『 一番星 』 真冬の透き通った空には、たくさんの星が瞬いていた。 その夜空が大好きなジオライトは、晴れた夜になると、 寒いにもかかわらず、外に出て、星を眺めた。 冬の空に、とても強く輝く星・・・シリウス・・・w 北極星を取り囲むように輝くとても小さな輝く星々・・・ もう、何百年も宇宙を彷徨っているであろう 赤く光る星・・・ そして・・・青く光る若い星・・・ ジオライトは、宝石を撒き散らしたような夜空を、仰ぎ、 冷たく澄んだ空気を吸い込んだ。 なんて、キレイな星たちなんだろう・・・ きっと僕が生まれる何十年前にも・・いや・・ 何百年前にも・・この星たちは、存在していたのだろう そして、多くの鳥たちが、見てきたのだろう 夜空に瞬く星たちは、ジオライトの瞳の中でキラキラと輝いていた。 ジオライトは、この島で高くそびえる石の砦に腰掛、 よく、星を眺めていた。 ここへ来ると、星がとっても近くに感じたから。 そして、よく、見た事もない宇宙の事や 昔の鳥の事を考えていた。 この砦ができるずっと前には・・・ シリウスは、やっぱり、そこに存在してたのだろうか・・・ 僕の知らない先祖の鳥たちも・・・ きっと、この同じ星空を見てきたんだよね・・・w ジオライトは、見た事もない昔の鳥達とそこにある星々を 思い描くように、星を映していた瞳をそっと閉じた。 いつかは、天文学者になる事が、ジオライトの夢だった。 『もし、この羽が、過去にさかのぼって・・・行く事がきでるのなら・・・』 そう、ジオライトが願い目を開けた時だった。 流れ星が、目の前で、ヒューと光の一本線を作り、流れ落ちた。 ジオライトは、その まぶしいほどに明るい流れ星を見て、 「ぉおww」と感動の声をもらした。 その流れ星は、とてもとてもキレイな線を作り、 夜空に、残像を残していた。 星は、いつか流れ落ち・・消滅してなくなっていく・・・ でも・・・わずかに残ったその欠片が・・ また、星雲の中の小さな小さな星に生まれ変わる。 広い広い宇宙の中・・・想像もできないほどのスケールで、 星たちは、消滅したり・・・生まれたり・・・している。 そう、今、この瞬間も、きっと・・・ どこかで、新しい星が生まれている。 星たちを見つめ、ジオライトは、 まるで星たちに話し掛けるように言った。 「光り輝いて、とてもとても・・ 美しく見えてる事に気づいてるの・・・?w」 ジオライトは、冷えた石垣の砦に、パタと仰向けに横になった。 見渡す限りに星々が広がり、今にも、星が降って来そうだった。 ジオライトは、いつもよりも美しく見える夜空を 寒さも忘れ、ずっと・・ずっと・・見つめていた。 冷たい風が、ピューピュー吹いていて、日が差さない夜は、 今にも雪が降ってきそうなくらい冷え込んでいた。 「寒い!!!」 そう言うと、ピョンとジャンプして、早く暖かい家に帰ろうと、 ジオライトは起き上がった時だった。 周りの風景が違う事に気づいた。 ジオライトは、頭の中が、真っ白になった。 ――――― ぇえ?!?! ―――――― ここは・・・どこやぁぁああーー!!! 足元を見ると・・さっきまで、寝転がっていた砦すらない・・・。 いったい、何が起こったというのだ・・・。 見渡す限り草木が生い茂っている大地に、 ジオライトは、ポツンとたたずんでいた。 空を仰ぐと、たくさんの星たちが、静かに瞬いていた。 それでも、ジオライトは、生い茂る草をかきわけ、 我が家がある方角へと、道のない地を歩き出した。 しかし・・・行き着いた場所には・・・家すら建っていない。 近所の友達の家すらない・・・ ただ、見渡す限りの草木がそこには生えているだけだった。 帰る家もなく、寒さが、より一層寒く感じられ、 ジオライトは、ブルブルと身を縮めた。 僕が・・・星を見てる間に何があったのだ・・。 ジオライトは、グルグルと周りを見渡し、 誰かがいるに違いないと、光を探した。 冷たい風が吹き付ける中、ジオライトは、明かりを求めて、 あてもなく歩き続けた。 しかし、光っているのは瞬く星空と月だけ・・・ もう、野宿するしかないか・・・と、 木の中に足を踏み入れた時だった。 暖かそうなフワフワの草が、 まるでジュータンのように敷いてあった。 そして、その上には、数羽の鳥が、羽を寄せ合い、 スヤスヤと寝ていた。 ジオライトも、その中に、そっと入った。 なんて、暖かいんだろう・・・w 周りの木々は、風をさえぎってくれて、 草は、暖かなベットになっていた。 あまりの居心地のよさに、ジオライトは、 ウトウトと眠りの中に入っていった。 次の日、ジオライトは、あまりのまぶしさに、目を覚ました。 まだ眠っている頭をゆっくり持ち上げ、起き上がると、 まぶしそうに、目をあけた。 「ぇ・・・と・・・」 ジオライトは、気まずそうに、鼻をかいた。 なんと、ジオライトを取り囲むように、小鳥たちが、 ジーっと、ジオライトを見ていたのだ。 「おはよ☆(*ノ▽`*)」 と、ジオライトは言うと、あははーwと笑ってごまかした。 その笑顔に、周りの鳥たちもほっとしたのか、口々に、 『おはよぉーw』と挨拶をしてきた。 「知らない顔だけどw昨日の夜ここに来たの?」 「寒くて、大変だったでしょー」 「お疲れ様ーまだ寝てていいぉ〜〜w」 寒い冬は、島にいる鳥達、みんなで、羽を寄せ合い、 寝ているようだった。 とても優しい鳥達の言葉に、ジオライトは、寂しさも忘れて、 「ありがとぉー!」と笑顔を向けた。 みんなも、ニコニコと微笑んだ その時 『グゥ〜〜〜』 ジオライトのおなかが鳴った。 一羽の黄色の小さな羽根を持つ 永月が、ジオライトの手を引いた。 「こっち^^w」 「朝ごはんwさっき採って来たんだよ^^」 ジオライトは、永月の言われるままに、案内されると、 そこには、もぎたてのリンゴが、沢山積んであった。 「(ノ´∀`)ノオォォォォー☆ いただきまーす☆」 ジオライトは、ガリっと、リンゴをかじった。 なんて美味しいんだろう・・・ こんなにリンゴが美味しかったなんて・・・ それは、蜜がいっぱい入った甘い甘いリンゴだった。 パンにジャムをぬって食べていた僕にとって、 果物の朝食が、とても新鮮に感じられた。 そして、なんと言っても、周りの鳥達がとても暖かかった。 見知らぬ僕に、こんなにも優しくしてくれるなんて・・・ 鳥たちも、次々に甘く美味しいリンゴをパクパクと食べ、 食べてる間でさえ、笑顔が耐えなかった。 しかし・・・ジオライトは、その暖かい雰囲気の中、 周りからいなくなった友達や家族の事を思い出して、 寂しい気持ちになった。 そして、朝ごはんを食べ終わると、ジオライトは、 みんなに、真面目な顔で、今まであった事を話した。 「星を見ている間に・・・周りの風景がすっかり変わっていて」 「この島にあるはずの・・自分の家がなくなっていたんだ・・」 話終えると、誰もが笑いだし、全く、信じようとしてくれなかった。 「まだ、寝ぼけてるんかーーwww」 ジオライトの頭の上で、鳥達がバタバタと騒いだ。 確かに・・こんな変な話・・・信じてくれる鳥がいる訳がない。 ジョーダンだと、みんな思っているに違いない。 自分だって、夢だと思ってるくらいだもの・・・ しかし、ガッカリと、見せたそのジオライトの表情を すぐ横にいる永月は、見逃さなかった。 永月は、ジオライトを元気づけるように優しく背中をなでてくれた。 ジオライトは、優しい永月の事を見つめた。 きっと、彼女なら・・信じてくれてるに違いない。 そう・・思った。 心配してくれているのか、ジオライトの視界の中には、 いつも、永月がいた。 「ここの海岸近くにね、大きな砦があったんだよw」 ジオライトの話に「(*¨)(*..)(*¨)(*..)うんうん」と、 頷く永月に、ジオライトは、島にあった沢山の物を 永月に教えたかった。 「砦には、階段があってね、上にのぼれるんだw」 「そこからw見える星空がとってもキレイでね・・・w」 「いつも、そこから、星を見てたんだ・・・w」 ジオライトは、ふと、思い浮かべ、表情を緩ませた。 「アタシも!アタシも夜空見るの大好きなのw」 「月が大好きなんだけどね・・・w」 永月が、羽根を嬉しそうにパタパタと羽ばたかせながら言った。 夜空が好きな同士。 ジオライトと永月は、お互いに、とても仲良くなれる感じがして、 顔を見合わせた。 「砦は・・・これから・・できるのかな・・・w」 ふと、永月は言った。 「ぶwww」 その言葉に、ジオライトは噴出した。 「これからwできるんじゃなくてwなくなったんだょw」 ジオライト、永月の言葉の意味がよくわからず、 冗談キツイよwと笑ったが、現実に戻され、 急に寂しさが、心に広がっていった。 「そう・・・なくなっちゃったんだよ・・・」 「ちょっと、星を見てる間に・・・」 「家族も・・・友達も・・・僕、残して・・・どこに行ったんだよ・・・」 急に、ジオライトは、砦と共に消えてしまった鳥達を思い出し、 寂しさを隠しきれず、涙をこぼした。 永月は、「そうか〜そうか〜」と、頷きながら、 ホロリと涙をこぼした ジオライトの頭をなでた。 ジオライトは、島を永月と一巡りすると、あることに気づいた。 「お店ないねぇ〜〜〜」 「今日は、お休みなのかな・・・」 励ましてくれる永月に、何か美味しいものでも買ってあげたいと、 ジオライトは、キョロキョロと辺りを見渡した。 「(*・ω・*)モニュ?」 「お店って何???」 永月は、不思議そうに、ジオライトを見た。 「\(@O@)/エッ?」 「ぺんぞうとか・・・知らないの??」 「ハニャフニャ? (’▽‘;)」 まっすぐに見つめる永月の眼差しは、本当に知らないと物語っていた。 ジオライトは、ぺんぞうやぴよた、そして、すずみの話をした。 そのお店には、沢山の積み木や家財道具、 お菓子やキレイなお花まで売っていると。 「へぇーー@0@;そんな便利なものがあるんだー!!」 と、永月は、驚いた様子で、 ジオライトの話を不思議そうに聞いていた。 「ぇと・・・今は、2005年だよね・・・?」 ジオライトは、『まさか・・・そんなバカな事がある訳がない・・』 といった面持ちで、永月に聞いた。 首を横に振りながら、目を大きく見開き、 永月は、驚きを隠せないようだった。 「今は・・・・・」 「1805年だよ・・・(><;」 永月は、静かにそう言った。 「((((;゜Д゜))))」 「・・・・・1805年・・・・・?!」 ジオライトは、頭の中が混乱した。 さっきから、僕の話を真剣に聞き、信用してくれる永月は、 アワワヽ(□ ̄ヽ))...((ノ ̄□)ノアワワ と、ひたすら驚いた様子だった。 きっと、彼女には、ウソはないだろう。 信用したくない事実に、ジオライトは、歩いていた足を止め、 しばらく、立ち尽くした。 僕は・・・200年も過去へ来てしまったのか・・・ 確かに、過去がどうゆうものか見たかったが、 そんな事は、不可能な事。 実際に来てしまったジオライトは、羽の中にある ほんの少し持ち合わせていたドングリを見つめた。 今まで、そのドングリで何でも手に入っていた。 しかし・・・ここでは全く意味のないものになっていた。 そうしているうちに、日が暮れ、 夕焼けが、僕らをオレンジ色に染めた。 「信じられない・・・」 「僕は・・・200年もの時を越えて過去へきてしまったのか・・」 「こんな風に言う、僕を信じてくれる・・・?」 自分でも信じられないことだったのに・・・ 永月は、優しく微笑むと、ゆっくり頷いた。 真顔で話すジオライトを見て、きっと真実を言っているのだと、 永月は、とても真剣に聞いていた。 どんなに、おかしな話でも、永月は、 ジオライトを笑い飛ばす事はなかった。 「ありがとう・・・」 ジオライトは、永月に、心から感謝した。 それから、ジオライトは、永月に、今まで生活してきた、 永月にとっては、未来の事を話すようになった。 とても危険な害虫島のこと。 そこで倒した害虫が、ドングリと交換でき、そのドングリで、 沢山の買い物ができること。 お店で売られている美味しい食べ物のこと。 永月は、見た事も聞いた事もない世界に浸り、 目を輝かせ、ジオライトの話を聞いた。 ジオライトにとって、永月は、唯一、 いろんな事を話せる鳥になっていた。 夜が来ると、ジオライトは、心配してるであろう家族や 友達の事を考え、眠れず、砦があった近くの海岸へ足を向けた。 電灯がなくても辺りは、月と沢山の星々で照らされ、明るく、 夜道を歩き回れるほどだった。 もし、曇りだったら、周りは、 きっと真っ暗で歩けないほどなのだろう。 海岸に腰掛けると、宝石ように輝いている星を見つめた。 冬の代表と言われるオリオン座・・・ そして・・・ 沢山の光輝く星の中で、一段と光り輝く一番星。 シリウス。 それは、あの夜、見たシリウスと同じ輝きだった。 どの星よりも、強く強く光り輝いていた・・・ しかし、その夜空は、今まで見てきた夜空とは、 はるかに違うものだった。 見た事もない数の・・・ いく千もの・・・小さい小さい星たちまでもが、 ジオライトの瞳の中で、美しく光輝いていた。 すごい・・・ なんて美しい夜空なんだろう・・・ 言葉にできないほどの美しさに、ジオライトは、 今ある立場も忘れて、星たちに見入っていた。 「あの雲、ちっとも動かないねw」 知らない間に、ジオライトの隣には、永月が、座り、 同じ夜空を見上げていた。 「ぁあ・・・wあれは、雲じゃないよw」 消滅した星たちの塵でできたもの・・ 星屑がより集まりできたもの・・ 「・・・星雲だよ・・・w」 それは、ジオライトが、今まで見た事がない それは それは 美しい星雲だった。 ジオライトは、本物の夜空を見た気がした。 永月は、ジオライトが、不安で眠れないと、 察して来てくれたのだろう。 ジオライトは、寒い風に吹かれ、 ブルブルと体を震わせる永月を見て、 寒くならないようにと、永月に寄り添った。 寒くても、ただ隣にいてくれる永月の優しさが、 ジオライトにとって、とてもとても暖かかった。 僕たちは、長い間、ただただ、夜空を見上げていた。 ジオライトは、なぜ ここへ来てしまったのか考えた。 そして、あの時見た流れ星を思い出した。 流れ星に願ったから・・・? そんな子どもじみた迷信が本当に起こるなんて・・・ ジオライトは、流星群が夜空に流れる夜、 また星に願えば・・・ 元の時代に戻れるのではないかと、思い、 毎晩、毎晩、ジオライトは、夜空を仰いだ。 しかし・・・ 流星群が、いつ来るのかもわからない。 そう簡単に、流星群は姿を現さなかった。 永月は、知らない時代に飛ばされてしまったジオライトに、 とてもとても優しかった。 永月は、リンゴが沢山なる木を教えてくれた。 ジオライトが、見上げると、枝がしなるほど、 沢山の赤い実をつけていた。 これを、リンゴジャムにすると言う。 冷たい風が吹く中、永月は、木の枝に飛び移ると、 美味しそうに真っ赤に熟れたリンゴを採っては、 ジオライトに投げた。 慣れないリンゴキャッチに、足元をふらつかせながら、 見上げるジオライトに、永月は、あははw笑顔を向けた。 草のジュータンが敷かれているホワホワの家に帰ると、 永月は、小さくリンゴをつぶし、よく煮込んだ。 砂糖なんて入れなくても、甘い甘いリンゴの蜜だけで、 甘く幸せな香りが、漂っていた。 もちろん、パンも作らないとなかった。 永月は、小麦を練り、素朴で美味しいパンを焼いてくれた。 これといった美味しいものがあるわけではなかったけど、 ジオライトには、どれも、美味しく感じられた。 そして・・・ どんどん冷え込んでいく季節に、反比例するかのように 暖かく感じられた。 それに・・・ 今までいた未来の風景と比べると、草が生い茂るだけの 何もない風景だったが、とても輝いて見えていた。 それが、何故なのか 始めはわからなかったが、時を重ねるたびに、 少しずつ、わかってきた。 何もない時代なのに、苦悩すら、感じさせない 永月や周りの笑顔が、どんな時にもあったからだと。 冬の果物が少ないこの時期に、 保存していた食料もだんだんと少なくなっていった。 しかし、争う者は、誰一人いなかった。 何でもある未来では、 他人の物を奪い合っていると言うのに・・・ 何もないこの地で、相手を思いやり、 譲り合って生活していた。 確かに、お店もなく、何するにも、自分達の手で、 しなければならなかったけど、 ジオライトがいた便利で何でも売っている未来の世界より はるかに素晴らしいところだと知った。 傍らに、いつも永月が、いてくれるのが、 当たり前のようになっていた。 そして、『いつか 帰れるよ』って、いつも励ましてくれた。 僕が思い悩んでる時に、関係ない事を言って、 僕を笑わせてくれた。 いつも、いつも、僕の近くには、 僕をほっとさせるように 笑いかけてくれる永月の笑顔があった。 それが、どんなに心の支えになったか・・・ だから・・・ たった一羽だと思っていた苦しい時でも、 乗越えてこれたんだ・・・ そして、傍らの永月の温もりに、 たった一羽で、未来から来たけど、 僕は、一羽じゃない・・・ って感じた。 だから、隣で支えてくれた永月を 僕も、同じくらい・・・いや、それ以上に、 大切にしたいと思った。 いつしか、ジオライトは、永月の優しさに惹かれ、 愛し始めていた。 永月と一緒にいれるのなら、 未来に帰れなくてもいいとさえ思った。 よく晴れたある夜。 ジオライトは、この過去の世界に、住もうと、決心をし、 星たちが瞬く夜空の下、 そっと永月の羽を包み込み、優しく言った。 ・・・ずっと、一緒に、いよう・・・ それからというもの、 ジオライトも永月も、それは それは 幸せに暮らしていた。 それでも、ジオライトには、残してきた家族の事や、 学びたかった天文学の事を思うと、 眠れない夜があった。 ジオライトは、草のベットから、抜け出すと、 いつもの海岸で、腰をおろし、ただ美しい夜空を見ていた。 しばらくすると、心配して永月が海岸まで歩いて来た。 「永月w風邪ひいちゃうよ〜」と言う ジオライトの言葉に、 「アタシがいなかったら、ジオちゃんがカゼひいちゃうよw」と、 笑うと、ぴったりと傍を離れずにいてくれた。 そういいながら、ブルブルと震える永月を、 ジオライトは、大きな翼で包み込んだ。 そして、出会ったあの日の夜のように、 いく千もの星が散りばめられた夜空を いつまでも、いつまでも 見つめていた。 ふと気が付くと、満天だった星たちが少し減り、 東の空がほんのり明るくなっていた。 星を眺めていたら・・・ 朝になってしまったようだった。 星たちは、東から次第に西の空へ・・・ 空が音もなく空の中へ吸い込まれていく。 星々が、消えかかるころ、 東の地平線から顔を覗かせた太陽は、 オレンジ色に水平線を染めた。 星の世界から地球の世界ヘ移行する瞬間。 この地球も宇宙の一端だったのだと。 思い知らされた。 やがて星が消え去り、 澄んでいる空気の中、目の前に広がる空は、 徐々に、七色に移り変わっていく。 オレンジ色から淡い黄色へ・・・ 淡い黄色から薄い水色へ・・・ 薄い水色から真っ青な青へ・・・ 「キレイだね・・・w」 永月は、眠い目をこすりながら、そう、一言、呟いた。 この地球で一番美しい時。 それは、朝焼けなのだと知った。 ジオライトは、今まで、沢山の星を見てきたが、 この美しい朝焼けを見て、初めて思い知らされ、 その永月の言葉に言い返す事ができなかった。 それは・・・美しいと思っていた星より・・・ どんなに光り輝くシリウスよりも・・・ 今ここにいる この地球こそが、一番美しい星だった。と。 宇宙の塵から偶然に生まれた この星に、 いつからか沢山の生物が共に暮らすようになった。 このことが、まさに奇跡だったのだ。 沢山の植物の美しさや鳥達の優しさに触れる事がきでる唯一の星。 地球。 なぜ・・・今まで気づかなかったのだろうか・・・ この過去に来て、この地球の素晴らしさを知った。 星に願ったから、時空を飛び越え来た訳じゃない、 この豊かな緑の大地がある地球という 一番星を知るためにきたのだと・・・ きっと、僕には、この地球の豊かな自然を守っていくという 大事な使命があったから なのだと、 ジオライトは、登る太陽と向かい合い、立ち上がった。 そして、その事を未来に伝えたいと、心から願ったその時。 もう、明るいと言うのに、太陽にも 負けないくらい明るく輝く星が、 スーっと流れ落ちた。 すると・・・ 自分の体が・・・ 徐々に透明になっていく・・・ きっと、未来に帰れるのだろう・・ ジオライトは、はっとして、傍にいる永月に手を伸ばした。 「永月!!!!!!!おまえも!!!未来にいこぉーーー!!!」 しかし、そう叫んだ時には、流れ星が、流れた後だった。 なんて、運命は、皮肉なのだろう。 「未来に帰れるんだね・・・w」 「いつか・・そうなるんじゃないかと思ってた・・」 「だって・・・ほら、時代が違う同士の カップルなんて見たことないでしょw」 慌てふためくジオライトを想いやり、冗談を言う永月。 ジオライトは、永月の翼を引っ張ろうとするが、 自分の体が、オバケのように永月の翼をすり抜けた。 永月が、めいいっぱい見せる笑顔が、 ジオライトには、余計つらかった。 永月は、さっき海岸で拾ったであろう貝を、 差し伸べるジオライトの翼を優しく包み込み、 その貝をそっと渡した。 「これ・・・」 「未来で、お金になるんでしょ?w持って行ってw」 それは、ブルーの巻貝、ソライロコボラだった。 ジオライトに微笑む永月の瞳には、涙があふれていた。 「星に願って、また帰ってくるよね?w」 「だから・・・サヨナラは言わないw」 「ジオちゃんwいってらしゃいw」 そう言いジオライトに笑顔を向けて、翼を振った。 さよならを言わずに、笑顔で見送る事。 それが、ジオライトへの最後の永月の優しさだった。 帰って来れる保証もどこにもない・・・ これで最後になるかもしれない・・・ それでも、なお、永月もジオライトも、 希望だけは、持っていたかった。 ジオライトは、余りにも、突然すぎる出来事に、しばらくの間、 何も言えず、ただただ、永月を見つめ、頷く事しかできなかった。 ジオライトは、未来の島が平和にいられるのも、 永月が、この島の自然を大切にしてきたのだと思った。 きっと・・・僕らが住む未来のその200年後も、 今のように平和で豊かな島であるように、言い伝えて、 永月のように、島を大事に守っていくようにするからね! ジオライトは、永月からもらったブルーの巻貝を握り締めた。 そして、永月を見つめ、 たくさんの気持ちを込めて、言った。 ――― ありがとう ――― ジオライトは、見えなくなっていく景色を・・ 涙を流しながら笑う永月を・・・ 見つめるその瞳からポロリと涙をこぼした。 ジオライトが、辺りを見渡すと、目の前には、 見慣れた砦の石垣が、ひっそりとたたずんでいた。 さっきまで目の前にいた永月の姿がなく、 ジオライトの翼の中には、 月に照らされ、キラリと輝いている 青い巻貝が一つ残されていた。 ジオライトは流した涙をグイっと拭い、家路へと歩き出した。 家に帰ると、家族や沢山の友達がとても心配していた。 そして、元気そうなジオライトを見ると、「よかったwよかったw」と みんなが、ジオライトを取り囲んだ。 今まであった過去の話をすると、少し疲れてるんじゃないの?? と言って、家族でもさえも、話を聞こうとしてくれなかった。 しかし、それは、ジオライトにとって、どうでもいい事だった。 永月と自分の心に、残っていればいいと・・・思った。 そして・・・ 過去で誓った通り、ジオライトは、星の素晴らしさと、 この地球の素晴らしさを皆に言い伝えて、 沢山の島を歩いてまわった。 「この先の未来のためにも、未来の鳥達のためにも、 今、この時の自然を大切にしなけらばいけない」と、 熱心に話すジオライトに、誰もが耳を傾け、 力を合わせて協力してくれた。 そして、自然を大事にしようと、 共感してくれた沢山の仲間ができた。 皆が、協力して、海岸や島のゴミをかき集めたりもしてくれた。 その仲間は、いつも明るい笑顔で、 あの過去にいた仲間達のようだった。 そう・・・ どの時代も・・そこには、優しい温もりがあったのだ。 あれから、何度か流れ星を見たが、 ジオライトは、もう、過去に戻る事はできなかった・・・ そして・・・長い月日が経った・・・ ジオライトは、永月との日々が、本当は、 長い長い夢だったのではないかと思うようになっていた。 もらったこの貝も・・ 自分の手元にただあったものじゃないかと・・ そう思った時。 ジオライトは、ふと永月の言葉を思い出た。 『もし、未来に帰ることができたら、ここを掘って』と。 そこは、ちょうど、砦の横にある大木の下だった。 ジオライトは、永月言った通りに、掘り始めた。 深く深く掘り続けたが、あるのは土ばかりだった。 もう・・・諦めようとした その時だった。 ・・・カチン・・・ 土ではなく、硬いものにぶつかった。 ジオライトは、壊さないように優しく掘り出すと・・・ そこには、その抱えられないほどの貝が埋まっていた。 それは、永月が、未来のジオライトへと、 毎日コツコツと埋めてくれたものだった。 ジオライトは、そんなひたむきな永月の優しさに とめどなく涙を流した。 そして・・・ それは、時という一本の流れの中に、 間違いなく永月が存在していたと、 僕たちが過ごしたあの日々は、夢ではなかったと・・ 証明してくれた。 ジオライトは、埋まっている泥だらけの貝を抱きしめ、 時というもので、永月とつながっているような気がして、 とても切ない気持ちになった。 「ありがとう・・・永月・・・」 ジオライトは、その夜、 砦の上に登ると、晴れ渡った空に輝く星たちを見つめ、 永月の事を想った。 いつまでも、永月の隣で、笑っている永月を見ていたかった。 いつまでも、永月の隣で、永月を大事に大事にしたかった。 しかし、それができなかった・・・。 「ほんと・・・ごめんな・・・永月・・・」 永月の事を想い、瞳から流れそうになった涙に、 ジオライトは、星空を仰いだ。 もうこれ以上・・涙がこぼさないようにと・・・。 永月の好きな月は、ジオライトが好きな星たちを 優しく照らしているようだった。 遠く離れた今でも 永月は、特別な、大事な人。 一緒に笑ったたくさんの時間も・・・ そして・・・ 僕たちを包んだ あの美しい星空も・・・ 永月がキレーと言ったあの朝焼けも・・・ 永月と見た たくさんの景色を・・・ 僕は・・胸に、大事に残しておくよ・・・ ジオライトは、永月と一緒に見た あの満天の星空を思い出し、空を見上げた。 そうすると、不思議と、 いないはずの永月が隣にいるような気がした。 「曇りの日でも、その雲の上には、満天の星があるように、 何が起こっても、その先は光り輝いていると信じて・・・ 僕は、負けないで、この時代で生き抜いていくよw」 「だから・・・」 「だから・・・永月も、一緒にがんばろう・・・w」 と、まるで、永月に優しく話し掛けるように言った。 すると・・・ 『・・・うん・・・w』 と、聞こえるはずのない、永月の優しい声がした。 そう・・・きっと、 時代は違うけど、永月も ここで同じ星を見ているに違いなかった。 そして・・・ 違う時代の中で、お互いの幸せを祈っていた。 その永月の声に、ジオライトは、夜空を仰ぎ、 にっこりと微笑んだ。 ジオライトは、夜空をただ見上げていた あの頃よりも、 何倍も・・何十倍も自信を持ち、 いつの間にか、たくましく成長していた。 どんな星よりも光り輝くジオライトのその翼の中には、 あの日、永月からもらったブルーの巻貝が、 月明かりに照らされ、キラリと輝いていた。 ― END ―    メニュー
♪この日を忘れない

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