『 迷路の罠 〜深 雪 』



あれから、ぽるるは刑事としての無事に任務を終え、
長く勤めた警察署を出た。


そして、再び、ぽるるは自分の力で何かできないかと、
一羽だけで探偵事務所を設立した。






それは、大通りを曲がった小さな路地裏に、
ひっそりと、その探偵事務所はあった。






沢山の不安はあったが、設立後、
とても優れた刑事だったという噂は、
もんごの世界にすでに行き渡り、
あらゆる人から、信頼され、沢山の依頼が舞い込んだ。



こんなにも事件が多発する世の中に、
ぽるるは、決して背を向ける事はなかった。



依頼者の期待に少しでも応えようと、
毎晩、寝る間を惜しんで働き続けた。



・・・しかし・・・


今まで、沢山の難事件を解決してきた ぽるるだったが、
たった一羽で経営することは、多大な能力と時間が必要で、
限界が見えていた・・・。





やっと、一区切りつき、
ぽるるは、疲れた羽をいたわる様に
ソファーにもたれかかり、ため息をついた。




家に帰る時間すらない ぽるるは、
毎晩のように、探偵事務所に泊り込んでいた。




すでに、夜中の2時を回っている。




ぽるるは、次から次と来る顧客に、
頭を悩ませていた。



これ以上、事件を抱える事は困難だった。



24時間、探偵事務所に、数知れない訪問者があった。



夜中でも、そのドアが叩かれる事はしばしばだった。





トントン。トントン。


「こんな夜更けに・・・申し訳ございません・・・」
「急ぐんです・・・私の・・・孫を助けて欲しいのです・・」
「警察にも通報しましたが・・・捜査が、うまく進まない状態で・・」
と、重くのしかかった年配の男性の声が聞こえてきた。




「申し訳ない・・・残念ですが、お引き受けできません・・・」

「お引取りください・・・」

ドア越しに、ぽるるは、静かに息を詰まらせ答えた。




「お願いです・・・!!」

一羽の鳥は、ぽるる探偵事務所のドアをしきりに叩く。





こんな夜中に、
その老いた鳥を放っておけず、
ぽるるは、ドアノブをそっと回した。



遥々来た年配の鳥を見て、ぽるるは苦しい表情をした。


睡眠も取らずに、この探偵事務所を頼って、来てくれたのだろう・・・


疲労の色が、年老いた鳥の表情から伺え、
足元は、ガクガクと震え、疲れきった足取りだった。


困り果て、わざわざ遠方から訪ねて来たらしい。



ぽるるは、事務所に招きいれた。



「少し、ここで休むといい・・・w」

ぽるるは、ふかふかのソファーに案内し、
暖かいコーヒーを入れ、老人に手渡した。



「失礼ですが、何てお名前ですか?」

老人は何から話せばいいのか、わからず、
オタオタとして、落ち着かない様子だった。



「ぁぁ・・・私は、ハーウェルと申します」


「私のせいで・・・・ぅぅぅ・・・」


耐え切れず、ハーウェルは、顔を覆い泣き出した。


その様子をぽるるは見つめ、静かに言った。


「ゆっくり・・お話ください」



ぽるるは、沢山事件を抱え、パンク寸前だったが、
見過ごす訳にはいかなかった。


ハーウェルは、気持ちを落ち着かせると、
少しずつ、話し出した。




「数日前です・・・」

「私は、孫のクレハを連れて」

「近くの島まで遊びに出かけた時の事です」




突然、大きな拳銃や爆弾を持った鳥達に囲まれ、
お孫さんを連れ去られたと言う。


連れ去られた現場は、鳥の行き来もあまりない島。



それが、何の団体なのか・・・

なぜ、何の為に、孫が連れ去られたのか、


全く判らない。



近所鳥達や警察にも伝え、捜索しているが、
もう、ここ数日、孫 クレハは行方不明のままだと言う。

脅迫状さえもない。




ハーウェルは、少しの助かる見込みがあるならと、
ぽるるの探偵事務所を訪ねたと言う。



だいたいのケースは、このパターンだった。



警察もお手上げ状態の未解決事件が、
ぽるるの探偵事務所に回りまわって依頼されてくるのだ。



「わかりました。必ず、お孫さんを助けますよ」
「詳しい事は、明日、お聞きします」

「今日は、ここで、ゆっくりお休みください」



ぽるるは、優しくハーウェルの手を優しく握ぎり、言った。

「ご安心ください。必ず、助けます」



「お孫さんが助かる前に、あなたがバテちゃいますよ」




深夜の3時を過ぎていた。


ぽるるは、静かに明かりを消し、冷たい床に座り込むと、
仕事机に もたれかかった。



すぐに寝付けず、
真っ暗な天井を見つめていた。




沢山の事件を抱えていたが、ぽるるの頭には、
ある一羽の男性が脳裏から離れなかった。




この数年、一度たりとも忘れたことがなかった・・



共に助け合い、共に分かち合ってきた友人、六郎。



そして・・・数年前、ぽるるが解決した事件の犯人。

正しく言えば、共犯だった。




六郎は、罪を償うため、懲役3年の刑を受け、






・・・そして・・・



明日は・・・とうとう・・・



待ちに待った、六郎が出所する日だったのだ。




ぽるるは、カーテン越しに、
朝日が登り、薄っすら明るくなるのを
今か、今かと、待ちわびていた。







早朝、ぽるるは、ハーウェルを起こさない様に、
静かに、事務所を出ると、刑務所の門の前で六郎を待った。


空は、雲が少なく、いつもより高く感じられ、
水色に晴れ渡っていた。


懐中時計の針が9時を回っていた。


時計から目を離した時だった、
遠くから、六郎が歩いてくる姿をぽるるは発見した。



少しずつ近づき、大きくなっていく六郎の姿。




3年間、ぽるるは、今日という日を待ちわびていた。




ぽるるは六郎から目をそらす事無く、じっと門の前で待った。



六郎は、ぽるるの目の前まで来ると、深々と頭をさげた。



ぽるるは、六郎に近づき、一言、優しく言った。

「おかえり・・・w六郎・・・」




多くの言葉を交わさなくても、俺たちには、
お互いがよくわかっていた。



「本当に、すまなかった」
そう言うと、六郎は頭をあげ、ぽるるにニッコリ微笑んだ。



ぽるるは、六郎と本当の再会が出来たのだと、心から喜び、



六郎の笑顔に、ぽるるも微笑んだ。



この数年、六郎も自分のしてきた過ちを見直し、
友情とは何かを知った。


ぽるるは、本当の友だったと・・・深く反省した。



そして、やり直すことができて、
本当に良かったと、六郎もまた心から喜んでいた。




「なぁ、六郎、俺の探偵事務所で働かないか」
「また、一緒に、六郎とやっていきたいんだ」



「それに、もぉ・・・」
「依頼が多すぎて、俺だけじゃ・・手におえないんだ・・」




「また・・・一緒に事件追わないか?・・・」



直感で事件を解決していく ぽるるとは逆に、
六郎は、論理的に事件を解決していく
頭のよさを持っていた。




「俺には・・・」





「六郎・・・おまえの力が必要なんだ・・・」






「頼む・・・!!」




ぽるるは、六郎の目の前に立つと、頭をさげ、お願いした。




「頭をさげるのは、こっちだよ」



「ぇ・・・?」
ぽるるは、六郎の言葉が一瞬わからなかった。









「これからも、よろしくだwぽるるw」

六郎は、ジョーダンめかすように、
ぽるるに負けないくらい深く頭をさげた。




「おいおいwww」

「先にこっちのセリフ取るなよwww」

ぽるるは、六郎の肩をポンポンを叩き言った。



俺たちは、昔のように笑い合い、
離れていた時間やすれ違っていた時間が、
全くないかのようだった。



・・・いや・・・昔よりも、もっと、もっと、
お互いが信頼された仲になっていた。







ぽるるは、いつも、ポケットに大事に忍ばせていた
懐中時計を出し、六郎の手にそっと渡した。




「ほらよ・・・w」





それは、いつも、六郎が、大事にしていた懐中時計。



あんなに、六郎はいつも持ち歩いていた懐中時計を
失踪時、忘れていっていた。


そして、ぽるるは、六郎が必ず生きていると信じ、
この懐中時計を大切に持ち、

懐中時計を見るたびに、六郎の事を考えていた。








でも、もう、俺が持っている必要はなくなった。




だって、六郎、おまえがここに居るのだから・・・w








「・・・ぁ・・・これは・・・」

六郎は、懐かしいといった表情を見せ、
大事そうに、そっと、ぽるるから受け取った。



「コイツ・・・wまだ・・・動いてたんだな・・・w」

六郎は、懐中時計の蓋を開けると、嬉しそうに微笑んだ。




「お前に似て、頑丈だからなw」

「その懐中時計は、意地でも動き続けるさw」


そう言うと、ぽるるは、六郎に突っ込まれる前に空に飛び立った。



「ぽるる!w言ったなぁーー!w」



ぽるるは六郎の事を心配して、ずっとこの懐中時計を持っていたが、
その言葉を言わず、たわいのない言葉を六郎に投げつけるのは、
ぽるるの照れ隠しだと、六郎にはわかっていた。



そんな態度を取る ぽるるの心の優しさを一番理解できるのは

・・・六郎・・・たった一羽だった。



そして、六郎にとっても、
ぽるるは、たった一羽のかけがえのない友人だった。






六郎は、空を飛ぶぽるるの後を小走りに追いかけた。




そして、懐中時計をギュっと握り締め、
前を飛び続ける ぽるるの背中に大声で叫んだ。







「ぽるる!・・・ありがとな!」



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♪森の時計台
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