『夢の果て』
〜第二章 記憶〜




・・・どんどん遠ざかっていく彼女の背中・・・







早く追いかけなきゃ。





・・・大好きな君に一歩でも近づきたいから・・・





君を早く追いかけて行かなきゃ。




早く呼び止めなきゃ。






しかし、想いと裏腹に、声がでない。



足がもう一歩も前に進まない。








・・・ああ もう気が付いてた。






気が付いてたんだ。 






君の傍にいるべき鳥は、
オレじゃないってこと。







オレが君じゃなきゃダメなように
君もあの鳥じゃなきゃダメなんだ。





気持ちに蓋をして
見ないふりをしてたら
なんでだろう
もっと苦しくなった・・・




オレは君の背中から視線をそらし、
歯をくいしばり、うつむいた。








君の幸せが



オレの幸せだ なんて思えるほど





大人になれなくて・・・







彼女と出会えたのは、ある夏の日。


大きな入道雲の下で、ヒマワリのような笑顔を向けて、
オレに話しかけてきた。

フワリと優雅に舞う、黄色いその羽は、
太陽の下、一瞬、金色に輝いて見えた。


彼女の名はリリと言った。


誰にでも優しく、笑顔が素敵なリリには、
いつも沢山の友達に囲まれていた。



日頃、無愛想にしているアルには、
話しかけてくる女の子はいなかった。



周りに気を使い、ニコニコした所で、疲れるだけ。


アルは話しかけて来てくれたリリから
すぐに視線をはずすと、素っ気無い態度を取った。



しかし、次の日も、その次の日も、リリは、
何かしら話題を持ちかけて、
話しかけてくれる。


始めは鬱陶しいと思った日もあったが、
日がたつにつれて、思ったほど、苦にならず、
リリが話しかけてくれると、
いつの間にか、自然に自分の顔から
笑みがこぼれていた。


時には、楽しい話で、ジョークを言い合ったり、
時には、立ち止まって、長話したり、

アルも心を少しずつ心を開き、
リリと沢山の話をした。




そんな楽しい日々が続いていた ある日。


突然、パタリと、リリが現れなくなった。


いつもだったら、どこから ともなく舞い降りて、
笑いながら、話しかけて来てくれるのに。



どうしたと言うのだろう。



もしかしたら・・・
どこかの島へ渡ってしまったのだろうか・・・



でも、そういう事なら、
一言くらいは伝えてくれるだろう。




リリと会えない日々が続き、
胸が苦しくなる。



会えなくなって初めて知った気持ち。





いつも話しかけてくれたリリに
だんだん想いを寄せ、
知らない間に、好きになっていたのだ。




アルにも数匹ではあるが、男友達がいた。

島の一番の情報通と言われている友達に
リリの事を、さり気に聞き出した。
友達のクチから出たセリフは、
耳を疑いたくなるような言葉の数々だった。



『リリには付き合ってる鳥がいて、
最近はよく隣りの島で、仲良くしていると』



アルはガックリと肩を落としたが、
友達に気づかれないように、
そうかぁ〜〜アハハハーと、カラ笑いをした。


リリ以外の話をしたが、言葉が遠くに聞え、
耳に届かない。


頭が真っ白になり、
ただただ、友達の隣りでカラ笑いし続けていた。




今思えば、この頃からだった。


カラ笑いばかりするようになったのは。



心は泣いているのに、顔では笑っている振りをした。






傷ついた心を隠し、


いつも悲しい心は放ったらかしで・・・



自分の心にまでウソついて・・・




隣りの島へ飛び、
リリに会いに行った時もあったが、
ほんの少し挨拶を交わすだけしかできなかった。


リリの隣りには、
彼らしき鳥の姿があったからだ。


追いかける事もできず、
アルは、リリに背を向けると、
トボトボと家路に向かう。



失恋の傷は、海よりも深く、

心は闇よりも暗い と知った。





一匹になると、落ち込み、
行き所のない気持ちが苦しくて、
悲しくて、
悔しくて、
寂しくて、
押さえられない感情が溢れ、
何度と涙を流した。





ヒグラシが鳴く季節、
その恋は、音も無く終わりを告げた。








アルの心は夏で止まったまま、
秋になり、季節だけが過ぎていく。


この世に一匹、取り残された気分になり、
冷えきった翼を丸め、ベットにもぐりこんだ。


鈴虫がアルの心を癒すように鳴いている。





その夜、アルは夢を見た。



アルは一匹、海岸に腰掛け、
夕焼けをボンヤリと見ていた。


いや、見ているようで、
何も映していない うつろな瞳。



そんなアルに、一匹のペンギンが肩を叩いた。



そして、言ってくれたんだ。







ひどく苦しくて、心に広がる闇が


どんなに、深い深い闇でも、




『闇は夜明けを知ってる』と、





教えてくれたんだ。





その暖かい言葉に、
アルの瞳から涙がこぼれた。






ふと、気づいた時には、
隣りに誰もいなく、ただ、眩しい夕日が、
アルを包んでいた。







君と話せない日がくるなんて



夢にも思ってなかった。





・・・さようなら・・・



・・・誰よりも大切だった リリ・・・









自分の悲しみも寂しさも受け止めて、
リリへの最後の言葉を
心の中で強くつぶやいた。






そして、夕日に染められた水平線を
アルはシッカリ見つめた。




沈んでゆく夕日を一身に浴びながら、
また明日へ、強く強く立ち上がろうとしていた。







初恋の思い出、そして失恋。

心のどこかで忘れようとしていたツライ記憶。



今頃になって思い出した。





・・・そう・・・


オレはあの日、オマエと会ってたんだ。



あの時、話しかけてくれたペンギン・・・
あれは、確かにギンだった。



ギンは、いつもオレの隣りで
応援してくれてたのか?



アルは、昼食のスープをかき混ぜながら、
窓の外をジッと眺めているギンを見つめた。




「なぁ。ギン?」
アルは、塩コショウを入れながら、
話しかけた。


「今日は晴れてるし、海岸行くか?」



「うん!やったぁ〜☆」
ギンは足をペタペタとさせて喜んだ。




「ボクたちが会った夢の海岸思い出した?」
(*´艸`)と、ギンは笑いながら、
首を少しかしげて、アルを覗き込んだ。




「んなの・・・」
ブツブツ言いながら、アルはそっぽ向き、
照れながら、必死に知らない振りをし、
グルグルグルグル、スープをかき混ぜた。







「アルが作るスープ美味しかったぁー!」
満足そうにオナカをポンポンを叩きながら、
少し遅い足取りでギンがついて来る。




「オレの夢の中に住んでるって事は・・・」

「・・・あのさ・・・」

聞きづらそうに、アルはギンに話しかけた。

「オレの考えとか・・・心とかも・・」

「こぉ・・・分かっちゃってるワケ?」



ギンはアルの後姿を見ながら、答えた。

「そうだねぇ〜。アルの一部だからねb」

「簡単に言うとb」
「ボクはアルで、アルはボクだよ!」





「・・・。」

オレはオマエて・・・(滝汗)



オレはギンほど、お菓子好きな訳でないし。
あんなに、泣き虫じゃない!



「全然わからねぇ〜よっ!」

アルは、そう叫び、
ギンの言葉を振り払うように
少し見えてきた海岸目掛けて走り出した。





日が傾き、
やがて、真っ赤な夕日が、オレ達を染めた。




アルは、オレンジ色の海に向かって叫んだ。



「ギン!ありがとうな!!」




まんべんな笑みをこぼしているアルを
優しく見つめ、ギンはニッコリ微笑んだ。




オレ達は、砂浜に腰を下ろし、
夕日が水平線に消えるまで、
真っ直ぐ見つめていた。





あの日のような眩しい夕日が、
心にジンワリと溶けていくのを感じながら・・・




― END ―

『夢の果て』メニュー

♪遠い背中
inserted by FC2 system