『知られざる物語』 太陽がギラギラと照りけていた昼下がりのある夏の日。 「暑いなぁ〜」 Shopぴよたは、炎天下の下で、汗をぬぐった。 あまりの暑さで、木陰に売る物を並べる事にした。 しかし、品物が、木の陰に隠れてしまい目立たなく、 さっぱりお客さんが来ない。 「うーん」 ぴよたは、遺跡にもたれかかり、うなだれた。 しばらく、すると、突然のスコール。 「ぁゎゎゎゎゎゎ〜〜!」 雨にぬれてしまっては、売り物にならなくなる。 ぴよたは、慌てて、品物を袋に入れ、 近くの建物に、移動することにした。 大きな袋を背負った拍子に、青いブリキのロボットが、 ポロリと落ちた。 しかし、ぴよたは、気づかず屋根のある建物へ走って行く。 青いブリキのロボットは、 雨雲を見つめながら、ただ、静かに、 どしゃぶりの雨を体に受けていた。 自分では動けないブリキのロボットは、 時に、風に吹かれ、土砂をかぶり。 雨にあたり、さびつき。 石にぶつかり、傷ができ。 ブリキの体は、ボロボロになっていった。 誰も振り向こうとはしない。 誰にも気づかれない場所。 長い歳月、ただ、ぼんやりと過ごした。 寂しい。 悲しい。 楽しい。 嬉しい。 恋しい・・・ そのような感情は、ロボットにはない。 そう思っていた。 かりに会うまでは・・・ ブリキのロボットは、また来る夜の気配を感じながら、 ただ、深い紫色の空を眺めていた。 木々が、ミドリ色からオレンジ色に衣替えをする季節。 かりとちぇりこは、遺跡の島に訪れた。 「なんか、ここって、静かだねぇ〜」 「だ〜れもいないやぁ〜」 2人は、どことなく寂しい風景を見渡し歩いていた。 ふと、かりは、ちぇりことつないだ手を離して歩き出す。 「・・・ん?かりおねーたん?どーたの??」 しゃがんで、何かを見ているかりを、 ちぇりこは覗き込んだ。 かりが手にしていたのは、 ーーー青いブリキのロボットーーー 「なんか、かわいそう・・・」 かりは、つぶやくように言う。 「ぅ・・・ぅん」 ちぇりこも、ボロボロのブリキを見ながら、 シュンっと悲しい顔をした。 かりは、大切そうに、そっとブリキの体についた土をはらった。 ブリキのロボットは、かりの羽の中で、久しぶりに、 暖かいぬくもりにふれた。 「木の葉で隠れる前に見つけられて、良かったねw」 かりは、フワリと微笑み、ブリキをそっとなでて話し掛けた。 少し強い風が吹きぬけ、2人の間をハラハラと木の葉が舞った。 かりは、家に持ち帰り、キレイに体をふいて、 自分の枕もとにそっと、置いた。 かりは寝転んで、じっと、 青いブリキのロボットを見つめる。 ハッと思いついたかのように、かりは言った。 「アオキチ!!」 「おまえは、今日から、アオキチだよw」 にっこり微笑んで、アオキチの頭をなでた。 青い木(ブリキ)から取って、アオキチ。 青いブリキのロボットは、アオキチと名づけられた。 「アオキチおやすみ☆」そう言うと、 かりは暖かいベットの中で、スヤスヤ寝息をたてて眠り始めた。 アオキチは、窓からさす月明かりの中で、 かりの寝顔をだた見ていた。 僕は、アオキチか・・・ 初めて付いた自分の名前。 アオキチは、寝る事もない。 朝になるまで、自分を拾ってくれた 心優しいかりを見ていた。 ここは、今までいた場所と違っていた。 時に、ちぇりこの演奏が聞こえてきた。 かりの暖かい料理の香りがしてきた。 そして・・・ かりとちぇりこの笑顔がそこにはいつもあった。 今までとは、違う・・・ ぬくもりのある場所。 暖かい風景。 暖かい所。 アオキチは、今いる場所に満足していた。 毎日、寝る前に、かりはアオキチに話かけていた。 「アオキチwあのねw」 「今日はねwいちごを沢山拾ったのww」 「それでね、いちごジャム作ってみたんだよw」 「ちぇりこったら、パンにいっ〜〜ぱい!! ジャムつけてw美味しそうに食べていたのww」 「アオキチにも食べさせてあげたいわ〜ww」 嬉しそうに話すかりをアオキチは、ただ見続けた。 アオキチの凍りついていた心が、 日に日に解けていくのがわかった。 ・・・そして、 アオキチは、知らない間に かりに心をひかれていったーーー。 アオキチは、かりの寝顔を見るのが好きになった。 かりちゃんは・・・ 今、何の夢を見ているんだろう・・・。 夢ってどんな感じなんだろう・・・ 夢を見た事がないアオキチは、 そんなことを思うようにっていた。 そして、眠ることのない自分を初めて好きになった。 かりの寝顔を見てる間、 かりを独占しているような気がしたからだ。 アオキチは、優しい眼差しで、 ずっと、かりの寝顔をみていた。 いつの間にか、窓に雪が積もり、 暖かな春の日差しが、ジリジリと雪をとかし、 暑い日差しが照りつける夏がすぎた頃、 かりに、好きな鳥ができたようだった。 ひでと言う名前のペンギンだった。 いつの間にか、かりの笑顔は、アオキチではなく、 彼にいつも向けられていた。 アオキチは、ひでに嫉妬した。 そして、ただ見守るだけしかできない自分に腹が立った。 かりを幸せにすることも 何もできない。 この想いは、どおすれば・・・いいの・・・ アオキチは、初めて胸の痛みを感じ、 悩み苦しんだ。 ここの家に来てから、1年が過ぎた。 木枯らしが、窓をトントンと叩く ある日。 突然、街は、害虫に襲われた。 街中に害虫がはびこり、みんな他の島へ逃げて行った。 アオキチは、初めて見る害虫に、驚き、 異変に気づいた。 そんな中、かりは、自分の家に帰ろうとしたのだ。 アオキチを、持って逃げようとしたのだ。 「行くな!」と叫ぶ ひでの声を背にして、 かりは、走り出す。 かりは、家にたどり着きアオキチを抱きかかえ、避難しようとしたが、 多数の害虫にはばまれ、襲われてしまった。 しかし、アオキチは、かりを助ける事も戦う事もできない。 フラフラになっているかりの手から、アオキチは落ち コロンと転がり、うつぶせになった。 アオキチは、床を見ているしかなかった。 自分の無力さに、アオキチは、ひどく 悲しみをおぼえた。 いつの間にか、かりの気配がない。 害虫にさらわれたようだった。 《 かりちゃーーーーん!! 》 心の中で、アオキチは叫んだ。 もっと、僕に力があればーーー。 かりのいないその部屋は、暗く静寂につつまれていた。 毎日、話し掛けてくれていた かりがいない・・・ 心の中に冷たい風が吹き抜けた。 アオキチは、初めて寂しさをおぼえた。 数日後、害虫がウソのようにいなくなった。 そして、1ヶ月がたった頃、 かりが、元気な姿で僕のところへ帰ってきてくれた。 大事そうに、かりは、アオキチを拾い、抱きしめた。 かりが、生きていた事がすごく、すごく嬉しくて、 心が跳ね上がる気持ちになった。 ここは、灰の島になってしまったから、 しばらく違うう島で暮らすという。 アオキチは、変わり果てた風景に唖然とした。 自分が、転がってる間に何があったのか 全く知らない。 後から、ぽよと鈴という鳥たちが、害虫を倒し、 かりを助けてくれた事を聞いた。 僕のさびついた手足は、ピクリとも動かない。 歩く事も、走る事もできない。 戦う事もできないボロボロの自分の体に アオキチは、悔しさをおぼえた。 かり達は、灰色に染まった島を後にした。 かりが、アオキチを大切にしているのを見て、 ひでは、かりに新しい赤いロボットを買ってあげた。 それは、ピカピカの新型のロボット。 手足は自由に動き移動することも、 手に物を持つ事もできる。 アオキチとは全く違う。 かりは、喜んでアオキチの横に並べて置いた。 そして、アカキチと名づけた。 アカキチは、隣にいるボロボロのアオキチの事を 馬鹿にするような目でチラリと見たが、 アオキチは、だただた、ピカピカ光るアカキチの 姿を羨ましそうに見つめるしかなかった。 ある日、かりは、少しでもアカキチのように キレイにしようと、アオキチを胸に抱いて磨きに行った。 しかし、思うようにキレーにはならない。 油をさしても、手足は、全く動かない。 かりは、新しいアカキチも大事だが、アオキチも 今まで通り大事に大事にした。 アオキチは、そんなかりの姿を愛しく思った。 かりが大切にしてくれていたら、手足は 動かなくてもいいとさえ思えた。 寒い冬が、またやってきた。 外は銀世界になり、寒さが一層増した。 外とは裏腹に、家の中は、暖炉の火と かりの暖かさでポカポカだった。 アオキチは、かりのそばにいられるだけで、 幸せだと思っていた。 そして、ひでと幸せになって欲しいと 心から願うようになっていた。 やっと、 やっと、 そう思えるようになった 矢先の出来事だった。 ある吹雪の日・・・ アカキチは、動けないアオキチの体を持ち上げると、 暖炉の方へと動いていく。 アカキチは、ずっと、自分よりもボロボロなのに、 大切にされているアオキチが気に食わなかった。 《 ゎぁぁぁ!! 》 アオキチは、必死に抵抗するが、手足が動かない。 ・・・・・・・そしてーーーーーーー アオキチは、真っ赤に燃える炎の中に、放り投げられた。 ブリキのアオキチには、 火の中でも、熱さを感じることもない。 体のブリキが燃えても、痛みを感じる事もない。 血も涙も、流れない・・・。 しかし・・・ 体が燃え尽きて、もぅ、かりと暮らす事ができなくなると 思うといてもたってもいられなくなった。 アカキチが、こっちを見て、満足げに笑っているのが見える。 どんどん自分の体が、燃えてゆく・・・ 《 ・・・・・かりちゃんーーー!!!》 アオキチは、心の中で必死に叫んだ。 それを察したかのように、かりが気づき、 暖炉に駆け寄ってきた。 かりは、火の中に手を入れ、僕を助けようとしたが、 ひでが、『危ない!』と、すかさずかりの腕をつかみ、 かりを制している様子が見えた。 炎の中で、ゆらゆらと、かりの泣いている顔が見える。 ・・・泣かないで・・・ ずっと、一緒にいたかった。 だけど・・・ だけど・・・ これでいいのかもしれない・・・。 アオキチは、自分に言い聞かすようにいう。 僕は・・・たくさんの気持ちがあることを、 かりちゃんから教わった。 ロボットなのに、かりちゃんに会って、 心の痛みを、少し知りすぎてしまった。 青い体は、どんどんと灰になっていく。 こんなボロボロで、動かない僕を、 大事にしてくれてありがとぉ・・・ たくさんの愛をーーー・・ ――― ありがとう ――― それは、けっして届かない言葉。 誰よりも、世界中の誰よりも、幸せになってーーー。 薄れてゆく視界の中で、心の底からアオキチは、そう願った。 かりちゃんと同じ自由に動きまわれる鳥に 生まれてきたかったと思った時もあったけど・・・ 僕は、ロボットに生まれてきて良かった。 だって・・・ 僕は・・・・・ かりちゃん・・・ アナタに出会うことができたのだからーーー。 かりは、暖炉の燃えカスの中から、アオキチの 小さくさびた頭のネジを見つけ、両手にぎゅっと握り、 いつまでも、いつまでも、残された灰を見つめていた。 ― END ―   メニュー
♪廃墟に棲む幻

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