『 little life 〜砂中の小さな命 』 数多くある星の中で、たった一つ産まれた小さな生命。 とても・・・とても・・・小さな命。 同じ時代、同じ空間の中で、 その小さな命と命が、一億分の一の確率で出会う。 少しの時間のずれや居場所の違いで、 一生出会わないかもしれない。 決して交わる事のない平行線のように・・・ 同じ時代にいながら、出会わない人も星の数ほどいる。 出会い。 それは、ほんの些細なきっかけなのかもしれない。 でも、それは、とても とても すごい事。 そう知っていたのに・・・ アタシはその手を離したんだ・・・ いつからだろう・・・ アタシの隣には、いつも毛がいたんだ・・・ 黒い羽を持つ毛は、その強そうな体格とは違って とても繊細な心を持っていた。 エコは、そんな毛が心配でしょうがなかった。 いつまでも眠りにつくことができない毛に、 「こら!早く寝ないとダメだよ!!」 バシバシと毛の肩をぶって、注意した。 体に悪いからと。 うまく言葉にできなくて・・ うまく優しい言葉をかけてあげられなくて・・ そうやって、エコは、毛の事を影からいつも見守っていた。 そうやってしか、優しさを表現できない自分が もどかしくて・・・ エコは、一人になると反省していた。 もう少し・・優しい言葉がかけられたなら・・と。 しかし、毛は、そんな口うるさいエコの事をわかっていた。 心配して、言ってくれてるんだと、心の中でいつも感謝していた。 よく気がつく毛は、おなかが空いているエコに、 いつもご飯や飲み物をくれた。 そして、欲しいものや沢山のめずらしい物を買って来ては、 エコにプレゼントしてくれた。 「こんな高価なもの・・・」 と、たじろぐエコに、 「気にすんなw」 と、毛は、優しく微笑んだ。 『 気にすんな 』 これが、毛の口癖。 エコも、何でもくれる毛に、喜んでもらいたくて、 すごーーく珍しいものを手に入れようと、 いろんなショップを点々と行き渡った。 何十軒もショップを歩きまわったが、全然苦ではなかった。 むしろ、とても楽しかった。 喜んでくれてる毛の笑顔を思いだすと、エコも、 ワクワクした気持ちになったから。 そして、これだったら、喜んでもらえるだろう!!と、 エコは、ひょうたんの鉢植えを買った。 毛は、すごくすごく嬉しい気持ちになった。 もう、そのエコの気持ちだけで、十分だと思った。 気持ちだけで、そんな高価なものはいらないと、 そう心から思っていた。 毛は、にっこり笑い「ありがとう」と一言 言った。 たくさんたくさん伝えたい事があるのに。 こんなにも、感謝の気持ちがあふれてるのに・・ うまく気持ちを伝える事ができない。 ううん、エコは首を横に振ると、照れるように ピョンピョンと毛の周りをジャンプした。 毛と共有の時間、共有の場所にいるだけで、 エコは、とてもとても幸せだった。 ある日。 誰もいない砂漠の島にたどりついた。 灼熱の太陽が、足元の砂を焼くように、照りつけていた。 しばらく歩くと、足が焼けるように熱かった。 容赦なく照りつける太陽をエコは、堪忍したように見上げた。 パタパタと早足で歩くエコの姿に、毛はホラと背中を向けた。 「その足じゃ。熱いだろ」 ペタペタと砂の上で地団太を踏んでいるエコの水かきを見ながら、 毛は、愛想なく言った。 エコは余りの熱さで、足が本当に焦げてしまいそうで、 毛の背中に飛び乗った。 愛想のない毛とは裏腹に、背中は、とても とても暖かくて、 それは、毛の見えない優しさなんだと、 エコは、毛の背中に頬をすり寄せた。 エコは、毛の事がとてもとても好きだったが、 それを決して口にはしなかった。 そばにいるだけでいいと、思っていた。 しばらく歩くと、オアシスが見えてきた。 エコは、毛の背中から飛び降りると元気よく走って行った。 「毛〜〜〜!すごいよぉ〜〜〜!!」 大きな湖と沢山の果物が、木にたわわに実り、落ちていた。 「毛も、ホラ!!食べなよ!!(*≧∇≦)ノオツi!!」 エコは、毛にポンとリンゴを投げた。 もぐもぐと沢山の果物を食べ、カラカラになっていた喉も潤し、 エコと毛は、満腹になり、少しは涼しい木陰に腰掛けた。 「おぶってくれて・・ありがと」 エコは、照れながら、そっぽを向いてポツリと言った。 たくさんたくさん毛に感謝の気持ちを伝えたかったが、 うまく言葉にできない・・・。 エコと毛は、お互いに、とても不器用で似た者同士だった。 素直に言葉にできなかった。 しかし、エコと毛は、お互いの心の中の気持ちが、 手に取るようにわかっていた。 愛想のない返事だったが、ほんの少し見せる仕草に 優しさを感じて、エコは、顔を緩ませた。 少し休憩すると、エコと毛は、再び、歩きだした。 いつまでも、このオアシスで暮らす訳にもいかない。 流れ出る汗を拭い、砂ばかりが続く大地をひたすら歩いていた。 前に進んでるのか・・・ この先に何があるのかさえも・・ わからない。 あるのは、目の前に広がる砂と カラカラに乾いたサボテンだけ・・ だが、毛は、後ろを決して振り向かない。 それが、毛の生き方だった。 そんな毛の背中を見ながら、エコも進んで行った。 ずっと、ずっとその背中について行こうと思っていた。 アタシ達は、どのくらい歩いただろう・・・ 果てしなく続く砂漠で、何日も何日も歩いていた。 また、オアシスがあるかもしれないと希望を胸に。 エコは、砂だらけになった羽をバタバタとはらい、 不意に、砂の上に生えているサボテンを口に運んだ。 「まずぃ・・・(;m;)」 思わず、ペッペとサボテンを吐き出す。 池もなけらば、湖もない。 果物も、もちろん落ちている訳がない。 アタシ達は、とてもとても おなかをすかせていた。 もう、ここ数日、水さえ口にしていない。 「ねぇ・・・見て!!毛〜〜!!!」 エコは、遠くに見える揺らめく湖を指差した。 「あれオアシスかなっ!!!」 エコと毛は、遠くに見える湖へ必死に走った。 しかし、いくら走っても走っても、 たどり着く事ができなかった。 それは、蜃気楼だった。 エコは、しゃがみこみ、砂の上に翼をついた。 「もぉ・・・全然着かないよ・・・」 毛は、しゃがみこんだエコの隣に座ると、 「ほら、これカワイイだろw」と、 小さい小さいサボテンの植木を見せてくれた。 「すげーよな・・・こんな水もないような・・砂しかない場所で、 こんな小さなサボテンでさえ、たくましく生きてるんだもんなw」 毛は、エコを励ますように、そのサボテンをエコの手のひらに乗せた。 それは、砂漠という環境で生育するために特に進化した とても とても 強い植物。 「ほんと・・すごい・・・」 エコは、いつまでも、その翼の中にある 小さな小さなサボテンを見つめていた。 「なw」 だから・・・俺らも、がんばろうwと、 毛は、エコに手を差し伸べた。 言葉足らずだけど、何気ない毛の優しさに、 エコは、頑張ろうと、立ち上がった。 その時だった。 信じられない事に、アタシ達の敵である害虫が、 ワサワサと、砂漠の中から、這い出て来たのだ。 「――――!!!」 「エコ!!さがってろよ!」 毛は、空高く、身軽にジャンプすると、 害虫の背後にまわった。 蹴りパンチを数回繰り返し、 あっと言う間に、退治してしまった。 「スゴイのダー!!!」 少し離れた所に待機していたエコは、足早に毛に駆け寄った。 「こんな砂漠でも、害虫は、生きていけるんだなw」 「俺らも、負けられないなっ!w」 そう言うと、毛は、雲一つない青い空へ大きくジャンプした。 そんな毛を見て、エコも、負けずに空高くジャンプした。 いつも、毛はエコに元気をくれた。 ヘトヘトになった心も体も、水を飲んだかのように元気になった。 高く高くジャンプをする二人の姿は、太陽よりも、 もっともっとまぶしく、砂漠の風景を鮮やかに飾っていた。 それから、エコと毛は、沢山の島を渡り、 沢山の同じ風景を見てきた。 いつも隣にいるのが、当たり前のようになっていた。 どんな時でも、一緒にだった。 一緒に、泣いて、笑って、怒って、励ましあって そして・・・好きな想いを気づいて欲しかったのに アタシは、そっぽを向いていたんだ・・・ そして・・・ 肌寒い風が通り過ぎる季節、毛は、アタシの手を離して、 どこか、遠くへ旅立ってしまった。 きっと、アタシにも知らない夢があるのだろう・・・ 別れは唐突だった。 追いかける事もできなかった。 すがりつく事さえも・・ ただ振り向かずに進んでゆく毛の後ろ姿を・・ いつまでも、いつまでも、見送っていた。 素直に気持ちを最後まで伝えられないまま・・ 何の約束も交わさないまま・・別れてしまった。 エコは、毛が見えなくなった風景をずっとずっと見つめていた。 自分のやるせなさと、毛への痛いほどの想いに、 胸は、締め付けられ、今にも張り裂けそうだった。 長い間、一緒にいて、ほんとは、気づいていたんだ・・・ 毛の瞳は、アタシとは、行き先の違う夢を追っていた事を。 毛の夢がかなうように遠くで見守ろうと・・ 笑顔で見送ろうと思っていたのに・・・ さよならを言われても、平気な顔ができるよに 涙がでないようにと、思っていたのに・・・ 毛がいない事が、こんなに悲しいなんて―――。 沢山の涙が頬を何度も伝い、視界がゆがんでいった。 それから、月日が流れた。 エコは、住みやすい土地を見つけ、何不自由のない 穏やかな毎日を過ごしていた。 そこの島で、ある一匹のペンギンのトロと出会った。 トロは、エコと同じ色の翼を持ち、 初めて会った時、お互いにとても共感が持てた。 エコは、忘れられない毛の事を思い出しては、心を沈ませていた。 そんなエコを察して、トロは、何も聞かずに、 ずっとずっと、離れずに一緒にいてくれた。 夜中でさえ、眠りにつけないエコのそばを離れなかった。 そして、エコの寂しい気持ちが、少しずつ和らいでいった。 トロは、エコが少しでも元気になるように、 面白い技を覚えては、エコに披露した。 トロが見せる面白い技に、エコは、笑うようになった。 何気ないトロの優しさに、時間をかけて、 少しずつ心を取り戻していった。 エコは、窓辺から、舞い散る枯れ葉を眺めていた。 毛と別れた日のような冷たい風が吹いていた。 色があった思い出もだんだんと色あせ、セピア色に変わってゆく。 なぜ・・・ 忘れてゆけるんだろう。 忘れたくない とても とても大切だったことも・・・ いつかは、心の片隅においやられ・・薄れてゆく・・ 積み重なる時間の中で・・・ 新しい出会いや いろいろな出来事にうもれてゆく 大切にしてきた思い出が・・・ 塗り替えられるように・・心から少しずつ無くなっていく 大切に大切にしてきたのに・・・ 大切なものが増えるたびに胸から消えてゆく・・ どうして消えてゆくんだろう・・? 忘 れ る という残酷なものを時に、憎んでしまいそうになる・・ 流れてゆく時の中で――。 もしできることなら、 アナタとの想い出だけは、この心から消えないで・・・ エコは、あの日、毛からもらった 小さな小さなサボテンの鉢をヒシと抱きしめた。 そして、エコの涙が、サボテンの鉢にポタリと落ちた。 トロは、そんなエコをずっと、傍で見守っていた。 そして、いつも大切そうにしているサボテンも知っていた。 しかし、トロは、エコに何も聞かない。 聞けなかったのかもしれない。 大切な大切な思い出の欠片なのだろうと、優しく見守っていた。 ある日、トロがエコを励ますように教えてくれた。 サボテンの形は進化してる間に、水に適応するためにドンドンと 変化をとげて、水が少ない場所に生えるサボテンほど 小さいサボテンなんだと。 今まで、サボテンの中で、一番弱いと思っていた 小さな可愛らしいサボテンが、一番強いサボテンだったとは・・・ 感心したようにエコは、その小さなサボテンをまじまじと見つめた。 そして、その小さなサボテンのように、強く強く生きようと、 心に決め、その日から、徐々に笑顔を取り戻していった。 そんなある日。 ふとした拍子に、エコは、大事にしてきた 小さなサボテンの鉢を割ってしまった。 エコは、慌ててサボテンを植え替えようと、 慌てて、土とサボテンを拾い集めた。 しかし、ハタと・・その手が止まった。 もう・・・思い出にすがりついてた自分にもお別れしようと。 エコは、壊れてしまった鉢と一緒に、 小さなサボテンをそっと庭へ埋めた。 隣には、トロがいる。 無邪気にピョンピョンと跳ねる姿を見て、 エコは、ほんの少し微笑んだ。 曇っていた空は、少しずつ晴れ間がさしていた。 雲の上は、きっとあの日のようなまぶしい太陽が あるに違いないと、エコは空を仰いだ。 いつしか、エコは、毛との想いが、 思い出になっていくのを待っていた。 その想い出はいつしか色あせてゆくけど・・・ アタシにとって、きっと大切な宝物になる。 その時が来るまで静かに時を重ねよう・・・ そう思っていた。 トロが、ふと、 「エコ。待ってるだけでいいのかよ」 と、木の上に腰掛けながら、つぶやくように、 エコに問いただした。 エコは、唐突なトロの言葉にとまどい、口を閉ざした。 「もっと・・・素直に・・わがままになっていいんだぞ」 そのトロの優しい一言が、今まで、閉じ込めてきたエコの心を とかしていき、涙があふれ出てきた。 「もっと、生きたいように生きろよ」 見透かされているような言葉に、エコは、下をうつむき、 何も言い返せない。 トロの言う通りだった。 不器用なアタシは、やりたい事を本当に伝えたい事を・・ いつも胸に秘めてきた。 今まで、何を頑張ってきたのだと言うのだろう・・・ 強く生きようとしてたのに・・何も強く生きていなかった。 弱いままの何も変わっていない自分が、今ここにいた―――。 トロは、木から飛び降りると、 『どうになるか?』じゃなくて、『どうするか』だよw と言い、エコの背中をポンポンと叩いた。 どうしたいのか・・・ それは・・・毛と・・・ずっとずっと一緒にいたかった。 エコは、背を向けてきた自分の正直な気持ちに・・ 毛への変わらない想いに・・・ とめどなく涙があふれてきた。 「今、この空の下のどこかにいるのであれば、 追って行けばいいじゃないか・・・w」 トロは、笑顔を向けると、エコの背中を押した。 トロは、エコとずっと、一緒にいたかったが、 本当にいるべき人は、自分ではないと思ったのだ。 そして、自分から別れを言い出した。 それは、一番勇気のいる事。 トロは、とても とても強かったのだと、 あらためて、エコは、思い知った。 たくさんの優しい言葉をくれるトロに、エコは、 とめどなく流れる涙を隠すように深々と頭をさげた。 本当の強さがなんなのかわかった気がした。 エコは、悲しみや寂しさを背負って生きる事が、 強い事だと思っていた。 だけど、それだけじゃいけないんだ。 今、やれる事を精一杯やって、 胸をはって生きていないと、強いとは言えない。 エコは、あの日の毛のように、トロに背を向けて、 振り返らずに歩き出した。 毛に、このあふれる想いを伝えるために―――。 運命ならまた、出会える。 いや・・・出会わない運命なら、 必ず会えるように、自分のこの手で変えてやる! エコは、いつになく、晴れやかな気持ちになっていた。 そして、力が、体から、あふれ出るのを感じていた。 明日を、信じよう 夢を、もう一度信じよう 本当の強さを知った エコは、あの小さなサボテンのように、 とても とても たくましく生きようとしていた。 ― END ―   メニュー
♪夢色の時
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