『 残 照 』 太陽が、紅葉した木々を更に赤く染める夕暮れ時。 志爛は、海岸に腰をおろし、 赤く染まった海と沈む夕日を見ていた。 手には、一枚の写真。 無邪気に笑い合っている志爛とついきち。 そして・・・ 少し機嫌悪そうにして写っているアイツの姿。 志爛は、あの日々を思い出し、 少しだけフフと笑った。 あの日も、こんな風に真っ赤な夕日だった。 志爛は、少し目を細めて、 まだまだ続いているであろう海の水平線を見ながら、 記憶の引き出しを一つずつ開けていった。 「志爛〜〜〜」 俺を呼ぶのは、親友のついきち。 全身真っ黒で強そうな感じだが、 とても優しい目を持っている。 ついきちは、志爛と小さい頃からいつも一緒だった。 「ん??どーした??」 志爛は、ゆっくり流れる雲からついきちに目線を移した。 二人は仰向けに寝ながら、 青く澄み渡る広い空を仰ぎ、よく話をしていた。 「俺達さぁ〜」 ついきちは、高い空を眺めながら話し出す。 「どこか行かへん?」 「ここにずっと、いてもいいけど、体がなまっちまう!」 そう言うと、ついきちは、空高くジャンプした。 「志爛どっか行こう!!」 それは、志爛も、ほんの少し考えていた事だった。 俺達は、この島で生まれ育ち、 だいたい、この高くそびえる大きな丘の上で過ごしてきた。 毎日が、平和だった。 雪が舞い散る日は、ついきちと羽を寄せ合い。 暖かい日は、ついきちと害虫を倒し、 少し寂しい夜は、お鍋を囲んで、一晩中飲み交わした。 志爛には、ついきちが隣にいる事が当たり前になっていた。 そんな毎日を送っていても、いいものだと思った。 島の外に出れば、たくさんの出会いや別れがあるが、 志爛は、今の生活でもいいと思っていた。 そんな毎日を破ったのは、ついきちだった。 旅をしようと言う ついきちに、 志爛は、少し悩み そして言った。 「よし!!行こう!!」と。 志爛は、ついきちに負けないくらい 大きくジャンプした。 そう・・・ あの時の俺は・・・ 変わりゆくことを 変わりゆくものを 恐れていた・・・ 俺達は、大きな水平線の向こうに夢をはせて、 海へ大きくジャンプした。 ついきちは、俺にいつでも勇気と元気をくれた。 「俺達の旅の始まりだぜ!!」 俺達は、無邪気に泳ぎながら、まだ知らない島や これから出会う鳥たちに気持ちを膨らませていた。 もう何時間泳いだだろう。 すっかり、日が沈み真っ暗だ。 俺達は、疲れて、少し休憩する事にした。 持ってきた木をヒョイと海に浮かべると、 その上に、俺達は、寄り添い座った。 昼間の海とは違い、 暗く黒い海だけが、目の前に広がっている。 今にも、志爛とついきちを 飲み込もうとしているかのようだ。 夜の海は、寒々としていて冷酷だった。 しかし、そんな寂しい風景でも、 2人がいる場所は、いつでも明るかった。 「ついきち?姿が見えねぇ〜〜〜!」 「ォィォィ(*´∀`)ノ)))隣にいるのに、 それは、ねーだろ!w」 志爛とついきちの間には、 いつもジョーダンが飛び交っていた。 俺達は、今から起こる出来事に 思いをはせて眠りについた。 波が、旅の始まりを祝うかのように、 二人を揺らしていた。 志爛とついきちは、暖かい日差しに目を覚ますと 目の前に、高くそびえる塔がある島があった。 寝ている間に、波が運んでくれたようだった。 「やりぃ〜〜〜☆」 ついきちが、泳がなくても済んだとばかりに喜んだ。 「てか、木に乗ってるうちに着くって・・・ 昨日あんなに泳いだ俺らは何なんだーー!w」 志爛は、羽をバタつかせた。 まぁまぁ、と志爛の肩を叩き、 ついきちは、勢いよく島へ泳いで行った。 そんなついきちの後ろを志爛は追いかけた。 島に着くと、たくさんの見知らぬ小鳥たちが遊んでいた。 ところが、少し歩いていると、島に誰もいなくなった。 ガジガジ ガジガジ ガジガジ ガジガジ 聞き覚えのある鳴き声。 1匹の害虫が、志爛目掛けて歩み寄ってくる。 ついきちが、それに気づき、害虫の背後にジャンプすると、 パンチをお見舞いした。 ゲジゲジ・・・。 害虫が、仰向けになり、縮こまった。 あっと言う間に、ついきちは倒してしまった。 「ヾ(●・ω・●)ノ こん☆」 それを、少し離れたところから見ていた 一匹の薄ピンク色の小さな女の子が、 二人に丁寧に挨拶して、手をピラピラと振った。 女の子は、こっちこっちと、志爛とついきちを手招きする。 俺達は、テクテクとついて行くと、そこには小島があり、 さっきまで遊んでいた鳥たちが、 こっちを向いて手を振っていた。 害虫が出てきて、みんな避難していたのだ。 「こわかったよ〜〜><;」 「ほんと、倒してくれてありがとぉーー!w」 みんなが口々に、お礼を言った。 「あの塔の頂上の穴から、害虫が出てくるのw」 女の子は、塔の上を指差して言った。 「最近・・・よく出てくるんだぁ〜」 少し困ったような顔で、女の子は塔を見つめていた。 そんな島の鳥達を見て、 志爛とついきちは、顔を見合わせた。 「いっちょ やるかw」 「やりますかね☆」 害虫退治は、俺達にとって朝飯前だった。 「穴から出てこなければ、 俺達から行ってあげよーじゃないの!」 ついきちは、塔の中の害虫に言うように叫び、 ご自慢の二の腕をなでた。 志爛とついきちは、見るからに強そうな二人だったので、 島のみんなは、平和になるーー!と、 羽をパタパタとさせて喜んだ。 志爛とついきちは、木の下に落ちているリンゴを 口にほうばると、ピョンピョンと慣れた足取りで、 高い塔に跳ね上がった。 と、さっきの女の子が、塔の下で何かを叫んでいる。 志爛が、塔の下を覗き込み、女の子を見下ろした。 「あたちのピンクのクマさんのヌイグルミ・・・」 もそもそしながら、女の子は言う。 「ん??」 志爛は、女の子の声に耳を傾けた。 「ピンクのクマさんのヌイグルミ落としちゃったのー!」 「穴に・・・・・」 恥かしそうに、顔を赤らめて女の子は言った。 「そかそかw」 「おにーさんが取って来てあげるよw」 志爛は、女の子に微笑み、ウインクをした。 ほっとしたように女の子は、笑顔で手を振り見送った。 俺達は、穴を覗き込むと、 一気に、真っ暗な穴へ飛び込んだ。 志爛は、ついきちが一緒にいれば恐い者なしだった。 そして、ついきちも同じ気持ちだった。 俺達は、知らないうちに、 お互いが、お互いを信頼し合って、 そして必要としていた。 「志爛wこの害虫退治終わったら、飲もうぜw」 暗い闇の向こうからついきちの声がした。 「そうだなw戦った後の酒はうまいぞ〜〜w」 志爛は、姿の見えないついきちに明るく返事をする。 真っ暗闇の中で、少しでも、志爛の緊張がほぐれるようにと、 ついきちが声をかけてくれているのだと 志爛には気づいていた。 そんな ついきちの小さな優しさに、志爛は感謝した。 俺達は、塔の奥へ奥へと進んで行った。 よく先が見えない。 クモの巣が、羽のあちこちに付いた。 と、その時、 コケ!! 志爛は、何かにつまづいた。 それに気づき、目の前を走っていた ついきちが振り返り、志爛の姿が見える位置まで来た。 「うわぁぁぁぁあぁぁああぁあっぁぁぁぁぁぁあっ」 志爛は、のけぞり、尻餅をついた。 そこにあったのは、鳥の死骸だった。 「俺達・・・やばいとこ来ちゃった?」 志爛は、お尻をパッパとはたきながら、 不安そうに、取り囲むようにある 塔のレンガのカベを見渡した。 「大丈夫だってw志爛wほら、害虫一匹倒したぜw」 プラ〜ンと害虫をでつまんで持っているついきちの姿。 「ヾ(- -;)ぉぃぉぃ 俺が転んでる間に、すげーなw」 志爛はこんな状況でも、ほっとさせて元気をくれるついきちを 不思議そうに眺めた。 「うりゃ〜〜〜!俺も行くぞーーー!!」 志爛が、思い切ったように、ついきちを追い越し、 闇に向かって走った。 すさまじい数の害虫が、塔の地下で、ざわめいていた。 志爛とついきちは、見事な腕前で、次々と害虫を倒していく。 「ぉぃw志爛w害虫倒したら、もれなく袋に入れろよw」 ついきちは、志爛に、大きい袋を渡した。 どんどんたまっていく害虫の死骸。 志爛は、害虫と戦いながら、 ついきちから袋を受け取り、背中にかついだ。 「わかってるけどよっw」 バシッ バシッ 害虫と戦いながら、余裕の会話だ。 「この害虫どもwお金だと思えばカワイイもんさw」 バシッ バシッ ついきちは、楽しそうに害虫とたわむれているようだった。 害虫がほぼいなくなり、志爛とついきちは、 少しの間、暗い塔の中で腰を下ろした。 そして、少しだけ乾杯。 俺達は、何も言わずに、 お酒を酌み交わし、飲んだ。 そして、ホコリだらけになった顔を見合わせて、 笑いあった。 どんな困難があっても、大丈夫だと思った。 志爛は、旅に出て良かったと、心の底から思った。 疲れた体をパタンと横にさせると、 入ってきた塔の穴から、丸い月が覗いていた。 それは、それは、キレイな月だった。 塔の外にでると、島の鳥達がみんな 心配して待っていてくれた。 志爛は、女の子が駆け寄ってくるのを見て思い出した。 「ぁぁぁぁあああああ!」 「おにーちゃん・・・あたちの・・ヌイグルミは・・?」 「クマさんの・・なかったの?・・・」 志爛の真っ青な顔つきに、女の子が不安そうにたずねる。 聞くと、今亡き母親のかたみだと言う。 「実はね・・・」 まさか、忘れていたなんて言えない。 「ぇと・・・ぁと・・・あのね・・・」 志爛は、しどろもどろに言う。 「ほらよっ!」 その情景を楽しんでるかのように、 ついきちが、ポンッと志爛に渡してきた。 少し汚れているが、 それは、ピンクのクマのヌイグルミだった。 「おまえw俺に渡しておいて、忘れるなよなっw」 ついきちは、話を合わせてくれているようだった。 「ついきち。。話w聞いてたのかよww」 志爛は、驚きつい口にしてしまった。 「(*・ω・*)モニュ?」 女の子は、会話の内容がわからず、不思議そうな顔をしたが、 手元に帰ってきたクマのヌイグルミを大喜びで胸に抱くと、 志爛の頬にチュっとキスをした。 判ってたんだったら、早く渡せよと、言いたげに、 ついきちを少しにらんだ。 ついきちは、女の子にわからないように、 いたずらっぽくニカと笑った。 志爛は、いつも、そんな ついきちに助けてもらっていた。 クマのヌイグルミを抱いて、嬉しそうに話をする女の子を横目に、 何もなかったかのような素振りを見せるついきちの姿を 志爛は、いつまでも見ていた。 その日から、その女の子の家で、お世話になることになったが、 そう甘えて長居もできない。 しばらくして、よく晴れた日、志爛とついきちたちは、 他の島に旅立つことにした。 「ついきち。ありがとなw」 「なんだw急に気持ち悪いなwww」 「なんとなくw言いたくなっただけさw」 「なんだそりゃw」 ついきちは、志爛の言葉に少し照れるように 水平線に向かって先に泳ぎだした。 「まてよぉーw」 その後を、志爛は続いて泳ぎだす。 日光が真上からさし、波がキラキラと光を反射させた。 まぶしい光の中、俺達は、まっすぐ、まっすぐ進んで行った。   next→ メニュー
♪残照

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