『 迷路の罠 』 もんごっこの島でも事件はたくさんあり、 いくつもの事件を解決した優秀な1羽の刑事がいた。 ぽるる刑事は、誰よりも負けない正義感と優れた観察力で、 どんな難事件をも、解決してきた。 そして・・・ たくさんの沢山の汚れた世の中を見尽くしてきた。 心なんてなければ・・・・ この世は、平和なのに・・・ と思った日は数知れない。 ぽるるは、この平和そうな真っ青な空の下、 どこかで、また新しい事件が起こっているのかもしれない・・・ と、悲しげな瞳で、空を見つめた。 事件の発端は、いつでも、心が動かすもの。 命の尊さを知っていても、なお、繰り返される事件。 皆、平和を願いつつも、咄嗟に犯してしまう罪。 事件を追求していく度に、ぽるるは、その胸に刻み込んだ。 人の心のもろさを・・・ そして、人の心の重さを身にしみて感じていた。 ぽるるは、生と死の紙一重の生活の中、 刑事という役割をまっとうしようとしていた。 いつも危険が伴う事件に、何があるのかわからない。 明日、自分も命を落とすかもしれない。 この世から去って逝った刑事は、何羽もいた・・・ ぽるるの一番親しかった同僚も、殉職した中の一羽だった。 その同僚の刑事 六郎が関わり、命を落としたその事件は、 犯人が見つからないまま・・時が流れていた。 ぽるるは、亡くなった六郎のためにも、解決しようと、 事件を引き継ぎ、必死に捜査していた。 現場近くの情報を頼りに、たくさんの鳥達に、 犯人らしき鳥がいなかったか、聞き、 たくさんの場所を駆けずり回った。 しかし・・・ 手がかりさえも残されていなかった。 ぽるるは、初めて、頭を抱えた。 時の流れが邪魔して、 どんどん闇の迷路へとはまってゆく。 それは、ぽるるが、たくさん解決してきた事件の中で たった一つ。 迷宮入りした事件だった。 余りにも、手がかりがない その事件の真相は、闇へと葬り去られ、 未解決のまま、誰も、触れようとはしなかった。 そして・・・ 15年という歳月が過ぎ・・・ とうとう・・犯人逮捕の時効まで、後数日となっていた。 しかし、ぽるるだけは、その事件の真相をつかみたいと、 諦めてはいなかった。 その事件を解決しないと、 自分の刑事という仕事が終わらない気がしていた。 謎に包まれたままの その未解決事件は、 からまった糸のように、いつも、 ぽるるの心の中で引っかかったままだった。 それは、15年前にさかのぼる。 ぽるるは、刑事になってから数十年という年月が経ち、 ベテラン刑事と周りから熱い視線を 向けられていた日の出来事だった。 同僚六郎宛に一本の電話がはいった。 その数時間後・・・ 緑に囲まれ、平穏に見えた分譲された島で、 その事件は、嵐と共にやってきた。 その島は、サクラという女性のものだった。 そこには、大きい別荘があり、 休日になるとそこで過ごしているようだった。 その夜、サクラの別荘は、大きな火事になり、 あっという間に、燃え尽くされてしまった。 そして、その焼け跡から、男女2羽の遺体が発見された。 その遺体は・・・ 消息不明になっていた この別荘の持ち主サクラという女性と 同僚の親友刑事 六郎の2羽だと推定された。 六郎は、気になる事件の捜査に行くと 言ったきり二度と帰らぬ者となってしまった。 個人の島だけに、火事の報告は、かなり遅くなってしまい、 いったんは、事故だと思われたその火事は、 殺人事件へといっぺんされた。 なぜなら、あの嵐の日で大雨が降っていたにもかかわらず、 あまりにも大きな火事だったからだ。 家の柱さえも残されていない大火事から、 犯人が死体をもみけす為に、 死体と共に別荘を放火した疑いが浮上した。 丹念に調べると、灯油がいたる所に見つかった。 ぽるるは、六郎をよく知っていた。 助けに行って死んでしまったのか・・・? いや・・・そんなヘマする奴ではない・・・。 当時、同僚としてだけでなくぽるるは、 六郎の事をライバルとして見ていた。 六郎は、沢山の知識を持っていた。 ぽるるも感心するほどの頭脳の持ち主だった。 そして、たくさんの難事件を解決できたのは、 彼のおかげでもあると、ぽるるは、心の中で感謝していた。 あの嵐の夜・・・何があったのか・・・ ぽるるは、六郎の遺品としてもらった 懐中時計を大切に手のひらに乗せ、パチンと開いた。 それは、六郎が、身に離さず、よく持ち歩いていた時計だった。 あの日、一本の電話の後・・・ あれほど毎日持ち歩いていた懐中時計を 忘れるほど、六郎は、急いで署を飛び出していった。 なぜ・・・そんなに急いでいたのか・・。 電話の相手は・・ きっと、一緒に遺体で発見されたサクラからだろう・・ ほんとうに・・・六郎は、死んだんだろうか・・。 手がかりもない・・・未解決にさせた完全犯罪。 人並はずれた洞察力と今までに経験してきた犯罪の数々を知らないと ここまで、完全犯罪を犯すことがきでない・・・ ぽるるは、一瞬、意識の向こう側に、六郎の影を見た。 違う!!!違う!!! 頭を左右に振り、ぽるるは、手にしていた懐中時計をパタリと閉じた。 そんな奴じゃ・・・ない――――!!! 少なくても俺が知ってる六郎は、 正義感に溢れた、心の優しい奴だった――。 とても暑い日が続いていた真夏の夜。 また、事件が起こった。 真っ暗な夜道の中、ぽるるは、事件現場へと羽を羽ばたかせた。 そこの現場付近は、数台のパトカーと やじうまの鳥達でごったがえしていた。 「ちょっと、どいてくださいね〜」 ぽるるは、騒ぎ立てている鳥達をかき分けて、 事件が起きた現場に足を踏み入れた。 それは、とても立派な実業家の豪邸だった。 ここのご主人の書斎と見られるその部屋は、 無残にも・・・おびただしい血が、飛び散っていた。 そして、ご主人らしき鳥が一羽、胸を一突きされ、 戸棚の横にうつぶせに倒れていた・・・。 倒れている主人の手元には、赤い切子のグラスがコロリと転がっていた。 まるで、最期に手にしていたかったかのように・・・ 最後の力で、戸棚まで歩いて、その切子を手に取ったらしく、 体を引きずった血痕がジュータンにしみこんでいた。 ぽるるは、その赤い切子のグラスを手に取った。 それは、素晴らしいカットで、美しいデザインに仕上がっていた。 手作りの切子か・・・。 ぽるるは、その切子を、そっと、亡くなったご主人の手元に置くと、 事件のカギを握るために丹念に調査を始めた。 この部屋はキレイに整頓されたまま・・・一つの乱れもない。 逃げ惑った様子が全くなかった。 そして・・・前から刺されている事から、 きっと、顔見知りの気のおける相手だったのだろう・・・ 刺されないと自覚して、犯人の目の前に立たないと・・・ こんなに・・・胸は一突きできない。 身内の犯行だと推測し、ぽるるは、 この家の鳥達の話を伺うことにした。 奥さんは、普通の専業主婦のようだった。 子供は、もう成長して、美的才能があり、 切子のグラスを作っていると言う。 すすり泣いている奥さんには、今の状態では、話すらできない。 ぽるるは、奥さんに、深く頭を下げると、その惨劇の家を後にした。 そして、今外泊しているという切子を作っている息子の行方を追った。 きっと、あの赤い切子のグラスを作った息子さんに違いない・・・。 持っていた切子は、最期に主人が残した ダイイングメッセージなのかもしれない・・・ と、ぽるるは睨んでいた。 結局、どこへ雲隠れしたのか、 その日、息子の行方は、つかめずに終わってしまった。 後日、切子を作っていると聞いた小さな小屋を訪れた。 彼は、何事もないかのように無表情。 いや・・・冷酷な顔つきでグラスと向き合っていた。 何度焼いてもうまくいかないようだった。 そして、突然、目の前にあるグラスをことごとく、割り始めた。 まるで光りが失ったかのような灰色の瞳で・・・ 粉々に壊していった。 「あの・・すいません。ちょっと、よろしいですか?」 ぽるるは、色とりどりのガラスが散らばる小屋に、一歩踏み込んだ。 「こうゆう者ですが・・・」 ぽるるが、警察手帳を見せると、 彼の表情が、一瞬、凍りついたようだった。 「殺傷されたお父様のことで、少しお聞きしたいのですが・・・」 彼は、無言で、ぽるるの話に耳を傾けた。 沢山のガラスの破片が散らばる中、 彼は、ぽるるに前に立ち尽くしていた。 「あなたのお父様は、赤い切子を 死ぬ間際まで大切に手にしてましたよw」 ぽるるが、ふと思い出したように、その事を伝えた。 「きっと・・・あなたが作るこの切子グラスが、 とっても大事だったんですねw」 無残に散らばったガラスに、目を落としてぽるるは、言った。 「素敵なガラスですよwもったいないじゃないですか・・・」 「こんなにしちゃったら・・・」 「気に食わないのは・・・・あなた自身でしょう・・・・」 その言葉に、何も言わずにたたずんでいた彼は、 ガラスの上に膝間づいた。 ガラスの破片が足を切り、わずかに血が流れた。 その血に、彼は、はっ!とあの時の父から 飛び散った血を思い出し、身を縮めた。 「僕は・・・僕は・・・・」 彼の重たい口が開いた。 「どうしても・・父に認めてもらいたくて・・頑張ってきたのに・・」 「実業家の父は、切子作りという職業をわかってくれなかったんだ・・・」 「バカにしたような軽薄な目で・・・いつも僕を見下していた・・・」 「どんなに頑張っても・・・バカにした笑いしか返ってこない・・」 きっと、父の胸に突き刺された傷よりも 深い深い心の傷を負っていたに違いない。 「まさか・・・そんな父が・・・。」 「僕の切子を持っていてくれただなんて・・あるはずがない―――!」 さっきまで、感情がなく灰色にくすんでいた彼の目から、 ポロポロと涙が溢れ出した。 心の中で、父は応援してくれていたに違いない。 感情の行き違い・・・・ たったそれだけの事で・・・ あやまちを犯してしまうなんて―――。 こんな素晴らしい切子を作れるのに・・・ 明日の夢さえも奪っていく・・・ ぽるるは、やるせない気持ちで、彼の手に手錠をかけた。 何度しても慣れない、手錠を犯人にかける時のこの苦しい気持ち。 ぽるるは、彼の肩をポンポンと叩き、 罪を償って、また、素晴らしい切子を作ったらいい。 一生は、まだまだ時間はあるのだから・・・w そう、ぽるるが、励ますと、 彼は、コクンと静かに首を縦に振った。 ぽるるは、応援を呼び、数台のパトカーが到着した。 彼は、ぽるるへ深々と頭を下げると、パトカーに乗り込んだ。 ぽるるから視線を離し、去って行く彼の瞳は、 言い知れない悲しみが映っていた。 ぽるるは、帰ってくるまでと、 彼にそのガラス小屋の管理を頼まれた。 時々、その小屋へ足を運んでは、ガラスを作る材料が ちゃんとあるかどうか確認した。 そこへ・・・何羽かの鳥が訪れた。 切子を予約している鳥たちのようだった。 なかなか評判らしく、そこそこ鳥達が訪れているようだった。 『都合により、営業を中止しております』 と言う張り紙を作り、ぽるるは、一安心したところだった。 ピンク色の・・・死んだと思われていた彼女・・・サクラが、 ぽるるの目の前にいたのだ―――。 深々と帽子をかぶっていたが、彼女に間違いなかった。 サクラも、ここの切子が欲しくて来たようだ。 小屋のドアに立ち、中を覗き込んでいた。 たまに、寂しそうに視線を落とし、陰をみせる彼女は、 何かを心に沈めているようにさえ感じる。 きっと、あの嵐の日の事件の真相を知っているのだろう・・・ ぽるるは、ここの関係者だと言い、サクラと接触を試みた。 「申し訳ございません;せっかくお越しいただいたのに〜;」 丁寧な口調で謝ると、ぽるるは、サクラに近づいて行った。 「お住まいは、ここの近くですか?」 「もし、良かったら、切子ができ次第、お届けに参りますが・・・w」 ぽるるは、さも営業マンと言った口ぶりで、 サクラの住まいを聞き出そうとした。 「ぇーと。そ〜ねぇ〜〜。」 「んーwでも、いいわwまた取りにきますw」 サクラは、ぽるるが刑事だとは知らなかったが、 さすがに、身をひそめているだけあって、アッサリとは、 住んでる島を言い出さなかった。 死んだと思った彼女が生きていた。 じゃあ・・・あの死体は―――誰だったのだ?! ぽるるは、小屋のカギをきっちり閉めると、 サクラに気づかれないように、 帰って行くサクラの後ろ姿を追った。 もうダメだと思っていた あの怪事件の謎が、とうとう・・・ 明らかになるのかもしれない・・・! ここで見失ってはいけない―――! ぽるるは、遠くに見える小さな影を見落とさないように、 しっかりと後を追った。 冬が訪れようとしている木枯らしの中、 止まっていた歯車が、少しずつ動き出していた。 ぽるるは、海にポツンと浮かぶ小さな分譲の島に行き着いた。 周りは、水平線しか見えない。 ここで誰にも気づかれずに、密かに暮らしていたのか・・・ ぽるるは、小さなサクラの後ろ姿が、玄関を入っていくのを確かめると、 窓から見えないように家の壁をつたい、中の様子を見た。 部屋は、大きく何不自由もない暮らしをしているようだった。 柔らかそうな大きなソファーに腰掛けている一人のペンギンがいた。 きっと、サクラの主人なのだろう・・・。 ちょうど後ろを向いている状態だった。 おっと・・・ 気づかれるところだった。 サクラが、部屋の中に入ってきたのだ。 ほんの少し、チラリと部屋を覗くと、サクラは、 残念そうな顔をして、切子が買えなかった事を話しているようだった。 うんうんと頷く主人は、サクラの事をとても大事にしているかのように、 サクラの方を向いて、『まぁまぁ』と、なだめているようだった。 そして、その主人が、サクラの近くへ行ったその瞬間。 ぽるるは、凍りついた。 そして、やっぱり・・・と、心のどこかで思っていた。 ・・・死んだと思われた同僚の刑事 六郎が生きていた・・・ 目の前には、死んだはずの、2人が、仲良く暮らしていたのだ。 ぽるるは、六郎が犯人だと・・・信じたくはなかった。 目の前の現実に、ぽるるは、押しつぶされそうだった。 ぽるるは、空を仰ぎ、そっと、その小さな分譲島から離れた。 六郎にも、それなりの理由があるのだろう。 自分が何も手を出さなければ、 あの2人はずっと幸せに暮らせる・・・ でも、それでいいのだろうか―――。 あの2人が生きているという事は・・・ 犠牲になった2人がいるという事だ・・・ しかも、あの時、消息不明になっていたのは、 サクラと六郎だけだったはず・・・。 近くの鳥達の情報も、あの島の付近で 見かけられたのは、サクラと六郎だけ・・・ じゃあ・・・あの遺体は・・・・。 他の場所で殺害されたものに違いない・・・。 当時の行方不明者を割り出す必要があるな・・・。 ぽるるは、さっそく、本部の資料室へと飛んだ。 ぽるるは、資料を広げながら、当時の焼け跡を思い出していた。 あの焼け跡から、そういえば・・・赤い切子の破片があったな・・・ 黒く焦げていたが、あれは、まぎれもなく赤いガラスだった・・ もしかして、彼の赤い切子なんだろうか・・・ 彼も・・・この事件に関与しているのか・・・?! 行方不明の2人の死体と六郎たち・・・ そして・・・赤い切子は、どう関係があるのだ・・。 六郎・・・おまえは・・・何を考えているんだ・・・。 あの笑顔の奥に何を秘めているのか・・・ ぽるるは、サクラに向けていた六郎の笑顔を思い出していた。 ←back   next→ メニュー
♪霞ヶ月

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