『 Eternal mind 〜絆 』 エコは一人、闇の砂漠を駆け抜けた。 毛・・どこに・・・いるの?! 左右を見渡し、エコは、毛の姿を捜した。 今までの戦いの傷・・・ そして、疲労で、目の前がゆがんだが、 エコは、その足を止めなかった。 全身の痛みに耐えながら、 苦しそうな表情を浮かべ、エコは、走り続けた。 ・・・お願い・・・ このまま・・・会えないなんて・・・ そんなこと・・・絶対イヤ―――!!! 何時間走った事だろうか。 エコは、あまりの足の痛みと疲労に、 速度が遅くなっていく。 「そろそろ・・・あきらめませんか?」 エコの背後から、あの赤い髪の少年の声がした。 ハッと振り向き、エコは、叫んだ。 「お願い!!私も連れて行って!!」 「毛のところに―――!!」 「足手まといにならないようにするから!!」 赤い髪の少年は、今にも涙がこぼれそうなエコの瞳を見て、 困った表情をした。 「私と同じくらい・・・強情ですね・・・w」 少年は、ふふっと笑い、 静かに言い続けた。 「でも・・・」 「それは、できません」 エコの願いは、すぐさま打ち砕かれた。 「毛さんは・・・あなたがまた追って来るってわかってました」 「それで・・あなたを心配して・・」 「私をあなたの所に向かわせたんですよ」 少年は、エコの気持ちを無視して、ハッキリと言った。 「すでに、足手まといです」 「そんなぁ・・・」 エコは、膝を落とし、絶望にさいなまれたが、 それでも負けなかった。 「でも・・・でもね・・・」 エコは、見上ると、少年の瞳をしっかり見て、言った。 「毛とあなただけで戦っているのでしょう?」 「2人で戦うより、3人・・・4人だよ!!」 「アタシが、強い仲間を連れてくるから!!」 「アタシの力は、足手まといになるくらい・・」 「小さいかもしれないけど・・」 「強い仲間が増えれば、力を合わせれば・・」 「どんなに強い敵だって、絶対に倒せるよ!」 少年は、エコの話に耳をすまして聞いてくれたが、 エコの話をさえぎるように言った。 「あなたの大切な友達なのでしょう・・・」 「この余りにも危険な戦いに巻き込むつもりですか?」 エコは、一瞬、言葉をなくしたが、 強く返事を返した。 「まきぞえなんかじゃない・・・!!」 「共に戦う仲間だよ!!!」 エコは、仲間の力を信じていた。 「アタシ、この旅を続けて、わかったんだ・・」 「アタシは、一人じゃない・・・」 「助け合う友達がいるって事を―――!!」 エコと少年の間に、沈黙が広り、 少年は、エコの曇り一つない瞳をジっと見つめた。 「わかりました・・・」 「毛さんといい・・あなたといい・・・」 「どうして、そんなに純粋に生きられるのでしょう・・」 参ったという表情を浮かべると、少年は言った。 「ただ、毛さんに、この事を話せば、反対するでしょう」 「この計画は、あなたと私の秘密です」 「いいですね」 エコは、少年の話に、コクリと頷いた。 「それと・・・」 「この状況下で、仲間集めに時間をかけてもいられません・・」 「毛さんにも、いつ、ばれるかわかりません」 「明後日の0時、私達は、この島を出る予定になってます」 「そして、敵も、何かしらの術で、攻撃を仕掛けてくるでしょう・・」 「それまでに、エコさんの強い仲間を集めてください」 「いいですね。明後日の0時までですよ」 エコは、少年に向かって、大きく頷いた。 「後、あなたの要望を受け入れたのですから、 こっちの用件も聞いてくれませんかねw」 少年は、エコに近づくと、優しく触れた。 すると、不思議なことに、エコの傷だらけの体が みるみるうちに治って行く。 「今日は、よく、眠りなさい」 そう言うと、少年は、どこかへ消えて行った。 エコは、ただただ、少年がいなくなった空気を見つめていた。 彼は、すごい能力の持ち主なのだと・・改めて感じ、 エコは、感謝した。 そして、サボテンにもたれながら、疲れた体を休め、 瞳を静かに閉じた。 エコは、数日ぶりの深い深い眠りに落ちていった。 次の日。 眩しい太陽の光に、エコは、目を覚ました。 よし!! 明日の0時までに、連れてこなきゃ!! エコが探し出す仲間は、もう決まっていた。 ゆず・・・ マー・・・ ついきち・・・ 志爛・・・ そして・・・鈴・・・! この5人と・・アタシが加わって・・・ そして・・・毛とあの少年で・・8人!! これだけいれば・・・必ず倒せる!! てか・・・あの少年の名前って何て名前なんだろ・・(遅 でも・・今は、急がなくちゃ!! エコは、ザザっと足音を立てながら、砂漠の砂を走り出したその時 昨日の少年がエコの上空をスイスイと飛んでいるではないか。 「ぁ!おはよぉー!昨日は、ありがとぉーー!」 「この通り、体ピンピン元気だよぉーー!」 エコは、走る足を止めずに、少年を見上げ、 元気よく昨日のお礼を言った。 「でwあなたの名前は、なんて言うの?」 エコは、再び、まっすぐ見て走り出しながら、質問した。 「私は、アートwよろしく」 と、上空から返事があった。 「アートかぁ〜〜wいい名前ねw」 エコは、笑顔を見せ言った。 「でさ・・・あなたは、何でついてくるのさ・・・(汗」 エコは、上空の視界にスイスイと 飛んでいるアートに気をとられながら言った。 アートは、エコの行く方向へ ずっと、着いてくるように 上空を飛び続けていた。 「昨日言ったはずです」 「私は、毛さんに言われて、あなたを護衛すると・・」 「えーーーーーー!?!」 「あたしのボディーガードォ〜〜〜?!?」 そんなもん いらんわい!と言った風に、エコは、 驚きの声を隠せなかった。 誰かから守ってもらうなんて・・・ 誰かに頼るなんて・・・ 今までなかったから・・・ 男同様に、旅を続け、今更、エコにとって、 ボディーガードなんて、必要ない存在だったが、 エコは、女の子扱いしてくれるアートに、 照れくさい感じと共に、くすぐったいような なんだか妙な嬉しさが心に広がっていた。 「ねね・・w毛と旅してて楽しい?」 エコは、後ろから、スイスイと空を飛び、 着いてくるアートに声をかけた。 「毛はさぁ〜〜〜無口だからねぇーーw」 「楽しくないかぁーーーw」 エコは、毛とアートの旅を想像して、 あははwと声を立てて笑いながら言った。 「私は、そうは思いませんよ」 「とても、充実した旅ですw」 いつも、丁寧な口調のアートの声に エコも、また返事をする。 「そかぁーーw」 「確かに、思い知らされる事はあるよね・・・」 毛は、口数少なくても、いつも大切な言葉をくれるんだ・・・ エコは、小さなサボテンの話を思い出していた。 「毛と旅を続けてた頃・・アタシも充実した日々だったよ」 エコは、毛との旅が、脳裏に浮かび、 とても優しい表情を見せた。 「エコさんが、毛さんと旅を続けたいと思う気持ちは」 「よーーく、わかりますよ・・・w」 アートは、エコの気持ちをくみ取る様に、 優しく言った。 エコとアートは、毛と旅をしたいと思う者同士。 仲良くなれそうな空気が、そこには広がっていた。 エコは、やっとの思いで、砂漠の海岸までたどり着き、 広い海に飛び込んだ。 暑い太陽の下、海の冷たさが、心地よかった。 この海の向こうに、ゆずやマーがいるはず・・・ エコは、大きく揺れる波間の向こうに続く水平線を凝視した。 会えれば、仲間を集めるのは容易だと確信していた。 なぜなら、ゆずとマーは、移動するスピードが、 この世のものとは思えないほどの速さの持ち主だったからw エコは、広い広い海を、荒波にも負けず、進んで行った。 エコとアートは、木の葉がハラハラと舞う秋の島にたどり着いた。 「ここら辺で、少し休憩しましょう」 アートは、エコの体を心配し、 朝から、休むことなく走り続けているエコの前に立ちふさがった。 「でも、この近くにいるはずなんだよ・・!」 地団太を踏むように、足をパタパタとさせ、 立ちふさがるアートの先の景色を見ようと必死に抵抗したが、 アートが、エコの視界を妨げた。 「やっかいな・・ボディーガードさんだこと・・w」 エコは、ヤレヤレと近くの木の下に腰を降ろした。 海水で冷え切った体を温めるかのように走り続け、息が荒い。 アートは、エコが座る大木の大きな枝に、 まるで、鳥のように静かに舞い降りた。 「ねぇ〜」 下にいるエコは、息を整え、空を見上げるように、 仰向けに横なると、アートを見つめ話し掛けた。 「昨日の夜、毛とアタシの事・・純粋で、似てるって言ったでしょー」 「でもさーそれって、どぉゆう意味?」 エコは、木漏れ日を浴びながら、話し続けた。 「だって・・・」 「アートだって、優しさを持ってるし、十分純粋だと思うよw」 しばらくの沈黙後、アートは、静かに語りだした。 「人間とは、賢い生き物のはずなのに・・・」 「時として・・とても愚かな生き物なんですよ・・・」 「幸せが崩れない限り」 「そこが幸せだと全く気づかないのだから」 「目の前の幸せが、当たり前のようにあるからね」 「それに・・・」 「幸せであるのに、それ以上を欲しくなる」 わが身を振り返る事もせず・・・ 周りの人を伺い、それ以上のものを持っている人を羨む。 うらやみ・・ねたみ・・・ 「まるで、人間は、欲のかたまりだ・・・」 ・・・そして・・・ 本当に、大切なものを見失ってしまうんだ・・・ 赤い髪の少年は、昔の自分を思い浮かべ、 遠い目をしながら話し続しけた。 「私も、以前・・・とても愚かな人間だったんですよ・・・」 エコは、え?!と驚いた表情で、アートを見つめた。 「多くの争いを見て来た」 「沢山の人が、血を流し・・・」 「欲のために、何の罪のない人々が次々と死んでいく・・」 「金の為・・・地位の為・・・自分達の陣地を広げる為・・・」 「そんな物のために―――」 「沢山の人が犠牲になったんだ―――」 アートは、生まれた頃から、戦いしか知らない。 戦場で生まれ、戦場の中で育った。 「だから、私は、沢山の争いの中で、人も信用できなくなっていた」 「そして、自分の力で、一人生きていく事を選んだんだ」 自分以外の人は、信用できない・・・ いつも、隙を与えない、気迫が、そこにはあった。 いつの間にか、アートは、 人を寄せ付けない空気を持ち合わせていた。 「敵が現れた時、私は容赦しなかった」 そして、幾度も、返り血を浴びた。 この髪よりも。 この瞳よりも。 とても、真っ赤な・・・真っ赤な・・・血。 アートは、その時の情景を思い出すように、 悲痛な表情をし、目を細めた。 戦いを恐れない事が勇気だと教えられ・・ 戦いを続ける事で、その地位は高いものになっていく・・ 罪もない人間達を叩き潰し、その土地の権力を得る・・・ そして、また、更に、軍隊も多くなり、 周囲からも見直され・・・ 自分は、とても強い男だと・・・思っていた。 そう・・・毛さんに会うまでは・・・。 毛さんに会って、 私の人生が変わったと言っても過言じゃない。 あんなに、まっすぐに生きている人間がいたなんて・・・ね・・ アートは、少し微笑むと、首を横に振りながら、 参ったと言った素振りを見せた。 私は、毛さんに会って・・・気づいたんだ・・・ 争いを選び、血を流し続ける人間達が・・ どんなに、愚かだった・・と言う事を・・・ アートは、瞳を閉じて、毛と会った時の事を ポツリポツリと話し出した。 あの日も、血なまぐさい戦いが繰り広げられていた。 そんな時、毛は、ヒラリと舞い降りるように、 アートがいる島に訪れた。 そして、まだ息のある傷を負った人々に、水をあげていたんだ。 しかし、アートは、気にもとめずに、争い続けた。 邪魔をする者は、この手で殺すとばかりに、 アートは、無差別に剣を振りかざした。 そして、毛の背後に近づくと、 持っていた大きな剣を振り上げた。 毛は、スルリと剣をかわすと、 アートの剣を近くにあった鉄の棒で振り払い、 アートの手から剣は宙を舞い、 ガランと重たい音を立て地に落ちた。 毛は、何も言わずに、じっと、アートを見据えた。 そして、毛は、ポツリと言った。 「なぜ、戦う」 「なぜ 罪のない人々に剣を向ける」 辺りでは、負傷し、足や体を引きずり、 懸命に逃げている沢山の人たがいた。 「そりゃーここを侵略するんですよ」 「誰にも負けない強い地位・・・名誉が手に入るからw」 「ここの土地から出る鉱石で、また大儲けできますしね・・・w」 「それに・・・おまえみたいな・・・」 「薄汚れたやつと一緒にしないでもらいたいですねぇ〜」 「私は、ここの周り全てを支配している王だ」 「地位や名誉だけじゃない、お金だってたんまりとある」 「今まで、争いを続け、何十箇所という島を支配してきましたからねw」 そう、言うと、アートは、勝ち誇ったように、笑い出した。 そして、毛の攻撃から回避するように、大きく後ろにジャンプした。 毛は、「ふ〜〜ん」と、 興味がない無表情の顔を向けた。 アートは、バカにされたと思い、唇をかみ締めた。 おまえ・・・!!! アートは、落ちた剣を拾い上げると、 凄いスピードで、毛に向かっていった。 力のない奴は、誰でも打ちのめしてやる!!! 今、ここで、毛を倒さなければ、 アートのプライドが許さなかった。 しかし、アートの動くスピードよりも、毛の方がはるかに早かった。 アートの剣は、再び、宙を舞い、落ちていき、 毛の鋭い剣は、アートの首元まで来ていた。 剣を突きつけられ、恐れおののくアートに、 毛は、静かに言った。 「地位だ?名誉だ?金だ?」 「くだらねぇ〜」 「今、ここで、おまえの命を奪ったら」 「何が残る?」 「何も残らねーよ」 「こんなことで、得た地位や名誉なんて」 「死んだら、ないに等しいだろーが」 「金だって、持っていけねーし」 「わかったか?」 「死んだら・・・」 「己だけだ!!!」 毛は、剣をアートの首にグイッと突きつけた。 そして、息を殺しているアートから、剣を離すと、 正すように、アートの胸をグーで力強く叩き、言った。 『そんなものより、もっと、もっと、大切なものがあるだろ』 と・・・。 自分が勝てる相手ではないと察知し、 アートは、何も言わずに、その場を去った。 どのくらい走っただろうか。 毛の姿が見えなくなった事を確認すると、 息を整え、いまだ会ったことのない強さに、体を震わせた。 ・・・死んだら・・・ ・・・己だけ・・・ ・・・もっと、大切なもの・・・ 毛の言葉がアートの頭の中で、グルグルとまわっていた。 その時の私は、何も、わかっていなかった。 言葉の本当の意味を―――。 そして、次の日も、毛に会わざるを得なかった。 毛は、アートが侵略しようとしている島の負傷した人々を助け、 これ以上、争いがないようにと、一人で戦うつもりのようだった。 アートが、行く手に、毛は、待ち構えていた。 アートの後ろには、もちろん何百人という軍隊がいる。 「バカな奴だ・・・」 「これだけの人数がいるのに、一人で戦うのか?」 アートは、自分が相手をする必要もないだろうと、 ニヤリと笑い、右手を振り上げ、軍隊にサインを送った。 『やってしまえ』と。 地響きを鳴らしながら、軍隊は、毛に向かって行く。 数百人もの足音が、地を揺るがし、砂煙を巻き上げた。 軍隊は、積み重なるように、毛にたかりかかる。 そして、数多くの剣が、毛目掛けて、襲い掛かった。 毛は、多くの剣の間をすり抜けるように、 軽く身をかわし、剣は空気を切るだけ。 「くっそ・・・」 アートは、その様子を見つめ、最後の手段を使う事にした。 それは、アートが一番得意としている・・・術だった。 「これを受けてみろ!」 アートが、毛に言い放つと、 辺りが、真っ暗になった。 いや、毛の視界だけが、真っ暗になったのだ。 それでも、周りからの攻撃は容赦なく、 剣が次から次と振り落ちてくる。 毛の体には、無数の傷ができ、頬に、血がスーっと流れた。 気を感じて、毛は、目に見えない剣の間をすり抜けた。 そして、大きく上空へジャンプすると、毛は、ある呪文を唱えた。 そうすると、信じられない事に、戦いを挑んでいた軍隊が、 一時停止画面のように止まった。 「おまえ・・・何者?!」 アートは、声を荒げ叫んだ。 「俺は・・・毛だ」 そう名乗ると、毛は、真っ暗闇の中、アートの気を感じ取り、 まっすぐにその体を走らせた。 向かってくる毛の姿に、アートは、恐れをなした。 一歩足が、後ず去る。 しかし、毛は、アートの目の前まで来ると、 攻撃もせず、こう言った。 「俺と旅をしないか?」と。 「ここで、弱い奴らを倒し続けてどうする」 「それとも・・」 「弱い奴が相手じゃないと戦えないのか?」 アートに挑戦を挑むような言葉で、毛は、アートを誘った。 「おまえみたいに強かったら・・・」 「もっと強い奴を相手にしたらどうだ?」 「弱いものを潰すほど、弱い奴はいないさ」 毛は、暗闇の中、目の前にいるであろうアートを 静かに見つめ、答えを待った。 くっ・・・ アートは、余りの屈辱に、下唇を強くかみ締めた。 『この場で、毛の仲間になる事で、命だけは助かるだろう・・』 そう、思い、アートは、暗闇の術をとき、 毛の瞳を見つめると、ゆっくり、コクンと頷いた。 それが、全ての始まりだった。 アートは、毛と旅を続ける事で、 毛と共に戦っても、倒されるか倒されないかの 強く研ぎ澄まされた相手と戦う事になった。 アバラ骨が折れたとしても、戦い続けた事なんて、 数知れない。 生死が隣り合わせの毎日。 敵は、どれも、人々を困らせている悪い奴で、 倒すと、誰もが喜び、毛とアートに感謝した。 それは、今まで味わった事のない感覚・・・。 相手が喜んでいる姿を見て、自分も嬉しくなるなんて、 考えられなかった。 なぜなら、自分だけしか信じられなかったアートは、 今まで、喜んでいる人を見て、ねたんでいたのだから・・・ 毛と旅をするに連れて、 アートの心は、だんだんと、変わって来ていた。 時には、その戦いに、負ける時もあった。 しかし、負けた事で、今まで勝ち続けてきたアートは、 弱い者の気持ちを理解する事ができた。 真の強さとは、弱者の気持ちを知り、 その弱者たちのために戦う事だと知った・・・ アートは、生まれて初めて、助け合う心を知った。 そして、今までのプライドがどんなに、 くだらないものだったのか・・・ ない方が、どんなに自由だった事か・・・ 思い知った。 アートは、今まであった地位も名誉も・・金も捨て、 一人の人間として、敵を倒す為の努力を惜しまなかった。 敵を倒した後の快感は最高だった。 毛と腕を交わし、喜び合った。 いつの間にか、アートは、心から笑うようになっていた。 一人また一人倒して行くごとに アートは自信をつけ、あらゆる術を使いこなせるほどの 術使いではトップレベルの凄腕の人物になっていた。 毛も、アートを旅を続ける事で、更に力をつけ、 たくましく成長していた。 これほどに、力をつけてきた・・・ 毛の狙いは、一つだった・・・ それは、これ以上強い奴はいないと皆から恐れられている クインを倒すため・・だった。 毛は、たくましく胸をはり、もう、煙を上げている活火山を見据えた。 そこに、クインはいるはず・・・。 クインは、異様に大きな体を持ち、 煮えたぎるマグマをも飲み込んでしまうほどの生き物。 それは、害虫にも似ているが、足の数は、数十本、 恐ろしく とがった牙と 飲み込んでしまいそうな大きな口・・・ そして、360度見える四方八方にある目。 それは、それは・・恐ろしい生き物だった・・。 たまに、その溶岩がゴロゴロとある山から、街へ出ては、 人々を無差別に襲っているという。 その怪物を倒す事。 それが、毛が旅に出た最終目的だった・・・。 毛とアートは、自信と力を備え付け、 クインの所へ行こうとしていた。 「とうとう、この日が来たか・・・」 毛は、さっきまで、磨いていた大きな剣を太陽にかざした。 剣は、輝き、光を反射した。 「アート・・・用意はいいか?」 毛は、目の前で、モクモクと煙をあげる 活火山をじっと真剣に見つめると、 隣に立つ、アートをチラリと見た。 アートは、風に赤い髪をなびかせ、ゆっくり頷いた。 2人は、活火山を身軽に跳ね登って行き、 頂上に差し掛かった所だった。 グツグツと煮えたぎるマグマと溶岩のからクインが 唐突に現れたのだ。 毛とアートは力を合わせ戦い、凄まじい激戦が繰り広げられた。 クインは、恐ろしいほどの強さを持っていたが、 アートの術の罠を仕掛けると、うまい具合に引っかかり、 毛の剣さばきで、どうにか倒す事ができた。 ところが、信じられない事に・・・ その切った断片からは、生き物とは、程遠い機械が見えていた。 「こ・・これは・・・」 その恐ろしい生き物に命を吹き込んだ もっと黒幕がいると言う事か・・・?! 毛とアートは、驚かざるを得なかった。 こんな恐ろしい生き物を作れるほどの・・・ 錬金術の持ち主が・・・この世にいたなんて・・・ ・・・そして・・・ 毛とアートは、このクインを倒した瞬間から、 恐ろしい力を持つ錬金術師の敵になってしまったのだ。 敵は、あらゆる術を使って、命を狙ってきた。 毛とアートは、その見た事もない敵と 戦わなくてはいけなくなってしまった。 そして、今まで、錬金術師の恐ろしい術を すり抜け続けて来た と言う・・・。 ハイレベルな術を使う事のできるのアートでさえも、 その術を交して行くだけで、攻撃すらできない状態。 毛も、敵がどんな方法で命を狙ってくるのか わからず、 悪戦苦闘していた。 あらためて、エコは、毛が言った言葉がわかるような気がした。 手も足もでない、相手だと・・・ アートは、話終わると、大きくジャンプし、 桜の花びらが散るように、ゆっくりと大地に足をついた。 「わかりましたね。私がどんな奴かってことか・・」 「それに・・敵が、どんなに恐ろしい相手か・・・」 「仲間を集めるという この計画をやめますか?」 アートの話を聞き、言葉をなくしたエコの頭を アートは、ポンと叩いて言った。 アートは、どんなに強い敵に、命を狙われていても、 毎日のように、襲い来る恐ろしい術を仕掛けられても、 毛との旅を続けた事に、全く後悔はなかった。 今ある現実が素晴らしいものだと思っていた。 そう・・・あの頃の自分よりも・・・ はるかに素晴らしい生き方をしていたから―――。 アートは、秋風を思いっきり吸い込むと、 胸をはり、秋にそまった景色を見つめた。 エコは、立ち上がると、何も言わず、再び走り出した。 そう・・・、エコは、諦めていはいなかった。 この話を聞いても、きっと、エコなら、 意思を変えないと感じたから アートは話したのだった。 エコは、何事にも負けない人だと・・・確信していた。 アートは、必死に走るエコの後ろ姿を見て、 にっこり微笑むと、再び追いかけた。 もう、辺りは、真っ赤に染められ、 赤く紅葉した木々も、 アートの髪と瞳も、 更に赤く色づいた夕暮れ時。 「いた!!!!!!!!」 とうとう、ゆずを見つけ出した。 「ゆずぅ〜〜〜〜〜〜〜!!」 エコは、思わず飛び上がり、大声を上げて、 ゆずへと足を走らせた。 「エコォ〜〜〜〜〜?!」 ゆずも、また、エコの姿を捕らえ、驚きの表情と 再会を喜び、共に笑い、抱きしめ合った。 事情を聞くなり、エコの思った通り、 ゆずは、この戦いに、すんなり了承してくた。 そして、マーも・・・w すぐにでも、ゆずとマーで、手分けして、 仲間を集めてくれると、言う。 誘った仲間は、皆、エコを気遣い、 快く、協力をしてくれた。 「エコの頼みなら、断るわけにはいかないなw」 そう、皆は言い、次々と、あっという間に集まってくれた。 ・・・2時間後・・・ エコの目の前には、 ゆず マー 志爛 ついきち 鈴 ひめ ぽよ の姿があった。 「あれ・・・ひめとぽよも戦ってくれるの?(汗)」 「だ・・・大丈夫なの?!」 エコは、二人を見つめた。 「少しでも、役に立てればと・・・w」 ひめは、エコに優しく微笑んだ。 「(>w<)ぽよは、ひめを守るために行くのらーw」 ぽよは、ひめを守るポーズをすると、 皆が、いっせいに笑い出し、その場を和やかにさせた。 「黒い風の術で、あっという間に、やっつけてやるー!!」 ゆずは、自信ありげに、小柄な体をピョンピョンとさせた。 「僕も、光の術で、戦わせて頂きますよw」 マーが、遠慮気味に、微笑みながら、話に加わった。 「んーーーw少し最近、体なまってるけどw」 「精一杯戦わせてもらうよっ!」 鈴が、優美な長いブルーの髪をフワリとさせながら、ウィンクした。 「ちゃんとネギ磨いとけよw」 ついきちが、どんな鋼鉄でも切る事ができると言われる 志爛のネギブレードを見ながら言った。 「毎日磨いてるさww」 と、言うと、志爛は、鋭いネギをクルクルっと振り回し、腰に収めると、 エコを励ますように、ニッコリと笑い言った。 「これだけ、そろってれば、どうにかならないかな?w」 「そうだね・・・w皆がいれば、きっと・・・!」 「勝てる!!!!!」 エコは、皆から勇気とパワーと自信をもらっていた。 そして・・・皆も同じ気持ちだった。 エコは、その夜、皆と、輪を作り、 たわいもない話をたくさんした。 夜中が来て、ふと、その場をキョロキョロとし、 アートを捜したが、 知らないうちに、アートの姿は、消えていた。 エコは、真夜中、眠れず、ゆずとマーの家から、 外の空気を吸いに、ふと外に出た。 そして、木の上にいるアートを発見した。 「アートォ〜」 「そんなとこにいたんだぁ〜〜w」 エコは、木の下から、アートに声をかけた。 「ん・・・」 アートの静かな声が返ってきた。 「寝てた?・・ごめん・・・」 エコは、アートは眠いのかと思い、謝った。 「いや・・」 それは、元気のない・・・初めて見るアートの姿だった。 エコは、何だか、アートを放っておけなくて、 木の下に座り込んだ。 「いいですね」 アートの声が、降ってくるように、エコの耳に届いた。 「ぇ?何が?」 エコは、アートがうらやむ理由がわからなかった。 「たくさんの仲間がいてwいいなぁ〜と思っただけです」 アートは、少しトーンをあげて、 自分自身を笑うかのように、明るく言った。 「私には、あまりいないんで、うらやましくてw」 「ぁぁ・・・」 エコは、今日聞いた話を思い出し、言葉を失った。 「でも・・・ほら・・w」 「毛だって、仲間だしw」 エコは、アートの気持ちを察し、優しく答えた。 「これからは、アートもアタシ達の仲間だよ!!」 「だって、一緒に戦うじゃないw」 エコは、励ますようにアートに力強く言った。 「そかぁ・・・w」 「ありがとぅ・・・w」 少し元気のあるアートの声が返ってきた。 初めて、アートの心の声を聞いたみたいで、 エコは、嬉しくなった。 「エコさん〜」 初めて、アートは、エコの名前を呼んでいた。 「何??」 エコは、見上げ、返事を返した。 「エコさんをうらやむのは、これで2回目なんですよ」 「ぇ・・・?」 「2回も??」 エコは、わからなかった。 どこが羨ましいのか・・・ 「アートの方が、強いし、いろんな術もあるし・・w」 「それに何と言っても、毛に認められるほどの力持ってるんだからw」 「アタシも、アートが羨ましいよw」 エコは、雲の間から、薄っすら姿を現した月を見つめながら言った。 「毛さんが、でっかい害虫の姿に見えていた時」 「あの時です・・・」 「あの時、毛さん、エコさんが撃とうとする拳銃の前で」 「何も抵抗せずに、じっと、いたでしょ・・・w」 「毛さん・・・」 「エコさんの事・・・心から信じているんだなって・・・」 「羨ましかったですよ」 「それほど、信用できる相手がいるなんて」 「普通だったら、逃げるなりしてますからね・・w」 「あの時、毛さんは・・・」 「どうしても、エコさんを助け出したかったんでよ」 「・・・自分の命を売ってでもね・・・」 ・・・ぇ・・・ エコは、あの時の情景を思い出していた。 ・・・毛・・・。 エコは、毛の気持ちを全く知らずに、胸が締め付けられた。 無口な毛の優しさを・・・ エコは、実感し、涙があふれた。 その涙をアートに気づかれないようにはらい、 エコは大空を仰いだ。 いつの間にか、雲がなくなり、 月が、島をを明るく灯していた。 次の日。 とうとう、夜が深まり決戦の時が来た。 エコたちは、砂漠の地に足をつき、 アートが導く方向へ・・・ 毛のいる場所へと歩み進んだ。 辺りは、静まり返り、 これからココで、戦いが繰り広げられるなんて、思えないほどの 平穏な静寂と暗闇が広がっていた。 アートは、毛の元にたどり着き、静かに舞い降りた。 毛は、エコたちを驚いた様子で、見つめた。 「アートォ・・・おまえ、何しに行ってたんだよ」 「ちゃんと護衛して参りましたw」 アートは、少し含み笑いをすると、 何もなかったように言った。 すると、その空気を断ち切るように、志爛が叫んだ。 「毛!!俺らは、自らの意思で来たんだ!!」 「話は、全部聞いたぜw」 「アートさんと二人で、頑張ってたんだってなw」 と、ついきち。 「これからは、俺達も仲間に入れてくれよなw」 と、マー。 「そうだよwこんなワクワクする戦い久しぶりだよw」 とゆず。 「みんなで、力を合わせて、戦えば・・」 「どんなに恐ろしい相手でも・・勝てるさ!」 エコは、毛の傍に歩み寄り、 いつの間にか、エコの目線の高さほど大きくなった毛の肩を ポンポンと叩いた。 次から次へと、優しい言葉が、毛を包み込んだ。 「みんな・・・すまない・・・」 毛は、頭を深く下げると、皆に感謝した。 「そんな、頭下げないでww」 と、ひめ。 「水臭いなぁーーw」 そう言いながら、ぽよも、毛に近づくと・・・ ミ(ノ>w<)ノ =3 ドテッ コケた。 「ぽよは・・・相変わらず・・こけてるな・・(汗)」 毛は、大丈夫かよと、困ったような笑いを浮かべた。 恐ろしい錬金術師のあらゆる術の話をしても、 誰も、身を引く人はいない。 逆に・・・ 皆、毛さえ見た事もない敵に、 胸をワクワクとさせていた。 もっとも恐ろしいのは、そんな皆の好奇心かもしれないなと、 毛は、この緊迫した状況下で、 こんなに穏やかでいられる仲間達に、心から感謝した。 ドドドドドド・・・ その戦いは、突然だった。 皆の笑い声と共に、遠くからの物音が聞こえてきて、 音の方向へ10人いっせいに身構えた。 「くるぞ!!!」 毛は、その気を察知し、指差した。 その先には、すさまじい竜巻が恐ろしい勢いで、襲ってくる。 「あれは、術だ!!気をしっかりもて!!!」 「少しでも、怯えたら、あの竜巻に飲まれるぞ!!」 アートは、目の前の仕掛けを素早く読み取り、 皆に、指示した。 「風の術だったら負けないんだから!!!」 そう言うと、ゆずは手を振り上げた。 黒い風が竜巻にぶつかる様に吹き荒れる。 それでも竜巻は、黒い風でさえも飲み込んで行き、 黒い風の力を吸い上げるように勢力が大きくなっていく。 「くそぉーー!!」 悔しそうに、ゆずは、自分の腕をギュっとつかみ叫んだ。 使えば使うほど勢力が増してしまう・・・ ゆずは、術が使えない事に気を苛立たせた。 「アワワヽ(□ ̄ヽ))...((ノ ̄□)ノアワワ 」 ぽよは、こけながら、逃げようとしていた。 「ぽよ!!」 ひめに、ピシッと怒られ、ぽよは、身を制した。 そう、ここで、逃げたら、 この竜巻に飲まれ、もう帰る事ができない・・。 強い強い心を―――!! 皆で、手をつなぐと、 今にも、吹き飛ばされそうな竜巻を見つめた。 「来ぉ〜〜〜い!」 と、まだ希望を捨ててない ゆずが自信有り気に叫んだ。 「鯉!(違 (>w<)」 とぽよ。 1分とたたずに、その竜巻は、砂漠の砂を巻き上げ、 目の前にまで、押し迫って来た。 そして、 恐ろしいほど勢力を上げ、10人を飲み込んだ。 目をつぶり、10人いっせいに、精神を集中させた。 この術に飲まれないようにと。 術使いのマーとゆずは、憤りを覚えた。 技を使おうものなら、この竜巻がエネルギーを吸い取り 勢力が増すばかりで手も足もでない。 じっと耐えるしかないのか・・・ 目に見えない相手・・・ そんなのいる訳がない・・・ どこかに・・・この近くにいるはずなんだ・・・! ゆずとマーは、その竜巻から出て、果てしなく続く砂漠を見据えた。 そして、敵の気を感じ取ろうとしていた。 「ねね・・ぽよぉ〜」 ひめが、砂が目に入らないようにギュっとつぶりながら、 ぽよに話し掛けた。 「(*>ω<*)モニュ?ひめぇーwどちたにょ??」 ぽよも、目をつぶり、返事をした。 「ひめwなにゅなにゅ??」 しかし、ひめから応答がない。 不安になり、ほんの少し、ぽよが目を開けた時だった。 「あれ?」 ひめの体は、底なしの砂漠の沼に埋まり、 つないだ手しか見えていなかったのだ!! 「ひめぇぇぇぇぇええええ!!!」 砂に飲まれ、ぽよが必死に、ひめの手をひっぱるが、 ひめの体は、全くビクともしない。 ひめの手は、だんだんと力がなくなり、 ダラリとさがり、力が感じられなくなってしまった。 「ここで、負けちゃダメだぉーーー!!!」 ぽよは、足をバタバタとさせて、 ひめの手を離すまいと力強く握った。 「そだ!」 ぽよは、ひめの周りを取り巻く砂を掘りだした。 しかし、掘っても掘っても、ひめの体は、更に下に下に・・・ 埋もれて行く・・・ ぽよは、助けを呼ぼうと、辺りを見ると、 志爛やついきちが、鈴を助ける姿が、見えてきた。 なんてことだろう・・・ 皆、バラバラになり、恐ろしい術に飲まれかかっていた。 毛とアートが、そんな皆をかばうように、 大声をあげた。 「この術を解くには・・・目を覚ます事が大事なんだ!!」 「心の目を!!!」 「研ぎ澄ませ・・・!!」 「全ては、幻だ!!」 毛とアートには、もう、竜巻は見えていない様子だった。 心・・・の・・・目・・? 心で、見えてくるもの・・ 皆、目を閉じ、必死に、見えないものをみようと、 精神を集中させた。 ここで、負けていられない!! 誰もが、そう思っていた。 ・・・見えた・・・! 皆は、やっとの思いで、 幻の竜巻から目を覚ます事ができた。 そこは・・・さっきと変わらない 静かな砂漠が広がっているだけだった。 ひめは、砂漠に横たわっていたが・・・ 全く意識がない・・・ 「ひめぇぇぇぇええ!!!」 ぽよの目から、涙が溢れ出した。 自分の力の弱さに・・・ぽよは、地に手をついた。 飲まれた人は、自ら目覚めない限り、 その世界に閉じ込められてしまう・・・ 鈴は、危機一髪で、脱出できたようだった。 なんて、恐ろしい術なのだろう・・・ 現実と幻の境目のような状態。 「相手をやっつけて、絶対、ひめを・・・助ける!!!!!」 ここにいる、ぽよは、もはや・・・ いつもの転んでばかりのぽよではなかった。 拳を握り締め、ぽよは、無我夢中で走り出した。 「ちょっとーー!ぽよぉーーー!待って!」 ぽよの耳には、エコたちの声が届かなかった。 ぽよの手には、大きく光る水晶・・・ いや、拳ほど大きいムーンストーンの石が光り輝いていた。 その石を握り締め、ぽよは、腕を高く高くかかげ、 願いを込めて、叫んだ。 「我に 目に見えない、未来を拒む敵を 光り示したまえ・・・!」 すると、その石から光りがもれ一筋の光りの線を作った。 「これは・・・」 毛とアートは、驚きを隠せなかった。 今まで、見たことのない恐ろしい敵が、この光りの先にいる。 皆は、ぽよを追いかけ、光りの先を目指した。 しかし、先を走る ぽよの姿が、ハタっと止まっている事に、 皆は、気づいた。 いや・・・止まっているのでなく、ぽよは、 石に変えられていたのだ。 光りの線だけが、細く導いている。 「ぽよぉーーー!」 志爛が、叫びながら、ぽよに近づいたその時、 ピカリと何かが光った。 そして、志爛も・・・石に変えられてしまった。 今の光りは何?! ぽよの手からもれている光りではなく、もっと違った光りだった。 これも、敵の術?! マーは、光りの術をうまく使い、敵の光りよりも明るい光りを放ち、 遮断しながら、前に少しずつ進みだした。 「鏡だ!!この鏡から、発せられる光りに当たると、 石に変わってしまう!気をつけろ!!」 マーは、敵の術を読み解き、叫んだ。 しかし、隙を狙われ、ゆずが・・・ 石に変えられていた。 「ゆずっ!!!!!!」 マーがゆずの方に振り返ったその時、 皮肉にも、マーへ光りが放たれた。 その光りがマーや鈴に当たってる間を使って、 ついきちは、目をギュっとつぶると、 自ら、その鏡に向かって走り、飛び込んだ。 「俺を踏み台にして行け!!」 そう言うと、ついきちは、石に変わり、 鏡にもたれるように、ガタンと崩れた。 鏡は、そのついきちの石に、 ことごとく割れ、炭のように黒くなり光りを発しなくなった。 「みんなぁぁぁぁぁあああ!!!」 エコは、次から次へと石に変えられていく仲間を目の当たりにし、 心が苦しくなった。 でも、ここで、戦いの足を止めちゃいけない。 だって、必死に戦った皆の勇気を 無駄になんて できない―――!! エコは、あふれる涙をこらえ、 石に変えられてしまった仲間達を横目に、 駆け足で走り抜けた。 残されたのは、3人だけ。 毛とエコとアートだけになっていた。 『仲間を助けるために、自らの命を投げる愚かな者たちよ・・・』 とうとう、そこには、最強に恐ろしい錬金術師の姿があった。 その姿は、長く白いヒゲをはやし、年老いた男。 杖をつき、腰がやや曲がっていたが、 錬金術師は、何とも言えないオーラを身にまとっていた。 それは、圧倒的な強さを物語っていた。 人間の格好をした恐ろしい化け物のようだった。 ここまで、これたのは、仲間のおかげ・・・ エコは、絶対に皆を助けてみせると、 腰にある拳銃を強く強く握り締めた。 「愚かなんかじゃない!!」 アートが、錬金術師の前に歩み寄った。 「相手を・・かばう気持ちが愚かな事だとしたら・・・」 「あなたが、してることは何なんだ。あんたが一番愚かだ!」 アートが、剣を振りかざそうとしたその直後、 錬金術師は、恐ろしい事に・・・ 気だけで、アートの体を吹き飛ばした。 アートは、サボテンに体を打ち付けられ、背中に痛みが走った。 「アーーートォ!」 エコは、すぐにでも、アートの所に、駆け寄って行きたかったが、 叫ぶ事しか出来ない・・・。 触れずして、一瞬のうちに飛ばしてしまった 恐ろしい錬金術師の強さを目の当たりにして、 エコは、足がすくみ、その場を動けなくなってしまった。 毛は、フワリと錬金術師の前の立ちはだかった。 「アートとエコはさがってろ!!!」 そう言うと、毛は、錬金術師目掛けて、大きな剣を向けた。 「術を使わずに、この腕で、勝負したら、どうだ?」 毛は、術なしの戦いを挑んだ。 だが、術を使わなくても、その錬金術師は、 計り知れないパワーを持っていた。 「いいだろう・・・w」 そう言うと、錬金術師は、余裕の笑みで剣を抜き、 細い目を大きく見開き、 毛をジーっと見つめた。 「私は・・・ずっと・・・あなたの魂が欲しかった・・・」 「あなたの魂ほど、強いものはない・・・」 そう言いながら、一歩一歩、錬金術師は、毛に歩み寄った。 きっと、毛の魂をうばえば、悪用するに決まっている。 老人とは思えないほどの・・ 身よけもよだつほどの恐ろしいパワーが、 青く蜃気楼のように不気味に揺らめいていた。 毛は、近寄ってくる錬金術師に向かって、 鋭い剣を振りかざした。 錬金術師は、蜃気楼のようにその姿を消した。 いや、かなりのスピードで移動したのだ。 錬金術師の速さは、毛のスピードと互角だった。 余りのスピードの速さに、 錬金術師の動きと毛の動きが全く見えない。 見えるのは、地面に映し出された影だけ。 エコは、どこで2人が争っているのか、わからずに、 瞳と首を左右に振りながら、その影を追った。 アートには、戦う様子がわかり、毛を見守るように、 じっと戦っている姿を見つめていた。 毛と錬金術師のパワーが強すぎて、豪風が、 辺りの砂を撒き散らせ、 たまに、襲ってくる豪風に、 エコは、立ってるのがやっとだった。 と、その時。 一撃をお互いにくらい、毛と錬金術師が、少し距離をおき、 向かい合っていた。 毛が、自分の左腕をかばうように、 右手で抑えている。 「毛――!!」 エコは、心配し、大声をあげた。 錬金術師も、息を切らしながら、立ち尽くしている。 毛と錬金術師は、凄まじいパワーとがぶつかり合い、 お互いに、体中に傷ができ、血が服のあちこちに、にじんでいた。 左利きの毛は、右腕に剣を持ち替えた。 それでも、左腕と同じくらいの剣さばき。 その力は互角で、 どっちがやられても、おかしくないほど。 再び、ぶつかり合い、凄まじいパワーに 空気がナイフに変わり、服が、ことごとく破れていく。 胸や肩、腕に、体中に・・・ 更に深い傷ができ、血が地面を赤く染めていく。 また、錬金術師も負けまいと、 多くの傷を作りながら反撃してくる。 敵の身にまとっていた青い光りもパワーを失ってきていたが、 毛の力の方が、すでに限界を知らせるように、 毛の気が、どんどん小さくなってきていた。 「毛―――!!もぉ・・・ヤメテ!!!!!」 「これ以上戦ったら・・・死んじゃうよ・・・!!!」 エコが、瞳に涙をためて、必死に毛に訴えかけるが、 毛は、攻撃を止めない。 毛は、最期の最期まで、戦うつもりだった。 毛は、錬金術師が発した爆風と共に、 体を飛ばされ、近くの大きなサボテンにぶつかり、崩れ落ちた。 それでも、毛は、フラフラと立ち上がり、 もう一本の腰に装備されている剣を持ち、錬金術師をにらみ付けた。 今の激風でパワーをだいぶ消耗してしまったのか錬金術師も、 足元がふらついている。 しかし、それでも、アートやエコが全力で戦ったところで、 倒せる相手ではない・・・ そんな時だった。 アートが、毛と錬金術師の間に立ちはだかった。 「これは、私の・・・とっておきの術です!」 「エコさん!毛さん!さがってください!」 「というより、ここから、お離れ下さい!!w」 アートは、そう言うと、いつもの笑顔を向けた。 「アート!!!おまえ・・・まさか・・・!!ヤメロ!!」 毛が、アートの術を阻止しようと、したが、 すでに、アートは、瞳を閉じて、呪文を唱えていた。 アートは、呪文を唱え終わると、振り向き、 優しくエコに言った。 「毛さんの隣にいるべき人は、私じゃない・・・」 「あなただ・・・w」 「ぇ・・・」エコは、言ってる意味がわからなかった。 アートは、エコを優しく見つめると、 赤い瞳を細め、微笑んだ。 そして、紅の鋭い目で睨みつけながら、 ものすごいスピードで、錬金術師へと向かっていく。 アートは、仲間を守るため・・・ 敵と共に、自爆するつもりだった。 アートは、初めて、毛と出会った事を思い出していた。 『死んだら、己だけだ』 と教えてくれた その言葉の意味がようやくわかった。 もっと、大切なものが、何なのか・・・ やっと、わかった・・・ 己とは・・・心の事。 共に生き、共に助け合い・・ 共に信じること・・・ それが、どんなに大切かを・・・ 毛さんは、私に、生きる意味を教えてくれた。 私は、大丈夫。 なぜなら・・・ たとえこの命が尽きても、 人を信じる心を覚えた この心だけは決して失わないから―――。 アートは、錬金術師の所までたどり着くと、 親指で、自分の胸・・ いや、心をつつき、 毛に向かって微笑むと、ゆっくり頷いた。 『・・・これで、いいんだ・・・』と。 その笑顔が、毛とエコが見た最後のアートだった。 錬金術師とアートは、光に包まれ消えていった。 凄まじい爆風と共に、地をえぐられ、砂が飛び散る。 体を突き刺すように飛んでくる砂に、 エコは、腕で、顔を覆い隠すように、必死に体をかばった。 エコが、その爆風で吹き飛ばされそうになったその時だった。 毛が、エコの体を包むと、空高く飛び上がった。 徐々に、爆風が弱まっていく。 「アートォォオオオオオ〜〜〜!!!」 嗚咽と共に、エコの声が砂漠に響き渡った。 エコは、目の前の出来事が、信じられなかった。 新しく心を入れ替えて・・・ 多くの夢や希望があったはずなのに・・・ もっと、もっと、生きていくはずだったのに―――!!! エコは、涙で視界がぼやけていった。 アートは・・・心から信じられる仲間だった・・・。 エコの瞳から次々とあふれる涙が、 風にのってキラリと光り、落ちていった。 爆風で全て吹き飛ばし、 えぐれた大地を 毛とエコは、見つめ、 しばらくの間、立ち尽くした。 凄まじい爆発で、アートの姿も錬金術師の姿も・・ 微塵も残っていなかった・・・ 大きくあいた大地に、風が吹き、 サラサラと砂が落ちて行く。 「ぁ・・・」 エコは、手のひらをかざし、空を仰いだ。 どこから ともなく・・・ 降るはずもない砂漠の空から雪が降り出した。 ・・いや・・雪じゃない・・・ 桜の花びら それは、アートが、毛とエコのために贈った最期の術だった。 エコと毛のこれからの人生を祝うかのように、 キレイな花吹雪が、チラリチラリと、 いつまでも2人の間を舞っていた。 毛の頬から、静かに一筋の涙が こぼれ落ちた。 錬金術師は、やはり、アートと共に、死んだようだった。 その証に・・・ 石になった、皆が、次々と色を取り戻し、 息を吹き返した。 「あれ?!」 「俺らw助かった?!」 「ってことは、敵を倒したんだなっ!!w」 ついきち達の歓声が砂漠に響き渡った。 ひめも、さまよい続けていた世界から目覚め、 ゆっくりとその瞳をあけた。 「ひめぇぇぇ〜〜〜〜(;m;)」 ぽよは、目覚めた ひめを見て、 今にも泣き出しそうな声をあげた。 「みんなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!」 それは、遠くから、大きく両手を振りながら、 仲間の元へ走ってくるエコの姿だった。 気がつくと、桜の花びらが毛の傷を癒すかのように、 すっかり、傷がなくなっていた。 皆も、毛とエコへと、足を走らせ、 「助かったぁー!」と、大喜びで、二人を取り囲んだ。 「敵を倒せたのも、皆のおかげだよぉーー!」 エコは、両手を大きく広げて、 抱きしめあった。 エコの隣で、毛も、皆にとても感謝し、深々と頭を下げた。 「そして・・・アートのおかげ・・・」 少し声のトーンを落として、エコは、うつむいた。 皆は、アートの姿がない事に気づき、 周囲をクルクルと見渡した。 「アートは・・・アートはね・・」 「アタシ達を最期まで守ってくれたんだ・・」 エコが、アートの事を話すと、 誰もが、頬に涙し、嘆き悲しんだ。 そして・・・空を仰ぎ、黙とうした。 魂が・・・空高く上って行けるようにと・・・。 そして、これからも、ずっと・・・忘れない。 あなたがいた事を―――。 みんなの心にも、残っていく・・・ アートが、どんなに強い力や心を持っていたと言う事を・・ どんなにいい仲間だったかと言うことを・・・ エコは、手のひらにある小さな桜色の花びらを ギュっと握り締めた。 いつの間にか、朝焼けが空に広がり、 鳥達が大空を羽ばたいていた。 ・・・翌朝・・・ 「志爛w俺らはw風向きの方に旅するかぁーw」 と、ついきちは思いついたように言うと、 志爛と肩を並べ、皆に手を振り去って行った。 「またなw」 明日会うような・・・そんな感覚で、 簡単な挨拶をかわしながら、笑顔で、手を振り、 仲間達は、それぞれ、自分のいるべき場所へ帰って行った。 そして・・・エコも、自分のいるべき場所を やっと探し出した。 アタシがいるべき場所は・・・一つだけ・・・ 「毛ぇーーー!!待ってよぉ〜〜〜」 エコは、毛の黙々と歩き続ける背中を あの日のように、追いかけた。 『毛の隣にいるべき人は・・・』 『・・・アタシなのだから・・・』 エコは、アートの言葉を思い浮かべ、 少しだけ振り返り、微笑んだ。 アート・・・あなたより、ずっと強くなるんだからw エコは、毛と肩を並べると、まっすぐ前を見て、 どこまでも続く砂漠の大地を力強く歩き出した。 どこへ行っても、 何が起こっても、 乗り越えられる気がした。 だって・・・ アタシの隣には・・毛・・・ アナタがいてくれる・・・ ・・・それに・・・ 遠く遠く離れているけど・・ たくさんの仲間がいる・・・w エコは、皆の笑顔を胸に思い浮かべ、 心から信じられる仲間の素晴らしさを知り、 改めて、心に深く刻み込んだ。 この青い空の下には、 決して目には見えないけれど、 切れることのない 深く強い絆があるという事を―――。 ― END ―   メニュー
♪天の川幻想
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