『 メビウスの輪 〜もんごのすけ 』 ある穏やかに晴れた日、 ぽよとひめは、もんごのすけの銅像の島で 一羽の年老いた老人に会った。 そして、もんごのすけの話を聞いたんだ。 それはもんごっこの歴史に深く刻まれ、 永久に語り継がれ、決して途絶える事はない。 メビウスの輪のように・・・ もんごっこ達を救うために一生をかけた一羽のカラスの話。 もんごっこ達の誇りである ――― もんごのすけ ――― 黒い羽を持つ学者。 またある時は医学者でもある彼は、みんなから頼りにされ、 優れたその才能に皆が、尊敬していた。 もんごのすけは、いかなる時でも、 冷静かつ正しい路を選んできた。 自分が興味を持った事は、学業に励み、研究を積んだ。 それは自分のために・・・ そして、もんご達のためになっていった。 もんごの学校を開いたのも彼だった。 勉強がしたい子供達がいたら、惜しまなく勉学を教えた。 もんごのすけは、伝えたい言葉を色紙に書き、 その一文字にはとてもとても大事な意味があるのだと皆に伝えた。 もんごのすけは、目には見えない大切な事を その文字から皆に読み取ってもらいたかった。 そして、全ての事に対して、貧富の差関係なく、 恵まれない子供達にも同様に彼は優しく教えた。 それは、お金のためでもなく、 全てのもんご達のために・・・ 彼は、何事にも惜しまなかった。 医学者でもある もんごのすけは、病気のもんごがいれば、 遥か遠くの島まで診察に向かった。 あらゆる島を渡り歩き、 たくさんの病に倒れたもんご達を診てきた。 そして、多くののもんご達を救ってきた。 その寛大すぎる心の広さに誰もがもんごのすけを慕った。 子供も、奥さんもいないもんごのすけにとって、 島にいる全てのもんご達が、 まるで自分の家族のようだった。 ドングリ(お金)があれば、 それを恵まれない子供達の食事代にした。 両親がいない子には、 優しく話し掛け、その寂しさを理解し、 その暖かいその羽で抱きしめた。 いつしか、皆が親しみを込めて 『先生』と呼ぶようになった。 しかし、彼は、決してえばる事をしない。 ただ優しく笑顔で微笑み、一人一人に気を配り見守った。 その人柄に、誰とでも仲良くなり、 もんごのすけが、島を訪れると、 皆がもんごのすけの周りを取り囲み、離れようとしなかった。 ・・・そして・・・ もんごのすけは、もんごっこ達の間で、 なくてはならない存在になっていった。 しかし、もんごのすけは、 始めから医学者になろうと思ったのでなかった。 もんごのすけをそうさせたのは・・・ ・・・あの出来事がきっかけだった。 もんごのすけには、たった一人の幼い妹がいた。 両親はいなく、いつも二人で支え合って生きてきた。 もんごのすけとは違い、とても明るく 小柄で可愛らしい灰色の羽を持つ妹。 もん子。 いつも もん子は、兄のもんごのすけから離れず、 ベッタリと兄の翼にまとわりついていた。 そして、オシャベリなもん子は、絶えずそのクチを動かした。 もんごのすけは、そんなもん子に、ウンウンと優しく頷いた。 もんごのすけにとって、もん子が、 とても可愛らしくて、しょうがなかった。 毎日が明るく楽しかった。 寂しさなんて、一秒もないくらい。 もんごのすけは、両親や友達がいなくても、 もん子さえいたら幸せと思っていた。 そんなある日。 体もそんなに弱い方ではなかった もん子だったが、 突然具合を悪くした。 嘔吐と下痢と頭痛に苦しんでいたが、 隣で、心配する もんごのすけに 『大丈夫だからwおにーちゃんw』 と、少しやつれた顔で、もんごのすけに笑顔を向けた。 それは、兄を安心させたい もん子の優しさだった。 最後まで、もん子は、 『大丈夫・・w』 『大丈夫・・・・』 と言って、その小さな体で必死に生きた。 そして、もんごのすけの胸の中で、 あっけなく死んでしまった。 もんごのすけは、小さく冷たくなった体をギュっと抱きしめ、 嗚咽した声をもらし、泣いた。 苦しむもん子を目の前にして、 何もすることができない自分に腹がたった。 そして、何故もん子が、死んでしまったのか、懸命に調べた。 それは・・亡くなったもん子へのせめてもの ・・・罪滅ぼし・・・だった。 調べて行くうちに、スイセンという花に猛毒がある事がわかった。 ノビルという植物と間違えて食べてしまったのだろう・・・ 体の小さいもん子には、耐えられない毒だったに違いない・・ それをきっかけに、もん子を亡くした もんごのすけは、 まるで、自分の寂しさを埋めるかのように、 懸命に勉学に励んだ。 それは、寝る間も惜しむほどの もんご並外れた努力だった。 そして、もんごのすけは、長い歳月、 もんごっこの鳥達に奉仕してきた。 その体は日に日に鈍り、年老いた体を支えるのに、 もんごのすけは、手に杖をついてまで、 もんごの鳥達を守ると言う使命をまっとうしようとした。 頭には、お気に入りの黒いシルクハットを深々とかぶり、 その体が、動かなくなるまで・・・ 自分を必要としてくれる鳥がいる限り、 最後の最後まで、働き続けた。 それは、夏から秋に季節が移りゆくある日の事だった。 訳の判らない病気に困っているという一報を受け、 もんごのすけは、その鳥たちがいる島へと向かった。 その島に着くと、さっそく、その患者を診た。 羽は抜け落ち、熱があるようだった。 もんごのすけは、その病気がなんなのか判らなかった。 見た事もない・・・ 聞いたこともない・・・病・・・ もちろん、処方もできない。 もんごのすけは、困惑したが、 それで、たじろぐ もんごのすけではない。 しばらくの間、その島で様子を診ながら、調べる事にした。 心配そうに、もんごのすけを見つめる島の鳥達に、 「必ず、治してみせますよ」 そう言って、優しく鳥達に微笑んだ。 鳥達は、少しほっとした表情を見せると、必死に 「先生!!お願いします!!」と、口々に言い、 もんごのすけを取り囲んだ。 救える鳥は、もんごのすけしかいないのだ。 そのプレッシャーにも今まで耐えてきた。 そして知らない病と張り合うかのように、 次々と、研究しては、病気を治す免疫を 発見し、多くのもんごっこ達を救ってきた。 そして、治療のためのクスリや 予防薬まで作り出してきた。 もんごのすけは、部屋に閉じこもり、 夜も寝ずに、熱心に研究を続けた。 そして、数日がたった。 その数日の間に、同じ症状を訴える患者が、 10倍・・・いや、20倍にも膨れ上がった。 あまりに急速な病の広がりに、 もんごのすけは、驚きを隠せなかった。 その病は・・・伝染病だったのだ。 他の鳥達に感染しないように、患者だけを隔離し、 もんごのすけは、それでも診断するため、 その隔離された場所に一緒に居続け、 沢山の同じ症状の鳥達を診た。 いっこうによくならない高熱。 もんごのすけは、羽がポロポロと抜け落ちていく様を 診ながら、今までにない恐怖を覚えた。 ・・・そして・・・ 研究していく中で、もんごのすけまでも、 とうとう同じ病に感染してしまった。 それでも、研究する手は止める事はできない。 むしばんでいく病魔との戦いだった。 抜け落ちていく自分の羽にも恐れず、 自分が実験台になり、自分の腕から たくさんの血を採り、免疫を探した。 そして、やっと―――。 伝染病の特効薬を開発した。 もんごのすけは、年老いていたおかげで、 病気の進行が遅かったが、 それでも、立っているのがやっとだった・・・ もんごのすけは、杖をつき、やっとの思いで、 薬を持ち、病にふせる患者のもとに向かった。 まず、始めに打ったのは、 一番ひどい症状を持った鳥から順に・・・ 数日、その患者の様子を診ると、 だんだんと、熱がさがっていき、回復しているようだった。 もんごのすけは、ほっとして、胸をなでおろした。 なぜなら、まだ、その薬を試してなかったからだ。 限られている薬と・・・。 日に日に増えていく患者の数・・・。 救えるのは・・・ ギリギリ・・・ いや・・・もしかしたら、 薬が足りなく命を落とす鳥がでるかもしれない・・・ もんごのすけは、一人一人の患者に、治るようにと、 願いを込めて、注射を打っていった。 ・・・そして・・・ 最後の患者になった。 もんごのすけは、その患者に 「すぐに良くなるからね・・・w」 と、優しく微笑むと薬を打った。 それが、最後の薬だった。 もんごのすけは、成し遂げたと微笑んだ瞬間。 その場で崩れ倒れた。 そう・・・ もんごのすけは、自分に薬を打たなかったのだ。 死ぬ覚悟で、全員を救おうとしたのだ。 そして、最後まで決してあきらめなかった。 目の前の壁にも、そして、自分の一生にも・・・ もんごのすけは、海に小さな船を浮かべると 誰もいない海の上で、波に揺られながら、 一人、最期をむかえた。 その伝染病の新薬をメモに残し、 感染を防ぐために・・ ひっそりと消えるのが、 もんごのすけに与えられた最後の仕事だった。 しばらくしてから、もんごのすけの屍は発見され、 島の鳥達は、皆、泣きながら、 救ってくれた もんごのすけを心から感謝した。 そして、その訃報は、もんごっこの島各地に 行き渡り、全ての鳥達が、嘆き悲しんだんだ。 ぽよとひめは、もんごのすけの話を初めて聞き、 あらためてスゴイ人なのだと実感した。 老人は話を終えると、ふと、銅像を見上げながら 「でもな・・・w」 と、付け加えるように話し出した。 もんごのすけは、生きてる間にたくさんのものを残した。 それは、かけがえのないものばかり。 鳥達は、もんごのすけのおかげで、 本当の優しさの意味を知ったよ。 それに、心の寛大さも。 命の尊さも教えてもらった・・・。 もんごのすけの書によって、 目には見えない大切な言葉の意味を知った。 勉学を教えてきた学生たちは、 もんごのすけの意思を受け継いで、 今では、島の各地で、病にふせる患者を救っている。 もんごのすけを目指した学者たちは、 いろんな学問を更に生み出した。 ・・・それに・・・ 「もんごのすけは、死んだ訳じゃないんじゃよ」 「え・・・」 ぽよとひめは、老人をマジマジと見つめた。 老人は、胸に翼を押しつけると、 「ワシらのココにおるのじゃ」 心にずっとな・・・おるんじゃよ・・ ワシが死んでしまっても、言い継がれて、 これからもたくさんのもんごっこ達が 知ることになろう・・・ そして、ワシらの誇りにしていくのじゃ・・ 老人は、目を細くさせて、まぶしそうに、 もんごのすけの銅像を見続けていた。 ぽよとひめも、銅像に視線を移した。 もんごのすけの銅像が、微笑んで、 今でも・・・ずっと・・・そこから、そっと、 僕らの事を見守ってくれているように感じた。 そして・・・ もんごのすけのその姿は、まぶしい太陽の下、 もんごにいる誰よりも勇ましく堂々として見えた。 「ぁ・・・」 「見て・・・ぽよ・・・」 ひめが、不意に指差した。 その視線の先には――――。 小柄で可愛らしい灰色の羽を持った鳥が、 もんごのすけの銅像のかたわらから、 じっと離れずに寄り添っていた。 春の暖かな風は、その羽を包むようにフワリと優しく揺らした。 ― END ―   メニュー
♪Secret tears

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