『夢の果て』
〜第三章 変流〜

ある晴れた昼下がり、
眩しい日差しに目を細め、
アルは高台に寝転がっていた。


そこは、昔から島はずれにそびえたち、
島が一望できる 名のない高台。

遠くの山々まで見え、
アルは良くここへ足を運んだ。


街から遠く離れた
誰も来ない静かな場所。



島で一番空に近いこの場所で、
仰向けに寝そべり、
雲を眺めるのが好きだった。



静寂の中、
雲はゆっくりと少しずつ形を変えながら、
流れ行く。





・・・同じ姿を見せない雲のように・・・








あまり変わらない生活の中で、


少しずつ、少しずつ



オレも変わっているのかな?
















少しずつ自分も

成長してるのかな・・・?











少し暖かい風が、優しく頬をなでた。





そっと、アルは目をつぶり、
あの頃を思い出す。





とてもツラい記憶。










アルはあの頃を思い出すように、
ギュっと目をつぶった。





脳裏に映ったのは、
色鮮やかな羽を持ち、
青空の下で無邪気に笑う
アイツの笑顔だった。







・・・ピタ・・・


・・・ポツ・・・ポツ・・・


あんなに晴れていたのに、
雨雲が立ち込め、
突然、大粒の雨が降り出した。




・・・あれ?・・・


起き上がり、木の下で雨宿りしようとしたが、
体がなぜか動かない。




・・・何でだ?!・・・



どんどん雨脚が速くなり、
雨は容赦なく、アルにザーーーザーーーと降りそそいだ。



うわぁぁ〜〜〜。



ブルブルっと、冷えていく身体を振るわせた。




ふと、自分の翼を見ると、
いつも見ている自分の白い羽ではなく・・・


大きな大木の太い枝と
葉が雨で潤い揺れているのが見える。






・・・あれ・・・オレ・・・・

・・・木になっちゃったんだ・・・





頭の中がパニックになるはずなのに、
なぜだろう・・・
心は不思議と落ち着いている。





台風が来ているのだろうか?

更に雨脚が強くなり、強風が吹き荒れた。





オレは、強風で大きく揺れ、
葉や小枝は折れて空高く舞い上がった。


うぁぁぁぁあああ



どうする事もできない状態で、
ただただ、強風の中必死に耐えた。



すると、どこからともなく、
雨宿りしに一匹のペンギンが走ってきた。




オレの足元(大木の下)で、
不安そうに空を見上げている
ペンギンをよくよく見ると・・・




・・・!!
ギンじゃないか!!!



そこには、
大事そうにオレンジ色のリュックを
抱きかかえているギンの姿だった。



『ギンー!!!』
呼びかけるが、声にならない。



木は、しゃべれないんだ!!

ガ―il||li(´OωO`)il||li―ン


アルは雨からギンをかばうように、
枝を伸ばした。



「ボクのお菓子がぁぁぁ!!」

「(;m;)ああ〜しけってるぅ〜」

そう言いながら、濡れたビスケットを
食べている・・・(汗)





・・・(^ω^;A)
相変わらずだな・・・w



弱まってきた雨と風に、
アルは、辺りを見渡した。


どうやら、台風は過ぎ去ったようだった。





雲の切れ間から、
さっきと変わらない眩しい太陽が顔を出した。




すっかり雨が上がると、
ギンは思い出したように、
ヨジヨジと木を登り出した。



うぉぃぉぃ!!
オレに登るな!!
(`д´#)ゴルァァァァァ!!!



もちろん、ギンに、その声は届かない。




「わぁぁぁ!(*・∇・*)」

高い枝に腰を下ろすと、
ギンは目をキラキラとさせて、
歓喜の声をあげた。







アルも、ギンが見つめている方角に視線を移すと・・・。



そこには、今までに見た事もないほど、
大きな虹が空を彩っていた。


嵐が汚れた空気を洗ってくれたかのように、
空気が澄み、
薄い水色の空は、
七色の透明な橋をクッキリと浮かびあがらせた。



「キレーだねぇ〜〜〜w」

まるで、ギンは
木に話しかけているようだった。



(*¨)(*..)(*¨)(*..)うんうん
・・・キレーだなぁ・・・





「はいwビスケットw(*´U`*)ノ●ペタ」



大木にペタっと、ギンは、
しけったビスケットを貼り付けた。





ぇ・・・?




「アルゥ?食べないのぉ?」


(・▽・;?!



ギンは、この大木がオレだって分かってたのか!




「食べないとぉ〜」
「ボクが食べちゃうよぉ〜(*´∇`*)」


そう言いながら、
ペタペタとビスケットを貼ってくる(滝汗)



ぁあー!そうか!\(^o^)/

今流行のビスケットパックか?!
これでお肌スベスベになるわぁ〜w

・・・って、あるわけないだろっ!



大声で、ギンに向けて声をあらげ、
ブンブンと両手(枝)を振った。





「おい!!!ギン!!!」


「わぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!」

その声にビックリして、ギンが大声をあげ、転がった。




ギンは、オレンジ色のリュックサックと、
一緒に、木の下へと落ちていく。




「−−−!ギンーーーー!!」







バッ!!!!!!!!




目を大きく開けると、
そこは、いつものオレの部屋。

いつものベットに仰向けで寝ながら、
アルは手を伸ばしていた。



また、・・・ゆ・・・夢か(汗)



ポロっと、ひたいから落ちたのはビスケット。

ギンがビスケットを付けていたのは、
夢ではなかったようだ。



アルの顔にいっぱいビスケットを付けて、
ギンが遊んでいたのだ(汗)



「・・・おまえなぁ・・・」
寝起きで、怒る気になれず、
顔に付いたビスケットをモグモグと食べながら、
身体を起こした。

「∩′∀`∩アヒョ!アル起きた?」
いたずらっぽく笑いながら、ギンが覗き込む。



・・・ぅ・・・

「なんか、しけってるなぁ〜(=。=)」

クチを動かしながら、アルの目は、まだ寝ている。



「だってぇ・・・ねぇ〜」

天井から頭にポタポタとあたる水に、
アルはやっと目を覚まし、周りを見渡すと・・・
部屋中、バケツだらけ。



「Σ(゜д ゜)」


窓の外を見ると、凄まじい豪雨で、
強風が窓をガシャガシャ叩いていた。



「台風は過ぎ去ったんじゃないのかよぉ〜〜〜!」
思わず、さっきの夢を思い出す。


「それは夢ででしょぉ〜〜〜!」
アルの言葉に、ギンは、そう言い返した。



「ギンはオレの夢の中の事も分かるのか?!」
驚きを隠せず、アルはギンを見つめる。



「そりゃ〜〜そうだよー」
「アルの夢の住人だし、わかるよぉ〜〜〜☆」
「起こしに行ったのも意図的なんだぉ☆」
得意げに、プクプクのおなかを
前に突き出してギンは言った。


「そうだったのかぁー」
「ってか、こんな緊急事態なら〜バ!っと起きられるくらい」
「直接、起きろ!って言ってくれよ・・・(汗)」
アルはあたふたと、走りながら、
台所から、お鍋を持ってくると、
ベットにポンと置いた。



「それは・・・できないよぉ〜」
「夢を作り出してるのは、アルなんだから〜」
と、ギンは少し困った顔をして、首をかしげた。



「は???」
「また、訳が分からない言葉を・・」

だいたい、夢の中のペンギンが
現実にいるって事態オカシイよな。


ブツブツ言いながら、アルは、いそいそと、
雨漏りしている所にバケツやお鍋を置きまくった。




木で出来たアルの家は、
雨漏りがヒドかった。




バケツをまたぎながら、
部屋を歩かないといけないくらい
沢山のバケツに囲まれていた。



部屋の隅にある柱に
アルとギンは腰掛け、
音を鳴らすバケツ達を見つめ、
雨が止むのを待った。




・・・カン・・・カン・・・カン・・・

・・タン・・タン・・タン・・

・・・コト・・・コト・・・コト・・・

・・ポン・・ポン・・ポン・・

・・ピチョン・・ピチョン・・ピチョン・・




「なんか・・・音楽みたいだね♪」
楽しそうに、リズムに合わせて、
ギンはおなかを叩いた。

・・・ポン!・・・ポン!・・・ポン!


そのギンの姿があまりにも滑稽で、
アルは噴出し笑い出した。



外は昼間なのに、真っ暗。
稲妻の光の音がたまに光り、
家は強風でギシギシときしむ。


いつもは、不安の中で、
ポツンと部屋の隅に座りながら、
嵐を過ぎ去るのを耐えていたのに、
ギンといると、不思議と、
ワクワクした気分にさせてくれた。




わぁぁ〜〜〜!w

スゴイ光ったぁぁぁ!!w




ピッシャー!!!
ゴロロロロッロロロロrr!!




頭を抱えながら、
なぜか、オレ達は笑っていた。



何でおかしかったのか、分からないが、
こんなにも嵐の日を楽しく過ごした事はなかった。




激しくなる嵐の音が、より一層、盛り上がらせ
家中にオレ達の大きな笑い声が響き渡っていた。







夕方になると、徐々に雨脚が弱くなり、
晴れ間が見えてきた。


「ねぇ〜〜〜☆虹見えるかな〜虹ぃ〜w」
「ボク、夢の中でしか虹見た事ないから〜」



「本当の虹!見に行こうか!」
そう言って、アルとギンは外へ飛び出し、
あの丘へと走り出した。




夢で見たあの高台は実在している場所だった。




アルとギンは高台に立ち、空を見渡した。


澄み切った空に、虹が見えているはずだった。




眩しい太陽が見えているものの
夢とは違い・・・
現実はそう簡単にウマくいかない。



「虹出てないなぁ〜〜〜」


「虹ぃーーー(;m;)」



アルとギンの間を、湿気を帯びた風が吹き抜けた。







ギンは残念そうに空を見上げていたが、
リュックサックから、敷物を取り出すと、
冷たく濡れた高台に、敷き、ペタリと座り込んだ。



いつの間に、敷物まで用意してたのだろう。



ギンは、いつも準備がいいなぁ・・・
そう思いながら、アルもその敷物に座り、
遠くまで見える山々の景色と青空を見つめた。



嵐で吹き飛んで行ったと思った雲が、
また、どこからともなく、沸いてきて、
静かに空を流れていた。




「嵐、無事に過ぎ去って良かったなぁ〜w」

「あのボロ小屋、最悪だろ?」


アルは、流れゆく雲を見つめたまま、
ギンにポツポツと話しだした。


「建て直しした方がいいんだけど」

「あの家には大切な思い出があって」

「どうしても、取り壊せないでいるんだ・・・」




「そうなんだぁ〜w(*・〜・*)モグモグw」
ギンは持ってきた青リンゴ餅をクチに運びながら、
返事をした。



懐かしい遠い記憶をたどるように、
アルは少し目を細めた。







アルは生まれながら、普通のアヒルより体力がなく、
病弱なアルヒだった。

足をバタバタと、もがき、
母鳥を必死に追いかけたが、
そのうち、家族の群れが小さくなっていく。

『待ってぇ〜おいてかないで〜』
アルの弱々しい声は、誰にも気づかれず、
とうとう家族と離れてしまった。


もうすぐで冬になる。
きっと、暖かい地に飛んで行くんだろう。
しかし、アルには、その力がなかった。


冷たい池の水が、
アルの足をジンジンと冷やしていた。







周りの鳥達には家庭があった。
アルはそれをウラヤマシそうに見るしかなかった。


暖かい家庭や暖かい家に憧れ、
木の切り株や草を集め、家を作ったものの、
隙間から雨風が入り、家とは程遠いものだった。

体が小さく、弱かったアルにとっては、
これで精一杯だった。

小屋と言った方がピッタリとくる家だが、
外で冬を越すよりはマシだ。

小屋で小さく丸まり、寒さをしのぎながら、
春が来るのを待っていた そんなある日。


アルが食料を調達し、帰って来ると、
一匹の鳥が、アルの小屋でスヤスヤと寝ていたのだ。

頭が黒く、綺麗な黄色い羽を持っていたが、
なんだか、ひどく疲れて見えて、起こす気にもなれず、
アルは、その横で寄り添うようにして寝た。

いつもよりも暖かくて、心地いい。

アルは、すぐに眠りに落ちていった。

朝になり、窓から容赦なく差し込んでくる
日光の眩しさに、アルは目を覚ました。
部屋の中なのに、朝露がピションと、鼻にあたる。
大きな葉っぱを持ってきて、
まだ寝ている鳥の上に差してあげた。


よほど、遠い所から来て、疲れているのだろう。
お昼過ぎまで、眠り続けていた。


やっと、目を覚ましたと思ったら、その鳥は大きく飛び起き、
元気よく、お礼を言った。
「あ・・・!ありがとう!!!」
「キミの寝床で寝てしまったみたいで!」
「ついつい・・・あの寝心地が良さそうで!!アハハハ〜!」
予想以上の元気の良さに、アルは少し仰け反った。


「いやー大丈夫だよ(・。・;オレ、アルってんだw」
「オレはクー!よろしく!!」


クーの方が少し年上だったが、
歳が近いオレたちは、すぐに仲良くなり、
一緒に暮らし出した。


クーも家族と離れ離れになり、
独りで旅をしていたと言う。



「ねぇ、この家作り直さない?丈夫な家作ろう!」
そう言い出したのは、クーだった。
アルは、クーの提案に大きく首を縦に振った。

体の弱いアルだったが、クーがいれば、
何でも出来る気がした。


不器用な上に、お金も少ないオレたちは、
森の小さな木を切り倒し、
家と森との往復を何度も繰り返しながら、
少しずつ家を作って行った。

完成までに数ヶ月もかかったが、
やっと完成する事ができた。

木で出来た家で、住み心地がとても良い。

「ちょっと、まぁ・・多少雨漏りはするけど」
「オレ達なりに、いい家ができたな!」
クーは完成した家を見上げ、
偉そうに腕組みしながら、言った。


そして、その夜、
アルとクーは、手作りの椅子に腰掛け、
ホットミルク片手に乾杯した。

クーと沢山の話をして、
あっという間に夜になり、就寝の時間になる。


毎日が楽しくて、時間が短く感じた。


瞳を閉じて、眠りにつく時、
無性に「明日」が待ち遠しかった。
今までこんな風に
思えた事なんてなかったのに。


ただ、クーがいるだけで・・・。


薄暗かったオレの世界に
真っ白な光が照らし出す。



クーといると、
大きな翼を持ったように自由に飛んでいるようで、
どこまで、飛んで行けそうな気分になれた。




クーと出会わなければ、
つまらない毎日を過ごし、
独りだけの殻に閉じこもっていたに違いない。


それに、不器用なオレを笑顔にしてくれた。
暖かい気持ちにさせてくれた。
いつも くだらない話をしながら、笑い合い、
すごく楽しい気分にさせてくれた。



アルは家族がいなくても、
心から幸せになれる事を知った。




明日も明後日も、クーがそばにいて、
楽しく笑い合って、過ごしていく未来が、
独りだったオレにとって、すごく嬉しかった。



全てのものが輝いて見えて、
失うものなんて何もないと思っていた。


ましてや、
眩しくて明るい未来を運んで来てくれた
クーを失うことさえ全く考えていなかった。




そんな矢先の出来事だった。





楽しい日ばかり続く訳がなく、
ケンカをする事も、しばしばあったが、
今回は、少し事情が違っていた。


突然、家族を探す旅に出たいと言い出したのだ。


言い争いになり、
結局、オレは、クーに
どーでもいい素振りを見せ、
「勝手にすればいいじゃないかっ!」
と、言い放つ。


「はいはい。勝手にしますよー」
と、クーは、いつものような
冗談染みた口調で答える。


それが余計に腹立たしくて、
アルは、プイっと横を向いた。


少し心配になり、チラリと見ると、
淡々と旅支度を始めるクーの姿があった。


アルは、見ていられなくなり、家から飛び出した。





この先もずっと、家族のように暮らして、
クーの愛する鳥が出来たら、近くに家を建てて、
ずっとずっと、オレ達は仲良くやっていけると信じていた。
でも、それは、オレの理想だったと思い知らされる。


違う鳥同士、違う考えもあるというのに・・・。

今まで同じ境遇で育ち、
一緒に考えながら、一緒に道を開いて、
ずっと過ごしてきたから、
同じ思いなのだと思い込んでいた。


もぉ、寂しい思いをしたくないと・・・。

もぉ、誰も失いたくないと・・・。


クーはアルの唯一の理解者だった。
だから・・・
その思いはクーも同じなんだって思っていた。


・・・ずっと・・・
一緒にいられると思っていたんだ。





オレ達は、クチもきかず、
数日後、ケンカをしたまま、クーは、家を出て行った。


アルは、大きく羽ばたいていくクーの後姿を、
見えなくなるまで、見つめていた。

『さようなら』
『ありがとう』
伝えられなかった言葉を、
アルは心の中でつぶやく。



また、独りになってしまった。



狭くとも感じた この部屋がすごく広く感じて、
孤独が襲う。


静寂に押しつぶされそうで、アルは うずくまった。


クーと出会わなければ・・・
孤独が、こんなにも寂しい事なんて、
知らずに済んだのに・・・


胸が苦しくなり、
床に涙がポタポタとこぼれ落ちた。



クーと出会わなければ・・・よかった・・・







取り残されたアルは、クーが飛んで行った空を
あくる日も、あくる日も、見つめていた。


帰って来るかもしれないと、
心のどこかで、待っていた。





長い長い歳月が過ぎ去り、木枯らしが吹く季節、
クーと共に作った小さな家は、すっかりボロボロになり、
屋根は風で吹き飛びそうなほど、カタカタと揺れ、
歩くたびに床がギシギシと鳴った。

だいぶ成長したアルには、今の家よりも
いい家が出来るチカラや技術もあった。
それに、あの頃とは違い、
お金を十分に持っていた為、街に出れば、
家を建てる素材を容易に買う事ができた。 
レンガでも、ブロックでも、
今の木の家よりも、はるかにイイ家が作れるはずだった。


しかし、アルは新しい頑丈な家を建てる事はなかった。


今の家と同じ素材の木を山から拾ってきては、
壊れた所を直した。


どんなに、ボロボロでも、
クーと一緒に作った家だから・・・


それに・・・
クーが帰ってきた時の為に、
あの頃と同じ家のままにしておいて
あげたかったのだ。






冬になり、雪は島一帯を真っ白に染めた。
アルの家も例外ではなく、容赦なく、
ボロボロな屋根に これでもかと、
今にも家を押しぶしそうなくらい雪は降り積もる。



屋根の雪かきを毎日朝昼晩繰り返し、
アルは家を必死で守り続けた。


寒さがより一層、厳しくなり、
暖炉のない この家は外と変わらないほど、
冷たい空気が漂っていた。



アルはベットに丸まり寒さに耐え・・・
毎日が楽しかったクーの夢を見た。
起きた後、暖かくて、悲しくて、不思議な感情が流れる。


布団にもぐりながら、
誰もいない冷えたい部屋を見つめ、



冗談を言いながら、いつも明るく振舞う
クーの笑顔を思い出していた。



クーは、別の場所で
楽しい生活をしているのかもしれない。





オレがただ・・・


クーとの思い出の家を


とっておきたいだけなのかもしれない・・・



あの頃のままにしたいのは、
オレの願い。


あの頃のような生活を望んでいるのは、
オレだけの願い。


ただの独りよがり。



もう戻って来る事はないかもしれないのに・・・。




小さな希望が、
この寒さに・・・孤独に・・・
打ち砕かれていった。







雪が溶け出した春先の出来事だった。


「クゥーーーーーー?!」



クーらしき影が通り過ぎたと思い、
アルはクーの姿を追った。

確かに、それはクーだった。
1日も忘れることができなかったクーの姿を
間違える訳がない。


しかし、フラフラと飛んでいくクーの後ろ姿を見つめて、
アルは不安を覚えた。


「クゥーーー!!!」
何度も呼ぶ声に、やっと、
クーは飛ぶのを止め、地に降り立った。


「クゥー!!!お帰り!!!」
「家族とは会えたのか?!」

夢にまでみた再会だった。


「アル・・・?アルなのか?!」
アルの声のにクーは振り向いた。

が、その目には何十にも包帯が巻かれていた。



「・・・!クー!どうしたんだよ・・その目」
アルはクーに近づき、頬にそっと触れた。


「・・・オレ、目が見えなくなっちまった」
「アハハ〜〜笑えるだろー」
「あんなに我がままにアルの所出て行ったのに・・」
「この様だぜ・・・オレってアフォすぎるなw」
冗談まじりの言葉ではぐらかすのは、
昔と変わっていない。


信じられないクーの言葉に、
しばらくの間、
アルは見つめるしかできなかったが、
クーを心配させないように、アルも振舞う。
「・・・何やってんだよー!ほんとバカだな!」
「心配したんだぞ!」
アルは大きな拳で、クーの頭にお見舞いしてやった。


「痛い痛い!!何するんだよ!」
「目の見えない鳥に対してする事か!w」


あの頃にタイムスリップしたかのように、
オレたちはジャレ合った。


出て行った時のケンカとか。
クーが出て行ってから、
寂しく、独りで必死に過ごしてきたとか。
そんなのもう、どうでも良かった。



また、再会できた喜びに、
心が弾んでいた。



・・・しかし・・・
目が見えないなんて・・・。



家族を探している途中で、
害虫に目を刺され、盲目になってしまったらしい。

光すら差し込まない世界で。
クーは何を考え、孤独と戦い、旅を続けてきたのか・・・
そう考えると、アルの目から涙があふれて止まらなかった。


オレよりも、数倍大変な暮らしを余儀なくされ、
苦労も多かっただろう・・・


自分の悩みが、ちっぽけなものに感じて、
アルは、急に恥ずかしくなった。


「こっちだよw」
アルはクーの翼を取り、家に誘導した。


「ぁあ〜」
「こーして、また家に帰って来られるとは思わなかったよ」
そう言うクーの表情はとても穏やかで、
盲目な事すら、忘れさせてくれるような表情をしていた。


家に着くと、クーは木の手すりに翼を付きたどっていく。


部屋の中に入ると、クーは、
いつも座っていた椅子に腰をかけ、
懐かしそうに、テーブルを優しくなでた。



「あの頃のままだ・・・」



「全部・・・あの時のままだね・・・w」



クーは部屋の木の香りを感じ取ると、
まるで目に映っているかのように、そう言い
ニッコリ微笑み、薄っすら涙を浮かべた。




この家を大切に守り続けてきて良かったと
アルは、心から思えた。



数年探し続け、結局の所、
家族には会えなかったと言う。


何年もいくつもの島を渡り、旅を重ね、
色々な鳥達に出会い、
たった一つ分かった事があると、
クーは、いつになく静かに話しだした。



どんなツラい日でも、
どんなに困難にぶち当たった時でも、
心には、いつもアルがいて、


アルとの楽しかった日々を思い出しては、
旅を続けていたと。





血のつながりを持っていても、
生まれた頃から一つの思い出もない家族より、
いつも心の支えだったアルが家族だと。

アルと過ごしたこの島が、
この木の家が、クーの故郷だと
言ってくれた。




その言葉が、あまりにも嬉しくて、
アルの瞳からポロポロと涙が流れたが、
クーに気づかれないように、
そっと、涙をぬぐった。




クーは話し終えると、少し大人びた表情をし、
「ただいま・・・アル」
そう言って、
あの頃の面影のある無邪気な笑顔を向けた。


アルは嬉しくて、クーに飛びついた。
「・・・おかえり!」




アルとクーは、その夜語り明かした。


尽きることのない話しに、
笑い声が辺りに響き、
その夜、家の明かりは、
いつまでも暖かく灯っていた。







クーと再会した その時から、
アルは、クーの目になってあげようと
硬く心に決めた。



料理やクーの身の回りの事は全てやってあげた。



日差しが照りつけ、
入道雲が空低く泳いでいた ある夏の日。

いつも新聞くらいしか届いてない郵便受けに
珍しく郵便物が届いていた。


よくよく見てみると、クー宛の手紙だった。


きっと、旅の途中で出会った友達からだろう。


アルはクーに手紙を持っていき、読んであげた。


手紙の内容は意外な知らせだった。


その手紙には、クーの家族と偶然出会い、
家族もクーの事を探していると、
家族の所在地が示されていた。


手紙を送ってくれた鳥とは、
目を失明する前に出会い、
とても親切にしてくれた方で、
ぜひ、いつかお礼がしたいと
ココの住所を教えたとの事だった。


クーが真っ先に飛びつく話なのに、
クチをつぐんでいる。


「行ってみる?」
躊躇しているクーにアルは問いかけた。
「目の事・・・家族に心配かけちゃうとか」
「思っちゃうけどさ・・・」
「オレ・・・家族とか分からないけど」
「クーの記憶に思い出がなくても」
「ご両親に思い出があるかもしれないし・・」

「少しでも、会いたいって気持ちがお互いにあれば」
「絶対に会うべきだと思うよ!」

「会って、もし、クーが一緒に暮らしたいって思ったら」
「家族と住んだらいいんだしw」

「それに・・・」
「故郷って、1個だけじゃなくてもいいと思うんだ」
「ここも故郷で、向こうも故郷☆ね!」

こんなチャンスは二度とないかもしれない。
クーに後悔してもらいたくないと思い、
アルは説得するように話しかけた。







そして、あくる日、決心がつき、
アルとクーは、旅の準備をし、出かける事にした。

もちろん、失明したクーを一羽行かせる事はできない。
アルはクーが転ばないように、手を取り、
少し前を歩いた。



手紙を頼りに、船を乗り継ぎ、沢山の島を渡った。


数日後、やっと目的の島にたどり着き、
クーは念願の家族との対面を果たした。




クーは、ご両親や兄弟達に囲まれ、
とても幸せそうだった。




アルは、そっと見守り、
その島を独りで立ち去った。



そう・・・クーは家族を選んだのだ。


これからは、
家族と一緒に暖かい沢山思い出を作るんだ。


きっと、それがクーの夢だったに違いない。


クーが弟たちを引き連れて歩いてる姿が想像できて、
ほんの少し笑みがこぼれた。




・・・家族か・・・。




ふと、アルは自分の家族と重ねた。




オレの家族は・・・

自分の事なんて、探してない。





生まれたその日に






オレは、捨てられたのだから。






今にも雨が降り出しそうな
灰色の雲が空を覆っていた。







今までに、クーは何度か遊びに来てくれた。




自分と同じ境遇だったのに・・・
今は違う・・・


また、から笑いをして、
寂しいと思う自分を隠した。


クーが帰ってしまうと、急に寂しくなって、
どうする事もできないくらい悲しみが襲ってくる。




この家は建て直さないで、

いつ、帰って来てもいいように。

このままにしておこう。



少しでもクーがオレを必要だと思ってくれるなら、

ずっと守り続けていこう。






オレは居場所を探していた。




誰かが、オレを必要だと
思ってくれる自分の居場所を・・・








色々な事があったけど、
結局、変わってないのは、オレだけ。


「やっぱ、オレって・・・」
「成長してないよなぁ〜」

話し終え、アルは、ため息混じりに言った。


うな垂れながら、流れる雲から、
隣りにいるギンに視線を移すと、
いつの間にか、コテっと横になり、
スヤスヤと寝息を立てて寝ていた(汗)



リュックサックが枕代りになっているが、
ペチャンコになっている。


ま・・また、お菓子買ってあげないとな(汗)





「ムニャー。アルゥー」
「アルはね〜少し不器用だけど」
「今までスゴク頑張ってきたよぉ〜」
「ボクが一番知ってるよぉお」
寝言なのか、よく分からないが、
目を閉じながら、ギンは言う。


「ふふwありがとよぉ」
話を聞いていたのか、わからないが、
そんなギンをアルは優しく見つめた。


「ただ・・・」
そう言いかけ、
また、眠りに入ったご様子で・・・(汗)
ギンは、寝息をたてて寝だした。



「ただ・・・?」


「うぉぃ!!ほんとに寝言かよ!」

「コラー!言いかけて寝るなよ!w」

アルは笑いながら、ギンの肩を揺らした。





「ただ・・・の続きはなんだ?」
目をこすり、眠そうに起き上がるギンに
アルは詰め寄った。



「ただ・・・の屍のようだ」



「(=。=)おい・・・」

「もぉ、お菓子買ってやらないぞ!w」
アルは、冗談めかして言う。


「ぇぇえええー!!!」
即効で起き上がると、
ペチャンコになった青いリュックサックを
覗き(おやつの確認)
ギンは思い出したように必死に話し出した。

「えとね〜〜」

「アルはね〜ただ・・・自分に正直になって」
「一歩踏み出せばいいだけだと思うよ!」
と、ギンは言い、ニコニコとした表情を向けた。



「うーん。いつもギンの言葉は、」
「よくワカラン!!」
アルは、頭の後ろに手を組み、
坂道を下りだした。



「ああー!」
「聞いといて、なんだお!その態度ぉ〜!」
ギンはそう言いながら、
アルの後ろを小走りでついてくる。




「例えばね〜家を作り変えちゃおう!とかー」

「ぇええー!絶対それダメだから!」
「ギン・・・それ単なる嫌がらせだろ!」




「いや!違うよ!」
ギンはアルを見つめて、
いつになく真剣に話し出した。




「思い出は心の中にあるじゃない?」

「家を新しくしたら、思い出が消えちゃうの?」

「違うでしょ?」

「クーの心にも、アルの心にも」

「ずーっと、変わらずにあるんだよ」



「今まで家を守り続けてきた。それで十分」
「これから先、ずっと木造の家を」
「守って行くのは大変だって」
「クーも分かってると思う」

「アルがツラい寒い思いをして」
「クーの為に、守り続けて行くより」

「新しい立派な家を建てて」
「招待してあげたらいい」

「その方が、クーも喜ぶんじゃないかな?」

「それに・・・」
「アルは小さい頃から暖かい家に憧れてたでしょ?」

「アルの夢・・・思い出して」

「(b'v`*)ね☆」


「アルの夢は、木の家をそのまま」
「取っておくことじゃない・・・」



「暖かい家を作る事でしょ?」


「暖炉がある暖かい家」



家を守ることが必死で、
すっかり忘れていた自分の夢。




アルは幼い日の夢を思い出した。




いつも木の陰から独り、家を見つめていた。
賑やかに聞えてくる鳥達の声。
煙突からは煙が立ち、部屋の中はポカポカ暖かそうに、
窓からオレンジ色の明かりがもれ、
美味しそうな温かいご飯の香りがしてくる。
見ているだけで、心まで暖かくなった。




そう・・・

オレは、とても暖かい家に憧れていた。

暖かい家庭に憧れていた。




「ボクがね」
「アルの家族になったげるから!w」
任せなさい!といった感じで、ギンは、
ポテっとしたオナカをポンっと叩いた。



そのギンの言葉に、
がんじがらめになっていた
心が解けていく。


ポロポロと涙があふれてきたが、
アルは、翼でグイっと涙をぬぐい、
ズズズーっと鼻をすすりながら、
大きな声で言い放った。



「よぉーーーし!」
「暖かい家作ろう!」
「暖炉も作ってw」
「そうだ!庭に沢山の花を埋めようw」
次々浮かぶ構想に、
アルは元気良く翼を空高く振り上げた。



・・・なぜだろう・・・


あんなに家を壊したくない自分がいたのに、
いつになく、ワクワクした気分になっている。


意図も簡単にギンの言葉で心が動き、
変えられていく。


知らぬ間に、
心の奥に追いやっていた夢を
ギンは思い出させてくれた。





「明日から一緒に」
「オレ達の家作ろうぜ!」
「クーが驚くくらい」
「大きい家にしような!」
アルは並んで歩くギンの肩を叩き、言った。





「んじゃ。助言、分かりやすく言ったから」
「お菓子いっぱい買ってよねぇ〜〜〜〜!」
ヽヽ(≧▽≦)//と、
ギンはピョンピョン飛び跳ねながら歩く。




「おまえ・・・それが狙いかよ(==;」


(*´∇`*)〜☆と顔をニンマリさせている
その表情には、お菓子と言う文字しか浮かばない(汗)


「なんだよ〜〜!」
「オレの心配はなかったのか!w」
そう言いながら、アルはギンの頭を
ポカポカと叩きながら走った。

「痛いよぉ〜〜〜!(>w<;」



アルとギンは、
下り坂をふざけながら、駆け下りていく。







・・・ギンと出会い・・・



今までにない新しい風が
アルの心に吹き渡り、



・・・少しずつ、少しずつ・・・



確かにオレの中で、

何かが変わり始めていた。








・・・あの流れる雲のように・・・



― END ―

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♪春待ち桜
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