「 永遠の十字架 」






神に立ち向かった一羽の女の子がいた。






その少女の名は、ぽろろ。



絶対背く事のできない神の存在に、
ぽろろは、たった一羽で立ち向かった。



想像のつかない戦いに
誰もが息を飲み、目を見張った。







誰もが、背中に十字架を背負っている。







なぜなら



罪と言う名の過ちを・・・繰り返す事。







・・・それが・・・






・・・生きると言う事だから・・・










ぽろろは、神の手から作り出された
花の精だった。


島にたくさんの花を咲かせ、
色とりどりの花たちを見守り、育ててきた。



花たちは、色鮮やかに咲きほこり、
ぽろろにいつも感謝していた。


そんなぽろろは、いつも花たちに微笑み、
花たちに大きな愛情を注いでいた。


ぽろろの愛情を受けて、すくすくと育っていく花々。



その中でも、ぽろろが特別大事に
育てている花があった。



それは、バラの花。




・・・なぜなら・・・



その姿は気高く、美しい。

そして・・・あまりにも、はかなげに見えたから。






茎には沢山のトゲを付け、
まるで、強い自分を守っているように・・・




誰にも頼ることなく、凛と咲いていた。







ある日、ぽろろが、
そのバラの手入れをしていた時だった。



「・・・いたっ」


つい、よそ見をして、
羽にトゲが刺さってしまった。




バラが咲き乱れている、ちょうど真ん中の所に、
一羽の鳥がうずくまっていたのだ。



いや・・・うずくまっているのではない。


小さな・・・生まれたばかりの小鳥。




ぽろろは、目の前の小さな命にそっと話し掛け、
羽を差し伸べた。


「どうして・・・こんな所に・・?」




少し羽を伸ばしただけで、
羽に何本かのトゲが刺さった。

「いたたっ!」



まるで、バラたちに守られているようだった。




小鳥は男の子で、
ふわふわの羽に包まれ、
つぶらな瞳で、
ただじっとバラの花を見つめていた。



「アタシは花の精だよww」


「ほらwww」

ぽろろがバラのつぼみに翼をかざすと、
フンワリとその花は咲かせた。




「(b'v`*)ね☆」
ぽろろは、優しく微笑んだ。



男の子は笑う事もなく、
視線を合わせる事もなく、
じっと身を固めたまま
その場で寝てしまった。






普通の鳥には、妖精の鳥である
ぽろろの姿が見えなかったのだ。



その事は、ぽろろにもわかっていた。





それでも、ぽろろは その不思議な男の子を見つめ、
微笑んだ。




空を仰ぐと、灰色の雲が空を覆っていた。





しばらくすると、案の定、雨が降り出した。




ぽろろは、雨に濡れないよう、
男の子の上にパラソルを立てた。





母親から離れてしまい、
迷子になったのだろうか・・・


まさか、あえて、
母親がココに置いて行ったんじゃ・・・


茂みに隠す理由があるのだろうか・・・


誰かに追われてるのだろうか・・・



しかし、身を隠すには、絶好の場所とは言えない。




ぽろろの脳裏にいろいろな思いが巡る。






なぜ・・・ここに・・・きたの?






地は雨に濡れ、湿気を帯びた空気が、
バラの香りをいつも以上に、
周囲にフンワリと漂わせていた。







「雨、早くやまないかなぁ〜」
ぽろろは、寒そうにしている男の子を見つめた。




5月のまだ冷たい雨が男の子の体を冷やしていく。



ぽろろには体温も、温度の感覚もわからない。



少しでも暖かくしてあげようと、木の葉を集め、
目を閉じ、うずくまる その男の子の周りに
チラチラと降らせた。



男の子は、ブルブルと体を震わせ、
かすかな温かさを感じながら、
眠りに落ちていった。




「暖かい?」


「バラさんも守ってくれてるよw」


いつもより凛と咲いているバラを
ぽろろは、そっとなでた。




「そだ!」

「果物もって来るねw」


ぽろろは、木の上にフワフワと飛び、
木の実を沢山両手いっぱいに取ると、
眠る男の子のそばにそっと置いた。






ぽろろの存在すら、気づかなかず、
決して返事が返ってくる事もなかったが、
それでも、ぽろろは男の子に沢山話し掛け、



いつまでも、その男の子のそばに座り、
見守っていた。







数日が経ち、
暖かい木漏れ日がこぼれる昼下がり。


ぽろろは、ある異変に気づき始める。

男の子の成長が、あまりにも早すぎるのだ。



日を追うごとに、みるみる間に成長していく。


羽も、はえそろい、身長が高くなり、
顔が、バラからチラっと見えるほどに・・・。




男の子が見下ろせる
高い木の枝に腰掛けていたが、
突然、ぽろろは身を乗り出した。



なぜなら、

眩しそうに目を細めながら、
男の子がゆっくりと、
バラの茂みから這い出てきたのだ。



「ぁ!!」
「トゲ!!大丈夫だった?!?!」

ぽろろは、咄嗟に駆け寄り、
話し掛けた。




男の子の体に傷一つなかった。


バラたちがまるで、
男の子を優しくかばうように、
外に出られるほどの
小さな いばらの道が出来ていた。




男の子は、ぽろろを見るなり、
羽ををパタパタのさせながら、
すごい勢いで、走って行った。





・・・・は?・・・・






ちょwwwww


ちょっとまってよーーー!







男の子の頭上をぽろろは、
パタパタと飛びながら、
話し掛けた。


「待って!!!待ってよ!!!」

「アタシの事見えるの?!」





ぽろろが男の子の肩をつかんだ その時だった。


「なんで、俺ばっかりかまうんだよ!」


男の子はそう、確かに叫んび、
ぽろろの羽を振り払った。




ぽろろは、驚いて、目をパチクリさせ、
つかんだ その羽をそっと下ろした。




そして、優しくそっと、問いかけた。



「もしかして・・・」
「アタシの事、ずっと見えてたの?」


「な・・・なんで無視してたの〜;」
と、ぽろろは、ガッカリした表情を見せた。




「そんなの、どうでもいいだろっ」
素っ気無い態度を取り、男の子はそっぽを向いた。




「・・・・・・」


そんな男の子の姿に、
ぽろろは、ふぅ、とため息をつく。





気持ちを落ち着かせ、再び話し掛けた。

「ねね、ずっと、バラ園で身を潜めてたけど・・・」
「誰かに追われてるの・・・?」


「安心してwアタシはアナタの味方よw」




「花たちもアナタの味方みたいww」
そう言い、ぽろろは、周りを見渡した。




ぽろろだけにはわかる。


周りの花たちが、男の子に微笑んでいる。


『ようこそ』って・・・w






「アタシは、花の精wwぽろろ☆」


「でも・・・アタシの姿が見えるなんてーw」

「驚いたぁぁ!!w(*’v`*)☆+」



「って事は・・・あなたも妖精なのっ?!」



男の子は、ぽろろのその言葉に、一瞬ビクっとさせ、
ぽろろを見上げ、鋭い目つきで睨んだ。




ペラペラと話しすぎたのだと、
ぽろろは、両羽でクチを押さえた。





「・・・ぁ(><;」


「ごめんなさいっ!」



「アタシばっかり話ちゃって;」




ぽろろが羽をパタパタとさせ、慌てて謝っている傍で
男の子は、ふっと寂しげな表情に戻った。





涙を流している訳ではなかったが、
心が泣いているのが、
ぽろろには、わかった。






・・・まるで、迷子のような表情だったんだ・・・








よく見ると、
男の子は、よくあれだけ走れたと思うほど、
やつれ果て、とても衰弱していた。






「・・・もう、大丈夫だよ・・・」

「・・・大丈夫・・・」



ぽろろは静かに、何度もそう言いながら、
今にも崩れ倒れそうな男の子の肩をそっとなでた。






こんな小さな体で、



大きな物を背負っているかのように見えた・・・









・・・アタシが守るから・・・






ぽろろは、そう、心に固く誓った。




誰に言われた訳ではなく・・



そう、しなきゃって思った。






なんでだろう・・・



心から素直にそう思えたんだ・・・










・・・そう・・・




・・・アナタを見つけた あの日から・・・








太陽が真上をさし、
暖かい南風と草花の香りがフワリと2人を包んでいた。







その男の子は、『ルカ』と言う名だった。


茂みでよくわからなかったが、
フワフワと風になびく、
とても綺麗な灰色の羽を持っていた。



ぽろろは、自分の家にルカを招待し、
そこで暮らすようになった。




花に囲まれ、暖かい日差しの中、
ルカの表情は、あの日出会った時と変わらず、
固いまんまだった。



変わったのは、容姿。


あれから、数ヶ月。


ルカは、18歳くらいの年頃になり、
ぽろろよりも大人に見えるほど
成長していた。




時折、一瞬、大人びた表情を見せる。


その表情にドキっとさせられる。





体は成長していても、心は子供のままなのに・・・


いったい、何をかかえてるんだろう・・・?







ぽろろが花の世話をしている間、ルカは、
真っ青に広がる草むらの上に転がり、
ただ、ボーーと空を眺めていた。



時間がたって、毎日を楽しく過ごしていけば、
きっと、ルカも明るくなるに違いないと、
ぽろろは信じていた。


だから、何も聞くことはなかった。



異常に成長してる事も。

あんな小さな赤子だったのに、
自分の名前を知っているという事は、
ぽろろと同じ妖精ではないか、と言う事も。



なぜ、ココに来たかと言う事も。

なぜ・・いつも寂しげな目をしているかと言う事も・・・




いっぱい、いっぱい聞きたい事があったのに





何一つ聞かずにいたんだ。






ルカの表情はなかなか変わらないが、
明るく振舞う ぽろろに、
ほんの少し表情が緩み、
ニッコリ微笑んでくれる時があった。



些細な事だったが、
ぽろろは、それが嬉しくて、
思いっきり大きな笑顔で、
ルカへと走り出した。



ルカはよく、真っ赤なチューリップが咲く丘で、
空を眺めている事が多かった。




「ルカーーー!!!w」

「お花のお世話終わったよぉ〜〜〜☆」




ぽろろの声に振り返る事もなく、
空を見続けるルカの顔の真上から、
ぽろろが覗き込む。



ルカは、また重々しい表情。




しかし、それを無視するかのように、
ぽろろはルカに明るく話しかける。




「空キレイだね!w」





そんな ぽろろに構わず、
また、何か思いつめるような表情で、
ルカは空を見つめていた。




ぽろろは、話しかけるのを あきらめて、
ルカの隣にゴロンと寝そべってみた。



ルカと同じように行動していれば、
ルカの気持ちが少しでも
わかるかもしれないと思ったから。





「空の向こうって何があるんだろー・・」



「空のずーーーと向こうまで、
飛んでいけたらいいのにねw」



独り言のように、ぽろろは言う。




いつもなら、「んー」としか言わないルカが、
めずらしく言葉を返してきた。




「みんな・・・そう・・・」


「つかめない物ばかり欲する」








「・・・届かないから・・・」




「・・・空を求める・・・」









「俺は・・・背伸びはしない・・・」

「ただ・・・平凡な日々をただ送りたい・・・」



空をまっすぐ見つめ、静かに話すルカの横顔を
ぽろろは、しばらく見つめていた。





ぽろろは、再び青く透明な空に目を移し、
重い空気を振り払うように、
「んーw普通の幸せかぁ〜〜w」
「手に届くものも大切だもんねっ!w」
と、明るく答える。






ルカの悩みが、アタシの明るさで飛んでいくのなら・・・


少しでも、軽くなるのなら・・・

少しでも、忘れられるなら・・・


いくらでも、楽しく振舞うよ。







ルカと過ごす時間は、
ゆっくり時が刻まれているような感じがした。




少しずつでいい。



一歩ずつ、近づいて行けたらいい。




ルカが抱えている苦しみが何なのかさえ
わからず・・・



聞いて、すぐに理解できるほど、
簡単なものじゃないかもしれない。





話してくれないのなら、待ってみるのもいい。





いつか話してくれるまで、待てばいい。










久しぶりにゆっくり眺める空は、真っ青で、
薄っすら広がる雲が、風に乗ってのんびり流れていた。










ぽろろは、ルカに手が届かない自分と重ね合わせるように


そっと、翼を青空へ伸ばしてみる。





・・・・ ねぇ・・・・


・・・ルカ・・・




・・・すごく・・・すごく遠いよ・・・







・・・平凡な幸せ・・・



・・・届かないから・・・求める・・・





あの日から、ルカが言った言葉が、
ぽろろの心の中で何度もリフレインされる。





こんなにも近くにいるルカが遠い。


心が離れている。





アタシの気持ちに気づかないふりをしてるの?


ルカの気持ちがわからない。





届かない自分の気持ち。






こんなにもルカに執着してしまう

自分にも、わからない・・・










結局の所、知っているのはルカと言う名前だけ。

その他には何も知らない。






何も教えてくれないルカ・・・







わからないんじゃない・・・




わかろうとしていなかったんだ。




今まで、目をそらしていた。

本当の真実を知るのが怖かったから・・



肝心な事を何一つ聞いていなかった。





アタシは・・真実を聞くことを・・さけていたんだ。








灰色の雲が空を覆いつくし、肌寒い風が吹きぬける日。



そんな日も、花への気配りは欠かさない。




気分が乗らなく、ぽろろとルカは
今にも雨が降り出しそうな空を見上げながら、
花園への道を歩いていた。





しかし、

ふと、ルカの足が止まった。







『コワイよねぇ〜〜〜』



『ぽろろちゃん大丈夫かな〜?』


『わ!こっち見てる!あっち行こう!!』





遠くで騒ぎ立てる、島に住む妖精達の声。




初めは、仲良くしていた妖精たちも、
最近では、ルカの異常な成長と恐ろしいウワサに
妖精たちは怖がり、
だんだんとルカに近寄らなくなってしまったのだ。




悪魔に雇われた妖精だとか・・・



妖精を殺してしまうとか・・・





恐ろしいウワサばかり流れていた。




「き・・・気にしないっ!気にしないっ!」
ぽろろは、ルカの様子を気遣い、
ルカの肩をポンポンと叩きながら、
ぽろろは励ました。




「なぁ・・・ぽろろ・・・」

「なんで、こんなに俺にかまう・・・」




「俺なんて、いない方がいいんじゃないか?」


「ぽろろまで、皆と仲良くなれないじゃないか・・・」


目を伏せがちで、ルカは、すまなそうに
トーンの低い声で、問いかけた。



「そんな事ない!!!」

「もう、今みたいな事言ったら!」

「許さないからね!!!」


明るく威勢のいい いつものぽろろの声に
少しだけ、ルカの表情が緩んだ。





ぽろろは、優しい笑顔をルカに向け、
ルカの羽を取り、いつもの花園へと連れ出した。





冷たい風が吹く中、

ぽろろは、駆け出していく自分の気持ちに気づいたんだ。







ルカの羽の温かさを感じながら、


ぽろろは、心の中で、そっと呟いた。









・・・ルカのこと・・・




・・・放っておけないのは・・・












・・・アナタが好きだからだよ・・・






こんな寒い日に、



こんなにも・・・心が暖かい。




ぽろろは、確かなルカへの気持ちに、
ルカの羽を強く強く握った。




・・・決して・・・離れないように・・・







知らないうちに、ポツポツと雨が降り出していた。



ぽろろとルカは、ブルブルと濡れた体を振るわせ、
雨粒を取ると、大きな木の下で雨宿りした。



雨にシトシトと濡れる花々を見つめながら、
大木に腰掛けていた。






決心がついたように、ぽろろは、
まっすぐルカを見つめ、問いかけた。



「ねぇ〜ルカ?」


「ずっと・・・ずっと・・・聞きたかったの」



「ルカの事・・・教えてよ・・・」


「アタシ、ルカって言う名前しか知らないんだよ?」


「ね、お願い・・・教えて」


「本当は、何者なの?」







「・・・」
ルカは、ぽろろに視線を移すことなく、
じっと、花々を見つめたまま、
うろたえていた。




「・・・やっぱり、ぽろろもウワサとか信じてるの?」


「・・・俺が・・・コワイ?」


ぽろろの問いに、ルカは更に問いで返す。




「ち・・・違うよ!!!!!」


「アタシは、本当の事が知りたいだけだよ!」





「本当のルカを知りたいんだよ!」



「ウワサなんて、信じない!」




「アタシは、ルカが言った事だけを信じるよ!」


ぽろろは、真剣な眼差しをルカに向け、
大きな声を張り上げた。




「・・・そか・・・」
ルカは、そのぽろろの言葉に、静かに答える。




「じゃあ・・・言うよ」




「ウワサは、本当だよ」と。






ぽろろの頭は真っ白になった。




何て、ルカに話しかけたらいいのか、わからなくなった。





「・・・そ・・そんなのっ!」


「・・・ウソだよ!!!」



気が動転し、咄嗟に、そう声を上げていた。








「・・・俺の言う事を信じるんでしょ?」


「それが真実さ」





混乱するぽろろの隣りで、
ルカは、再び、雨粒で揺れる草に視線を移した。












二人の間に、雨音だけが響いていた。







全ての事をルカは話してくれた。




ゼロに戻せない世界で、ルカは、
全てを捨ててゼロにできるチカラを持っていた。


全てを破壊できるチカラ。


それは、神さえも恐れるチカラだった。




全てが破壊され、リセットされる。



空白の世界。



全ての物がなくなる。



空虚な世界。




ルカは、それを作る事を使命とし、
実行するべきして、
この世に生まれた
たった一羽の妖精だったのだ。







ルカは自身さえも失くし、
必死で全てを失う覚悟をしていたのだ。




・・・しかし・・・



全てをゼロにする事はできなかった。






・・・なぜなら・・・






・・・ぽろろ・・・



・・・キミに会ってしまったから・・・







ぽろろは、全てを知っても、
決して、ルカの側を離れなかった。



いや、以前よりも、側にいるようになった。



そして、いつものように明るい笑顔をルカに向けた。



「ねー!ルカ、約束!ってか・・・お願いっ!」


ぽろろは、ルカの羽を優しく取った。


「ルカの使命の事は、よくわかんないっ(ぉぃ」


「でも・・・でもね・・・」

「ルカが使命を果たす その瞬間まで」

「一緒にいさせて・・・」




「ね・・・?」

「この世がなくなる寸前まで!」




「ずーーーと、ずーーーとっ!」

「一緒にいようね・・・w」




「約束げんまんっ!うそ〜〜ついたら〜〜♪」

「針千本〜〜〜♪の〜〜〜ますっ♪」




「ちょwwwまてwwwおいっ!w」


明るいぽろろの歌声に、ルカは優しい笑顔を向けていた。

ぽろろに全ての事を打ち明け、
それでも側にいてくれる ぽろろが愛しい存在になっていた。





その気持ちをルカも、ぽろろに伝えたかった。







しかし、それは許されない事だった。






・・・なぜなら・・・
ルカがこの世に誕生し、
大切に想える鳥と、想いがつながった時、
この世界は全て破壊される運命だったから・・・





決して、届かない想い。




いや、届けてはいけない想い。






ルカは、初めて心の痛みを知った。



こんなにも痛いものかと。



ルカは、ぽろろに気づかれぬよう、
コブシをギュっと握り締めた。




たとえ、想いが届かなくても、


ぽろろと一緒にいたい・・・


せめて、この命が尽きるまで・・・





この世をなくす使命なら、
使命を放棄すればいい。






ルカは、生まれてきた使命すら
なければ良いと思うようになっていった。





ルカは、隣りで無邪気に笑顔を向けるぽろろに、
優しく微笑んだ。







しかし、穏やかな日々は、長く続かなかった。



「ル〜〜〜〜カッ!w」

見上げるほど大きく成長したルカに、
ぽろろは背後から抱きついくる。




「おいおい、やめろよっ」



素っ気無い態度で、自分の気持ちを隠す。




「むーーwいいじゃ〜〜んw」


ぽろろは、それでも明るく振舞ってくる。




ルカの使命の話をまるで聞かなかったかのように、
毎日、明るく、楽しく振舞う ぽろろの姿を見るたびに、
ルカは心を痛めた。







それが、ルカにとって、どんなにツライ事か・・・





想いが繋がった時、この世がなくなるとは知らない
ぽろろには、全く分からなかったのだ。












出会ってなければ、




こんなに苦しむ事はなかったのに。








・・・でも・・・




今なら、思える。




出会ってくれて、








・・・本当に、ありがとう・・・






























−−−だから−−−












さようなら。

















ぽろろが寝静まった深夜、

「あの指きり、約束守れなくて、ごめん・・・」

スヤスヤと眠るぽろろの寝顔を見つめ、
静かに そう言うと、
ルカは、そっと、ぽろろの家を出た。







翌朝、ルカがいない事に気づき、
カンカンと照りつける太陽の下、
ぽろろは、島中、飛び回った。


「ルカーーーーーーーーー!どこーーー!」




昼が過ぎ、太陽が沈み、だんだんと空が紫色に変わり、
夜が更けていく。





ぽろろは、羽を休める事なく、飛び続けた。







「ルカーーーーー!!!」



「どこにいるのぉーーーー!!!」



「返事してぇぇーーーー!!!」





すっかり夜が更け、辺りは真っ暗になり、
ぽろろの視界を妨げた。





まだ、近くにいるかもしれない・・・



そう思いながら、


広い海を渡り、遠くの島まで来てしまった。








息を切らし、ぽろろは近くの海岸に膝を付き、
ギュっと海岸の砂をつかんだ。







「・・・うそ・・つ・・き・・・」





「・・・約束したじゃん・・・・」





いつも活気のあるぽろろから
弱々しい声が漏れた。








沢山の星々が瞬き、
ぽろろの疲れきった羽を包んでいた。







「海岸に誰かいるよーーー!」




知らない間に、ぽろろは浜辺で寝ていた。



そこに現れたのは、風の妖精 東横と赤鳥。



緑の羽を優雅に羽ばたかせ、飛ぶ様は、
まるで大きな汽車を大空へ走らせているようだった。



誰よりも目がいい赤鳥が、東横の背後からぽろろを指し言った。


「誰だろう・・・見かけない顔だね〜」


「この辺の鳥じゃないみたい・・・」


「遠くから来たのかな?(><;」
と、赤鳥は心配した表情をしながら、
ぽろろの近くまで飛び寄った。



そして、東横と赤鳥が、目を合わせると、
コクリと頷き、言った。




「助けてあげようw」







ぽろろが目覚めたのは、日が暮れようとした時だった。


「相当、疲れていたんだね〜;」
「だ・・・大丈夫???」

赤鳥が、起き上がろうとしてる ぽろろに話し掛けた。


「あ・・・ありがとう」

「でも、アタシ・・・」
「こんなとこで、休んでる場合じゃないの・・」




「もう、行かなきゃ・・・」

と、ぽろろが立ち上がろうとした瞬間、


「・・・痛っ!」


赤鳥が、ぽろろの体を支え、
ベットに横にさせてあげた。




「その羽じゃ、、、しばらく飛べないよ〜」

少し離れた所で、テレビを見ながら、
東横が慌てる様子を見せずにゆっくり言った。




賑やかに聞こえてくるテレビの音。



「でも・・・!」

それでも、立とうとするぽろろ。




「いったい、何があったの?!」
ぽろろの慌てる様子に、赤鳥が事情を聞いた。




「ルカを探しに行かないとなんだ・・・」




「だって・・・」

「使命を果たしに行ったのかもしれないの・・・」


「アタシ・・・この世がなくなるなら・・・」


「ルカと一緒じゃなきゃいやだよぉ〜〜〜!」



ぽろろは、完全に気が動転し、
説明できない状態にあった。



「ぅぅーん」
「とにかく、ルカって鳥を探してるんだね!」


赤鳥は出かける準備をサッサと済ませると、
替わりに探してきてあげると、
ぽろろに優しく言った。


赤鳥が出て行こうとした その時だった。

「赤鳥、待って」

東横が呼び止めたのだ。



「ルカって言ったよね・・・?」

東横は視線をテレビからぽろろに移し、問いかけた。




「イタタッ・・・」

「うん!知ってるの?!」

勢いよく起き上がり、
ぽろろは驚いたようにクチをアングリと開き、
東横を見つめた。



「知ってるも何も、今日さ・・・」
「見ちゃったんだよね・・・」


「いつものように、空を駆け回って、風を作ってる時にさ」

東横はつぶやくように話し出す。





「・・・ルカがいたの?!」




体中痛く、両羽で体をかばいつつ、
ぽろろは大声を張り上げて聞いた。




「でも・・・」



「ルカって、妖精なのでしょう?」

「何かしたのかねぇ〜」


「ものすごい勢いで、捕らえられてたよ」


「神様の護衛隊どもにさ」




「そこに神様も一緒にいたからな〜」

「そーとーヤバイ事したんだろっ」


「あんまり出てこない神様まで一緒じゃ・・・」

「今頃、どーなってる事やら・・・」

東横は、哀れそうな表情をし、
フワフワと翼の羽を優雅に左右に振った。



柔らかな風が、心地よく部屋に流れる。



「悪いことは言わない」


「ルカと言う男には、あんまり関わらない方がいいぞ」


東横は、そう淡々と話し、クルリと背を向け、
再びテレビに見入った。







「・・・そ・・そんなぁ・・・」



「お願い!お願いっ!お願いっ!」

「一生のお願いっ!(ぉぃ」



「そこに・・・連れてって・・・!」

「神様のところに・・・!」





「世界中、駆け回ってるアナタなら、わかるでしょ?!」




東横は、かなり名の知れた風の精だった。




「・・・」

東横は、何も答えずに、テレビから視線をそらさない。




「今夜は、風のない静かな夜になる」

そう一言つぶやき、ぽろろのお願いを
東横は間接的に断った。






「じゃあ!いいわよ!」


足を引きずりながら、ぽろろは歩き出し、
玄関を出て行った。




「ぁぁぁ・・・;」


赤鳥は、どうする事もできず、
オロオロと、玄関の外に出ては、
痛々しく羽ばたいていく ぽろろの後姿を見つめていた。







「ルカーーーーー!」




「クッ・・・」


体中の痛みに耐えながら、
ぽろろは、飛び続けた。




大空を高く高く飛び、ルカの姿を探す。




しかし、空に近づきすぎて、


呼吸ができない。



・・・苦しい・・・



ここで倒れてなんか、いられない・・・






ぽろろは既に気合だけで、空を飛んでいた。




飛ぶ力の限度を はるかに超えていたのだ。




「ル・・・カ・・・」

声もかすれ、大きな声が出ない。



限界を感じ、
ぽろろの目から涙が溢れ、
ポロポロこぼれ落ちた。




涙で、視界がゆらいでいるのか・・・





前が見えない・・・













・・・ルカ・・・











・・・ど・・こ・・・










大きく羽ばたいていた翼が、
引力に引きずり込まれるように
地上へと急落下していく。













ぽろろは、まっ逆さまに落ちていった。







柔らかい暖かい空気。


フカフカ。


フワフワする。



アタシ・・・

死んじゃったの・・・?





「アタシ・・・」


「死んでなんか いらんないょ・・・」





そう言い、ぽろろは力尽き倒れた。




「どうして、ここまでするんだっ」

危機一髪で、東横が助けに来てくれたのだ。




風を自由自在に操れる東横は、風を使い、
ぽろろのボロボロになった体をキャッチした。



そして、風をまとい、ぽろろの体を運ぶ。



「さっすがー!!!東横さんですね!!」
と、赤鳥が目を輝かせて、東横の背後で、
パチパチと拍手をしながら感動していた。






赤鳥は、尊敬するように、
目をキラキラとさせていた。

「ボクも早く、東横さんみたいになりたいですっ!」




「うむw」

東横は暖かで優しい風と一緒に、
優しくぽろろの体を運んだ。








「あの お方なら、この傷もすぐに治してくださるに違いない」



そう・・・


東横は、ぽろろを神様のところへと・・・
運んでくれていた。






「一石二鳥とはこの事ですね!!」

赤鳥がニコニコと東横の後を追った。







「さぁ、ついた」

午前2時を過ぎていた。


ゆっくりと、ぽろろの体を降ろすと、
東横は強い風を吹かせ、神を呼ぶ。



その突風の強さに、赤鳥は少し驚き、
眠い目をこすり、パチパチとさせた。





『 わしに何か用かな? 』

神の声だけが、空にこだまする。



「はい。この者を助けてもらいたく参上しました」


ぽろろをいたわる様に、東横はそっと見つめた。


「わたくしと同じ、妖精でございます」

「日々、花の手入れをしているのを私は知ってます」


「ぜひ、助けてもらいたい」




東横は、島から島へ渡り、風を吹かせながら、
ぽろろの事も以前から知っていたのだ。



『 そうですか 』


『 わかりました^^』


『 お助けしましょう 』


『 ここまでの遠い道のり、苦労された事でしょう 』


『 治したついでに、送り届けましょう 』


『 もちろん、貴方様も 』





赤鳥は、どこからともなく聞こえてくる声に、
キョロキョロと周りを見渡す。





「神様!ありがとうございます!!」

赤鳥は感動のあまり
大きな声を出して お礼を言い、
姿の見えない神に
四方八方を向いてお辞儀をペコペコとした。




「・・・ぅぅん」



その大声に、ぽろろは目を覚ました。



「神様・・・?」



「・・・・!!!!!!!」




ぽろろは動くことすらできない体なハズだったのに、
ヨタヨタと立ち上がった。



「神様・・・いるの?!」





「・・・ルカは?!」





「ルカは、どこ?!」



「アタシ、ルカの事探してるの!」



「ルカの使命の事も知ってる!」






「ただ・・・ルカと一緒にいたいだけなの・・・」











「神様・・・お願い!!ルカに会わせて!」








『 ・・・ 』



『 使命を知ってるなら、尚更、わかるでしょう? 』



『 この世に存在してる事すら、危険な者なのです 』

















そして、神は言った。



『 私が作り出した一番の失敗作だ・・・ 』



『 だから、抹消する必要がある 』と。






ぽろろは、絶句し、


その神の言葉に耳を疑った。










まさか、物を作り出している神のクチから、


そんなヒドイ言葉が出てくるなんて・・・




ぽろろは愕然とした。









プチンと、ぽろろの中で、何かが弾けた。



瞬きを忘れるほど、目を見開き、
力の限りに叫んだ。




「出てきなさいよ!!!!!!!!」



「アナタが神なんて、うそっぱちよ!!!」






「姿見せなさいよ!!!」






ぽろろの痛々しくも枯れている声が大きく響く。







「・・・どうしてよ・・・」









「どんな使命を背負っても、生きるために!」

「この世に存在したんだよ!」







「存在しなくていいものなんて、どこにもないんだよ!」








「全ての物に!全ての事に!存在する意味があるの!」




「意味のないものなんて、一つもないんだよ!」








「たとえ、どんなツラく苦しい状況だったとしても」





「それが、どんなに危険な存在だったとしても・・・!」





「抹消する権利は神にだってない!」




ぽろろの目から大粒の涙が溢れては、
ポロポロと、頬をつたった。





「アナタは・・・」



「ルカの何を知ってるって言うの!!!」










「使命なんて!!!」


「そんなもの!!!」



「果たすためだけに、生まれてきたんじゃない!!!」




「ぅぅ・・・」




嗚咽をこぼしながら、

ぽろろは姿を現さない神に訴え続けた。









「生まれた限り、神すら、生きる事を否定できないんだっ!」







ぽろろは膝をつくと、縮こまり、
足元に漂う白いモヤを見つめ、


悔し涙なのか・・・

悲しい涙なのか・・・


ポタポタと、止めどなく涙をこぼした。






「そんな事も・・・わからない・・・神様なんて・・・」



「神様じゃないっ!!!」








・・・すると・・・



どこからともなく、
孔雀のように大きな鳥が、金色の翼を優雅に羽ばたかせ、
ぽろろの上空をクルクルと回り、
フワリと、舞い降りた。






そして、その大きく綺麗な羽で、

優しくぽろろをなで、話し出した。








『 貴方の気持ち、しかと受け取りました 』



と、


神様の背後が、突然モヤが立ち上り、

薄っすらとけていく霧の中から、



ぽろろは会いたかったルカの姿を見つけた。




霧がはれ、よく見ると、

ルカの両足には、重たい鎖が繋がれていた。




「・・・なんてことっ!」




護衛隊も数羽、ルカの周りを取り囲んでいる。




ルカの近くに駆け寄るぽろろを

護衛隊の一羽が大きな槍を突きつけ、

ルカに近寄る事すら、拒んだ。









静かに、神はぽろろに話し掛けた。






『 私も全てを見てましたよ 』



『 貴方達の事、ずっと見守ってました 』





『 だから、すぐに捕らえず、そっとしておいたんです 』










『 ルカさんも大変、苦しんだんでしょう 』














『 全ては、私の失態です 』





神は、ぽろろの目の前で、
ゆっくりと頭をさげた。








「だからって・・・」

「ルカをこの世から消すなんて・・・」






『 私も非常に残念に思います 』









『 しかし・・・これ以上・・・』


『 危険な者を放置して置く事が、どうしてもできない 』








神がなでてくれたせいか、ぽろろの体は、
いつの間にか、スッカリ治っていた。











「・・・そんな事・・・」


「絶対にさせない・・・!」





「この命にかえても、ルカを守る!」






「アナタを・・・殺す・・・!」







こんなにも憎んだ鳥はいないというほど
凄まじい憎悪がこみ上げてくる。






むき出しになった殺意。





歯を強く食いしばり、強く握ったコブシが
プルプルと震える。




目は血走り、瞬きも忘れるほど、
神を睨み続けていた。






もはや力をとどめる事ができない。






その状況にパチクリと目を大きく開け、
見守っていた東横と赤鳥が慌てて、
駆け寄ると、ぽろろを取り押さえた。






「ちょ!!!!やめてよ!!!離してっ!!!」






「あなた達も邪魔する気?!」






「ね・・わかって・・・」




「ルカが破壊を望んだ訳じゃない」




「アタシはルカと」

「ただ一緒にいるだけの幸せを望んでいた」




「ルカだって、アタシを同じように、破壊じゃなく・・・」

「懸命に、たどりつける場所を探していたと思う」



「神から勝手に与えられた使命に・・・」

「毎日、苦しみ、悲しみ、その重みに耐え・・・」


「それでも、懸命に生きてきたんだ!」





「なのに・・・」



「こんな結末・・・ひどすぎるよ・・・」




「・・・ね」


「あなた達だったら、わかってくれるでしょ?」




悲しい表情で、
ぽろろは東横と赤鳥を交互に見つめるが、
ぽろろの両肩を離そうとしない。




突然、ぽろろの目つきが変わると、
手に、あるはずのない
いばらの剣が長く鋭く光り輝いていた。








ぽろろは、剣に多く付いた いばらの針を
東横と赤鳥の腕に強く刺した。





「ヒィ・・イタタタタタタ・・・」

赤鳥が小さく悲鳴する。












世界中を敵にまわしても・・・










アタシは・・・




ルカを守るよ!!!









ぽろろは、剣よりも鋭く、神を睨みつける。




複数の護衛隊がぽろろ目掛けて、
取り押さえようと、襲い掛かってきた。







ぽろろは、器用に護衛隊の間を
スルリ、スルリとすり抜けては、
剣で攻撃し、何羽も倒していく。




どこからどもなく、沸いてくる護衛隊。





剣を振りかざしても、振りかざしても、
減る様子がない。





神にすら、近づけない。



ぽろろは、苦痛な表情を見せ、
流れる汗を振り払った。






「もう、やめてくれぇぇぇーー!」

「ぽろろーーー!」


叫ぶルカの声すら、ぽろろの耳には届いていない。







ぽろろは錯乱状態だった。




「アンタなんてーーー!」




「アンタなんて、神じゃない!!」






遠距離で、ぽろろは、いばらの剣を
神目掛けて、大きく振りかざした。





「死神めっーーーーーー!!!」







その途端、
剣から、数千本のバラのトゲが神を襲い掛かる。







野原に咲くあらゆるバラのトゲが、
空を飛び、神へと攻撃を始めたのだ。











何十本も金色の羽がヒラヒラと抜け落ち、
フワリと、神は姿を消した。









何千本のバラのトゲが、飛んできては、神の姿を追うように、
もういない宙をズバズバと刺し、ポロリと落ちた。







すると、ぽろろの周りを取り囲んでいた
数十羽といた護衛隊も、
神の後を追うように、
徐々に姿を消していく。






ぽろろは、ガランと剣を落とし、
急いでルカに近寄った。




「ルカーーー!!!」


「どうして・・・家出しちゃったのー!」


「ずっと・・・ずっと」

「一緒にいようって約束したじゃん!」


涙目で、ぽろろはルカにしがみ付いた。






ルカの足に繋がれた重い鎖が、
いつの間にか、消えている。


たぶん、神が去って行ったからだろう。






ルカは、すがり付く ぽろろの頭をなでながら
そっと話しかけた。


「ぽろろ・・・」

「ごめん・・・」



「大切な鳥と想いが繋がった時」

「この世は、全部破壊されてしまうんだ」




「ぽろろの気持ち分かってたよ・・」

「・・・応えられなくて、ごめんね」








ぽろろは、ふと、少し赤くなった目で、
ルカを見上げ、言った。

「そっかーだから、素っ気無い態度だったんだ・・」




「今までどおり、素っ気無い態度でもいい」

「ルカ、一緒に帰ろう・・・」


ぽろろは、ルカに手を差し伸べた。





そんな ぽろろに、ルカは静かに首を横に振った。







「帰っても、破滅が待っているだけ・・・」










「キミを助けたいから・・・」

「キミの育てた花々を助けたいから・・・」

「キミの友達を助けたいから・・・」






「キミが生まれたこの地球を・・・助けたいから・・」







「俺は、この世から消える事を決めたんだ・・・」











「ぽろろ、キミと会わなかったら」

「どんな生き方をしていたか・・・」



「もしかしたら、
とっくにこの地は破壊されていたかもしれない」









「こんな使命の元で生まれてきたけど」


「生まれてきて、後悔はしないよ」









「だって・・・」


「ぽろろ、キミに会う事ができたのだから」



ルカは、ぽろろの泣き顔に、
ニッコリと微笑んだ。







「もう、泣くなよ」





「ぽろろ、キミは、バラのように強い・・・w」









どんな花よりも綺麗な色で
咲き乱れ、凛と咲く可憐な花。



強く、気高い。




それは、ぽろろにとって、
最高級の ほめ言葉だった。


「ルカったら・・・;」



ルカの言葉に、
ぽろろの瞳から涙が止まらない。






ルカが決死の覚悟で決めた事を、

どうやって止める事ができよう・・・






「じゃあ・・・」

「そろそろ、いくな」




ルカの体が少しずつ灰になっていく。


・・・この世から消えていく。









最後の別れなのに、
何を話しかければいいのか
分からない。





言葉ひとつ言い出せない。







灰になり、消えていくルカを
ぽろろは、ただ見つめていた。





サラサラと砂になり落ち
体がなくなっていってると言うのに・・・
ルカは、ぽろろを安心させるように、
優しい笑みを見せた。







ルカは消える寸前、
ルカのクチが少し動いたのを
ぽろろは見逃さなかった。





ルカを触れようとするが、
まるで砂をつかむように
サラサラと形をなくす。












ぽろろは、涙でぼやけた視界の中、









「 キ ミ ヲ 」




「 ア イ シ テ ル 」




確かに、そう、言っているルカを見たんだ。





最後の最後に気持ちを伝えてくれた。




ルカの優しさを決して忘れない。





ぽろろは、ルカに、
大きくウンウンと頷き、
涙でグシャグシャになった顔から
ほんの少し笑顔を見せた。






一粒の灰が全て落るまで、見届ける。






息も出来ないほど苦しくて、
ぽろろは、力なく、
ペシャンとしゃがみ、






灰の山をいつまでも見つめていた。









東横は、ぽろろに近づくと、
そっと、肩に手を置き、
残念そうに俯き、首を左右に振った。











「ウワァァァァァアアアアアアン!!」




声にならない ぽろろの嗚咽が、


高く高く空にこだました。







気が付くと、いつもの花園の前で

座り込んでいた。





まるで、今まで、夢を見ていたようだった。









ぽろろは、止め処なく流れる涙に
終止符を打つように、
強く涙を振り払い、
地を踏みしめ立ち上がった。





バラのように、強く強く生きようとしていた。







あの日、ぽろろと一緒に戦ってくれていたのは
花々だと、初めて知った。




花々は、地にバラバラに散り、
ひどい状態だった。





散らばった花々を一本一本拾っては、
「ゴメンネ・・・」
そう言って、ぽろろは土へと埋め、
土に還した。







花園が以前のように咲き乱れるのには、
まだ少し時間かかりそうだ。





花園の状態に、愕然とし、
元気もなく、ぽろろは、
ベットに突っ伏した。







「アタシ・・・花の精、失格だね・・・」








カタカタと窓が鳴った。



風の精・・・?




ヒョッコリと、窓から顔を出したのは赤鳥だった。



何も言わずに、ニッコリと微笑んで、
ピースをしてきた。






ぽろろ「 (´・ω・`) ・・・」



赤鳥「 (*´∇`*)v ・・・w 」






「放っておいてっ!(;m;)」


そう、言って、ぽろろは、
再びマクラに突っ伏した。







どんな生き物も、

生きるために、生まれてきた。



ぽろろは、神に自ら言い放った言葉を
思い出していた。




ちぎれた花々の残骸を寂しそうに見つめる。




生きるために、咲いてたのに・・・



懸命に生きてたのに・・・



私も最悪じゃないか!






そんな ぽろろに枯れた花々たちが
優しく言う。


「いつでも、ぽろろちゃんの味方だよ^^」と。



「ぽろろちゃんの為に戦って枯れるのは本望だよ」と。




痛いほどの花達の優しい言葉に、
ぽろろは、言葉も返せない。










あの日から、何度、花々に謝罪を繰り返した事か。



「もう・・・こんな事、絶対しないから・・・」


ぽろろは涙ながらに、花々に誓う。








これが、私の宿命だったのか・・・。







神様は、予知してたんだろうか。


この私の宿命を。







自暴自棄になってしまった。

自分の失態。






神は・・・


全てを知っていて、



ただ、あざ笑ってるのか・・・?







「失敗を繰り返して」


「誰だって成長していくんじゃないかな?」


東横が草をソワソワと揺らしながら、
空から話しかけて来た。



「p(^v^*)qファイトです!」

元気よく赤鳥も、相変わらず、
朝早く空を駆け回っていた。









そうだね・・・



神様も。


アタシも。





失敗を繰り返して、




心も成長していくんだね。





誰も、せめちゃいけないんだ。










それが分かっただけでも、



少しは成長したかな・・・






ね?



・・・ルカ・・・







たとえ、どんな事があっても。


頑張って、生きていかなきゃね!






神様は、幸せだけをくれるのかと思ってたけど、

試練や苦しみや悲しみもくれる・・・



そうやって、皆、少しずつ強くなっていく。







澄み切った真っ青な空を
ぽろろは仰ぎ、
大きく息を吸い込んだ。










暖かい風が、気持ちよく通り抜ける。





フンワリと初夏の香りがしていた。







それから5年後。
どの花も綺麗に並び、
季節ごとの花を咲かせた。



ぽろろが力を入れ、手入れしていた
バラの花も見事に咲き乱れた。





どの花よりも美しく、気高く見えた。






「バラの花のように、強くて可憐な女になるぞ!!」


「ワショーイ!!」



モリモリポーズを作りながら、ぽろろは、
手入れが終わり、帰ろうとした、

その時だった。







「でっかい独り言だなw」


バラの側に立つ小さな男の子がいた。




「わぁ!!!」


バラばかりに気を取られていて、
全く気づかなかった。



「アンタッ!」

「いちいち、うるさいわよっ!」

プンっと、ぽろろはその男の子に背を向けた。




「キレーだねw」
男の子は、バラを見つめながら言った。



「そーーーでしょ・・・」

ぽろろは、そう言いながら、振り向き、
男の子の横顔を見た途端、ドキっとさせられた。








あまりにも、小さかったルカにそっくりだったのだ。






「ルカ・・・?」









「(´・ω・`)ん?」

男の子は、ぽろろが言った言葉を聞き取れずに
首を傾げた。







「んな訳ないかっ」




ぽろろは、男の子にニッコリ笑顔を向けた。




「何の精なの?」

「さぼってちゃダメよ!w」

ぽろろは、いたずらっぽく叱る。










「僕・・・花を枯らせる精だよっ」

「(*´艸`)」



いたずらっぽく言葉を返してくる。






「っちょwwwwwww」



ぽろろは、驚いて、また振り返る。






「冗談だよぉ〜〜〜w」


男の子は、ぽろろにベーっと舌を出すと、走り出した。





「なにぃいいいいいい!!!」

ぽろろは、男の子の後を追いかけた。






男の子も、ぽろろも走り疲れ、
果てしなく広がる草原で、パタンっと、仰向けに倒れた。






真っ青な空が広がっていた。





風に乗って、のんびり流れる雲。






・・・・デジャブ・・・!?!?




いや、違う・・・





こんな事が、以前にもあった。




ルカと見たあの空と一緒。






あの頃と


同じ場所。


全く同じ状況。


同じ風景。




タイムスリップしたかのようだった。




チューリップの甘い香りが漂ってくる。






・・・まるで、あの日のよう・・・










・・・ただ・・・

一箇所だけ違う所があった・・・




それは、隣にいる子が、あの時のルカと違って、
とても明るい表情をして、
まっすぐ空を見つめていた。



強い意志を持ってそうな真っ直ぐな瞳。








花達も、なんだかコソコソ笑ってる。


なんで・・・笑ってるの?


心の中で、ぽろろは花達に話しかけた。










「あぁ〜懐かしいな・・・w」

男の子が空を見上げ、ふいに口走る。







あまりの驚きに、ぽろろは、
勢いよく大きくジャンプし、
じっーーーと、男の子を見つめた。






男の子は、立ち上がると、
ぽろろにニッコリと微笑みかけ、


そして、言ったんだ。













「ぽろろ、ただいま」と。










「ぇ・・・」


「ルカなの・・・?」


ぽろろの問いに、ゆっくりとルカは頷く。









ぽろろの瞳から


ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。






でも、あの頃と違う。



嬉し涙。





もう、会う事がないと思ったルカが、
年の差はあるが、目の前にいたのだ。





5歳くらいだろうか・・・



まだ幼い笑顔を向けてくる。









ポロポロと嬉涙をこぼしながら、

大きな笑顔をルカに向け、

ぽろろは、大きな声で叫んだ。











「おかえりっ!ルカーーー!」










「すぐにでも会いに行きたかったけどよっ」


「こんなチビじゃ・・・」


「ぽろろにバカにされるだろぉ〜;」


ルカは、ガックリと、うな垂れた。




「また、早く年取らないの?」

ぽろろは、ルカの身長に合わせる様に、
しゃがみ込み、顔を覗き込んだ。






「また、ぁぁなってたまるかっ!」








「俺ね・・・w花の精になったんだっ☆」








「ぇえええ!!」


「ほんとに?!↑↑↑」

ぽろろは驚き、喜びの声をあげた。







「ほら・・・、花達が笑ってるだろ?」





「クスクスって^^」






「俺にも聞こえてる^^」




ぽろろはチューリップの花びらに
ヒラヒラと止まった蝶を見つめ、

ルカに少し照れながら、言った。






「あの日、ルカが言った最後の言葉・・・」

「ちゃんと受け取ったよ」




ぽろろは、5歳の男の子に
顔を赤らめる変な状況(汗)







「・・・そかw」







「まだ俺、小さいし、もっと大きくなったら」

「ちゃんと言うから!!」




「それまで、待っててくれないかな?」

ルカは、ぽろろを見上げ、
真剣な眼差しで言った。





コクンと、静かにぽろろは頷く。













あの頃は、もう全てが終わりになっても
いいと思っていた。




世界が終わるその瞬間まで、
一緒にいれれば、それでいいと思っていた。





それは、ただ破壊を待ってるだけ、

世界中を巻き込むほどの自己中心的な想いだった・・・





それ以上に、
もっといい最善策があるなんて
思いも寄らなかった。





ココにたどり着くのに、
アタシたちは、
とても遠回りしたのかもしれない。








もがいてきた毎日。




そんな中で、気づいた事がある。





どんなに苦しくても、

どんなに悲しくても、





幸せが来ると、強く信じて、




強く生きて、前へ前へと進んでいけば







きっと・・・



まぶしく光に満ちた明日が



やってくるんだって・・・















「さぁ、帰ろう」

ぽろろは、あの日のように、
ルカに手を差し伸べた。






ルカは、小さな手で、
ぽろろの手をフワリと取り、
前を歩き出した。







まだ、頼りない可愛い背中を見て、
ぽろろは、笑いがこみ上げてきた。






幸せいっぱいだった。







これ以上にない

暖かな季節がやってきた。








ぽろろとルカが通るたびに、ユラユラと花達が揺れる。



まるで、祝福しているように・・・w










風が今日も心地よく吹き渡り、


花々の香りを島いっぱいに運んでいた。














皆が笑って過ごす日々を



 誰もが願い望んでいる。






   背中に重たい十字架を背負いながら・・・



− END −


メニュー
♪hers
inserted by FC2 system