『夢の果て』
〜第四章 場所〜



・・・オレは・・・


・・・何のために生きてるんだろう・・・


・・・自分が存在する意義ってなんだろう・・・




オレは、自分の居場所を必死に見つけていた。


自分がいるべき最良の場所。




沢山の鳥達が空を飛び立っていく空を見上げ、
なぜか、ポツンと独り残された気分になる。


世の中から疎外されたよう・・・

オレの事、誰も気づいてくれない。

全ての物に自分の存在自体が否定されたような孤独感。



空気のような自分。

どうせなら、心ごと、空に溶けて、
何も考えない気ままな空になってしまいたい。




この世に、自分の存在する意味が分からない。





オレがいなくても、世界はまわっていく。

今日と変わらず・・・明日も・・・。






だから、せめて、自分が存在する理由が欲しい。







「じゃあ・・・誰かの為に、何かをしてあげたら?」

どこから、ともなく、声をする方を見ると、
一輪の花びらにとまっているテントウ虫が、一匹、
アルを見上げていた。


草陰からヒョッコリ頭を出して、
チラチラとこちらを伺っているウサギたちも
長い耳をピンとさせ、聞き耳を立てている。


ウサギもテントウ虫の声に、
(*¨)(*..)(*¨)(*..)うんうんと、相づちを打った。








・・・そうだね・・・


・・・オレにも、誰かのために何かできるかもしれない・・・








この世に自分が存在しているという証がないと
不安で仕方がない。



不安に押しつぶされそうになっても、
前に歩き続けたいと願い、


その重さで、足が動かなくなっても、なお、
探し続けるのであろう。




それが・・・たぶん、





生きるという事だから。







アルは大きく深呼吸し、
心にあるモヤモヤを取っ払うように、
大きく大きく羽ばたいた。





ふと横を見ると、
さっきまで花びらにひっついていたテントウ虫が
ブンブンと飛んでいる。


「ずいぶん高く飛べるんだね?!」
アルは少し驚き声をあげ、目を丸くし、
テントウ虫に話しかけた。

負けず嫌いのアルは、羽をバタバタと大きく扇ぎ、
テントウ虫に追いつけないくらい、
これでもかー!と、もっと高く高く飛んだ。



しかし、テントウ虫は、ものすごい速さで上昇し、
はるか遠くへ飛んで行くではありませんか。



えええ?!そ・・・そんなことがあるかぁ〜〜〜!?



アルはパタパタと羽ばたかせたまま、
アングリとクチを開け、テントウ虫を見つめた。


「アルゥ〜〜。ボクの体が小さいからと言って」
「見た目で判断しちゃいけないよb」

そう言いながら、テントウ虫はアルの目の前まで
勢いよくブンブン飛んで来た。


聞き覚えのある その声・・・
よくよく見ると、そのテントウ虫の顔は、
まぎれもなく、ギンだったのだ。



「・・・おま!!!ギン!!!!!」




「今日はテントウ虫になってるのか?(=。=)」
うんざりするように、アルはギンに尋ねた。

「(・∀・。)(-∀-。)ぅんw」
「見て見てー!この七星テントウ仕様のリュックサックだよ!」
ギンは背中を向けて、オシリをフリフリさせた。

赤色のリュックサックには、黒い点々が7個。
まるで、テントウ虫の羽のように付いている。


「カワイイでしょぉ〜☆」
たいそう そのリュックサックがお気に入りの様子で、
ギンはピョンピョンと空を駆け回った。



と、そこへ、


大きな鳥2匹がものすごい勢いで飛んで来た。


「えええーー?!オレ?!狙われてる?!」


その鳥たちの手には鋭い剣がピカリと光り、
アル目掛けて突進して来た。



反射的に、アルは逃げようと、
大きく羽ばたこうとしたが
あまりの恐ろしさに、うまく飛べない。




「ギン!?」

アルはギンがいた辺りを見渡したが、
ギンの姿が見当たらない。



下を見ると、元のペンギンの姿に変わり、
下へ下へと落ちて行くギンの姿があった。






「ギンーーーー!!」

アルはギンを助けようと必死に急降下するが、
どう考えても、ギンに追いつけない。




しかし、諦める訳にはいかない。



風をうまく使い、アルはグングンと距離を縮め、
力の限り羽を伸ばした。







ギンは家族になってくれた・・・


オレの唯一の大切な家族だから・・・。








何があっても、オレが守る。






幸いな事に、落ちた場所は、地面ではなく、
ちょうど湖だった。





ドボーン!!!


ギンは意識を失ったまま、
水しぶきを上げて、水面にぶつかり、
浮き上がる事なく、湖に沈んでいった。




アルは思いっきり、息を吸い込み、息を止めると、
ギンが落ちた湖に一気に飛び込んだ。




青い透き通った湖水に、
ギンが吐いた泡なのか、
空気の泡がボコボコと上がってくる。




ギン、もう少し、我慢してくれ・・・!




アルの翼はギンの腕をシッカリとらえた。



グッタリと、水を飲み込んでいるギンの体はとても重たく、
落ちていく流れに飲み込まれそうになりながら、
アルは、水面へと必死に体を泳がせた。



やっとの思いで、湖からあがると、
そこにはさっき、剣を持ち、
勢いよく襲い掛かってきた2匹組みの鳥が
待ち伏せをしていた。



アルはギンを助けることに必死で、
その鳥たちの事をスッカリ忘れていたが、
逃げる様子もなく、
ギンを土の上に仰向けに寝かせ、
思いっきり、おなかを押した。


ギンのクチからピューー!と噴水のように
飲み込んだ水が出てきて、やっと意識が戻り、
「げほげほ!!げほげほ!」
と、ギンは苦しそうに咳をした。



アルは、少しの間、ギンの背中をさすってやると、
立ち上がり、自分よりはるかに体格のいい
2匹の鳥に向かって叫んだ。


「なんでオレを襲ってきたんだ!!」


2匹は再び襲ってくる様子はなく、
剣をおさめると、すっと近くに寄って来た。



「身恐れしました!アナタになら任せられる!」


突然、そう言い、
さっきまでの恐ろしい表情が一変して、
アルの目の前でひれ伏した。



??え??


訳の分からない言葉に、アルは首をかしげた。


ギンはペタンを座り、ビショビショに濡れた 
お気に入りのテントウ虫仕様リュックサックを
ションボリ見つめながら、ユックリ話しだした。

「アル〜その鳥達はね。王族の騎士だよ」

「強くて、えらくて・・・夢の国の鳥達を守ってくれる鳥さん〜」

「悪い鳥たちじゃないぉ〜」

「うあ!!」
いつの間に、入ったのか、
サカナがピチピチとリュックサックから
お菓子と一緒に出て来た。



「そうです!私達は平和を守るために」
「夢の国で警備をしている騎士です!(>∀<)ゝ」
ニコニコとした笑顔を向けて、ノッポでムキムキな鳥が、
元気よく頭をペコリとさげ言った。


「今回、大変な事件が起こりまして・・・」
もう1羽の鳥が少し表情を硬くさせ、
いきさつをポツリポツリと話しだした。

「夢の国で亡者と言われる黒い影がいたんです」
「その亡者は、あらゆる影に入り込みながら移動し・・・」
「相当な極悪者で・・・悪さばかりしてました」
「夢を国を守るため、私達はある魔鳥にお願いし」
「数年間、封印してきたのですが・・・」
「先日、その封印が誰かの手によって、封印が解かれ」
「脱走したんです(><;その・・・あの・・・」
「夢の国から・・・」



その話を聞き、ギンは、みるみるうちに顔色を変え、
頭をかかえ、あたふたとアルの目の前を右往左往走り回った。

「たっ大変だぁっぁぁあ!!あの亡者が・・・」
「アルの世界に行ってしまったなんてーー!」
「今頃、何か悪さしてたら、どうしよぉー!」
「あわわわわわわわわーー!」


アルは訳が分からず、騎士とギンを見つめるばかり。






「私達は、亡者を封印しようと」
「夢の国のあらゆる場所を探しました」
「そして・・・ある事に気づいたのです」




「ご覧下さい」
騎士は、静かに、東の空を指差した。


一斉に、アルたちは空を見上げ、目を凝らした。




空には・・・あるはずのない、
穴がポッカリと開いていたのだ。




「ちょーど、夢の果ての上空に穴があるのを発見しました」
「・・・そこから外に逃げ出したのでしょう」
騎士はガックリと肩を落とした。
「すぐにでも、この夢の国から出て」
「亡者を追いたかったのですが・・・」
「何度試しても、私達では外の世界に行けないのです」
「亡者は大きな魔力を持ってますから」
「外に行けるのは容易だったのでしょう」

「大きな力を持つ亡者と戦えるのは、」
「外の世界に行けるアル様だけです・・・!」


「そして・・・無礼ながら」
「アル様の行動力を拝見させて頂きました!」
「いや〜あの素早さと実行力があれば」
「あの亡者も封印できます!」
「アル様!アナタ様の力が必要です!」



「本来、この夢の国から出る事はできないのですが・・・」
「こんな事は異例中の異例!初めてですよ・・・」
「どうして、あんな穴が開いたのかは不明です」
「きっと・・・あの亡者の仕業に違いありません!」
そう話し終えると、騎士は、
夢の果てにある東の空をしみじみ見つめた。





「ねぇ・・・あの穴ってさ・・・」
アルが言いかけた途端、慌てて、
ギンはアルのクチに翼を押し当て、
『・・・だめだよ(><;言ったら・・・』
と、耳元でささやいた。


その東の空にある穴は、
まさしく・・・
ギンが現実世界に行ってしまった時にできた穴だったのだ。


まさか、こんなポッカリとこんな穴が出来てるとは、
ギンも想定してなかったのだろう。
そして、その穴から逃亡者が出るなんて・・・。






事件の原因を作ってしまったのはオレとギン。
正確に言えば、オレが開けた穴だが(汗)


夢の住鳥ではないオレは、
夢が覚めてしまえば、それきり・・・。
しかし、ギンは罰せられる事、間違いない。


ギンだけが罰せられるなんて、ダメだ!



ギンを巻き添えにして、
現実世界に行かせたのはオレ自身。


全ての責任はオレにある。



解決するには・・・ただ一つ!!




その亡者を捕らえ、封印しなければ!!




アルはそう硬く決心し、
その思いを深く心に刻んだ。








アルは、その日、とても目覚めが良かった。

パチっと目を開け、夢を回想するように天井を見つめた。




ハッキリ覚えてる あまりにもリアルな夢。




本当に起きている事件なのだろうか・・・?

ギンに聞いてみれば、分かることだ。



朝食を待ちきれずに、いつものようにお菓子を
モグモグ食べているだろうと、
部屋をグルリと見渡したが、
ギンの姿がない。


アルは家中探し回った。



フカフカのギンのベット。

大きな鉢やあらゆる緑が置かれ、
暖かな日が入る南側の部屋。

キッチンとつながっていて、
暖かい暖炉がある広い居間。


一輪の花となぜか門松が1年中置かれている玄関。

ピカピカの水洗トイレ。

ユックリくつろげるジャグジー付き風呂。


2階の窓を開け、遠くまで見渡したが、
ギンの姿がどこにもなかった。



あれから、家を取り壊し、
少し時間がかかったが、ギンと2羽で、
暖炉のある大きなレンガの家を作り、
1ヶ月前にやっと新築の家に
住み始めたばかりだった。


窓からは、容赦なく照りつける
ギラギラとした太陽の日差しが入り込み、
アルは眩しそうに目を細めた。


季節は蒸しかえるような暑さが続く夏になっていた。


「おーーーい!」

「ギーーーーン!」


「どこだぁ〜〜!」


アルが大きな声で叫ぶと、
どこからともなく、小さな声がしてきた。



『ココだよぉ〜アルゥ〜〜(;m;)』


キョロキョロと見渡しても、どこにもいない・・・
しかし、ギンの声だけが聞える。



幻聴か?!



アルは、ギョっとして、耳を押さえた。


と、その時、
ブーーーーーーン!と、赤い七星テントウが、
目の前を飛んできたのだ。


ま・・・まさか(=。=


「オマ・・・コッチでもテントウ虫なってたのか〜〜〜?!w」


「とりあえず、元に戻れwww」
「オレは夢から覚めたんだからw」

アルは、さっきまで見ていた夢を思い出し、
ギンは続きを演じていると思ったのだ。



しかし、ギンの様子がおかしい・・・。



『うぇ〜〜〜ん』


『戻れないよぉ〜〜(;m;)』


『アルが起きる前に、自分でなんとかしようと思って・・・』
『亡者を探しに行ったら・・・』
『向こうから現れて(@0@;』
『あっけなく、こんな姿に(泣)』


『容易に近づくとこのザマだぁ』
『気をつけないとぉ〜』
『ボク達だけで、封印できるかどうか不安だぉ〜』

ギンは、いつになく弱気な発言をしながら、
自分の数百倍ものショートケーキの上に乗り、
美味しそうに食べている・・・(汗)


「・・・」
「ギン、テントウ虫になれて良かったんじゃないの?」
「って・・・んな事言ってる場合じゃないしー!」
「ケーキ食ってる場合じゃなーーーい!!」

慌てふためくアルをよそに、
ギンは無邪気に体中にクリームを付けながら、
浴びるようにケーキをクチにほおばった。
゜+。:.゜(*´U`*)゜.:。+゜


「こんな姿になっちゃったんだもん・・・」
「せめてさ・・・ケーキくらい食べさせてお(;m;)」
と、言いながら、同情してくれと言わんばかりに、
ギンはイチゴに抱きついた。


「(−−;)はいはい」
アルは観念し、自分の部屋に戻った。


ギンを見ていると、大変な事態でも、
不思議と、たいした事ではないような気分になる。


そうだ。混乱している時こそ、冷静になる事が大事なんだ。


アルは、冷静を取り戻し、

まずは、長い旅になりそうだから、旅に出る準備だ!


必要な物を一つずつカバンに入れながら、
脳裏には、やはり不安がよぎる。


2羽の騎士から、
封印の仕方やら、亡者の弱点の物やら
教えてもらったが・・・
本当にオレが封印できるかは分からない・・・


超能力でさえ、使った事がないのに、
そんな力、オレが持ってる訳がない。



考えれば考えるほど、不安にさいなまれ、
頭を抱えた。




いつの間にか、ベットの上に転がっている
真っ黒な人形。



それは、騎士から預けられた人形だった。

この人形に亡者を封印するらしい(汗)



小さな人形で、封印する器とは
考えられないほど、
なんだか頼りない感じがした。



しかし、信じるしか道はない。


旅準備を済ませたアルは、
人形を強く握り締め、ギンの所へ戻ると・・・





まだ、ショートケーキをモシャモシャ食べていた(汗)




『あはは〜☆食べきれなーぃ☆あはは〜☆』

と、美味しそうに食べているギンを
連れ出す気分にもなれなかった。




意気込んでた気持ちが、一気にとけ、
アルは、ソファにペタンと座り込んだ。




・・・いいさ・・・

・・・おやつも今日でしばらくの間、お預けだからな・・・




・・・きっと危険な旅になるだろう・・・




・・・最悪・・・
この家に帰れなくなるかもしれない・・・





幸せそうに食べるギンの姿を見つめながら、
一時の幸せを心に刻み込み、
アルは新しく建てた我が家に、
そっと、別れを告げた。



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♪夏の終わり空は遠く
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