ まるで、クリスマスのライトのように・・・その姿を点滅していた。 いや・・・存在が消えてるのではない。 素早く移動していたのだ。 あまりの素早さで、見えないだけ・・・。 普通に目で見れば、それは、ワープしているように見えるだろう・・ 今までに、見た事もない新種の害虫に、マーは息を飲んだ。 心の目で、見ないと・・・ この尋常な速さは、見抜けない。 マーは、その動きが、わかった。 そして、ゆずにも・・その動きが見えているようだった。 マーは、面白いと、ニコリと笑うと、 ゆずのいる所まで飛んで行った。 こんなにワクワクしたのは、久しぶりだった。 マーは、タイムスリップしたように、記憶を呼び戻した。 ゆずがいた頃は、毎日がワクワクしていたと・・・。 まるで、あの時のゆずとまた、一緒に戦っているように気がして、 マーは、この状況下で、嬉しくなり、心が踊っていた。 マーは、ゆずよりも大きくたくましい翼を振るい、光を放った。 クリスマスツリーの上で、二人は、背中合わせになり共に戦った。 この害虫に、立ち向かえるのは、たぶん・・・俺達しかないだろう。 さっき会ったばかりなのに、ゆずとマーは、息がぴったしだった。 なんて、戦いやすいんだろう・・・。 そう感じているのは、ゆずも同じだった。 ゆずは、ほんの少し、マーを不思議そうに見つめていたが、 「クリスマスツリーキレーだね!!w」 と、余裕たっぷりに、冗談を言ってくる。 冗談を言いながら、戦うのがゆずの癖だった。 そう・・・あの時の ゆずも・・・ 「相変わらずだな・・・w」 つい・・そんなセリフが、マーの口から飛び出した。 「てかw会ったばっかりじゃん!w」 ゆずは、あははとw大きく笑うと、楽しそうに戦っていた。 楽しそうに戦う姿も・・・あの時のまま・・ やっぱり・・・ 相変わらずだな・・・w マーは、ゆずの楽しそうに戦う横顔をほんの少し見つめ、 心の中で、そう、つぶやいた。 ←back   next→ メニュー
♪Sky Beholder

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