『 夢の果て 』
〜第五章 夢幻(ムゲン)〜





「あーーー!」
「ボクのぉー!それボクのだよぉー(;0;)」
ギンはテーブルの上に身を乗り出し、叫んだ。



ギンに見せびらかすように、
ハムエッグのハムをピラピラさせ、
アルはクチに放り込んだ。


「だって、ギンwさっき、」
「トニーが作ってる最中に、ハムつまみ食いしてただろw」
「オレの目は見てたぞぉ〜〜〜w」
ムシャムシャと食べながら、アルはムフっと笑った。



「ギンは食いしん坊だからなw」
と、トニーは言い、
美味しそうに食べるアルとギンを見ながら、
ロボットとは思えないほど、ニッコリと笑い、
行儀良くイスに腰掛けている。


もちろん、トニーは食べる事がない。


尋常でないほどのバカヂカラを出すが、
体には、バッテリーらしい物もない。


あれから、しばらく経つが、
何も問題なく動いていた。



しかし、このまま放っておいたら、
いずれは、止まってしまうだろう・・・。



情報通の友達にも聞いてみたが、
これほど高度な技術を持った鳥は見た事がないと、
言われた。

友達の方でも、調べてみてくれるとの話しだったが、
それっきりになっている。





3匹で暮らし始めてから、毎日が楽しく、

季節が、また一つまた一つ過ぎていき、

思い出も、一つ、二つ増えていった。




楽しければ楽しいほど、このままでいたいと願う。

ずっと、ずっと、このままでいたいと願う。




しかし、楽しい日々が増えるほど、
今の幸せを守りたいと願えば願うほど、
壊れていきそうで・・・不安がつのる。






夜、ベットに体を休め、ふと考えてしまう。




明日、目覚めたら、
トニーは動かない
ただの人形になっているかもしれない。


ギンは夢の世界に帰ってしまっているかもしれない。




アルは悲しすぎる思いを吹っ切るように、
頭まで布団をかぶった。







・・・もぉ、独りになりたくない・・・







隣りのベットから聞えてくるギンの寝息を
聞きながら、深い深い眠りに入っていった。







暖かい風が、そよそよと通り抜け、
ユラユラと揺れる草花。


アルは永遠と続く野原に、立っていた。



薄っすらとした雲が、水色の空に心地よく流れている。



と、急に背後から勢いよく話しかけてきたのは、
いつか会った2羽の騎士だった。
「久しぶりですぅ〜!アルさまぁ〜!」
「いやぁ〜〜!素晴しい活躍でしたなぁ〜!」
「私達が見込んだだけはありますよー!」
騎士は腕組みをし、ニコニコとアルを見つめた。


ああ〜いやーあれは、自分が撒いた種ですからw
とも言えず、ただ笑うしかない。
「いや〜。アハハハハハ・・・・」

あれから、あの真っ黒な人形は
誰にも手の届かない場所に、
大切に保管されていると言う。




「何か・・・また、ありましたか?」
「(・▽・;ぁせぁせ…」
アルはチラチラと騎士を見つめ、
不安そうに聞いた。



だいたい、この2羽が出てくる時は、
厄介な頼みごとが多い事を
なぜかアルは知っていた。



自分が撒いた種とは言え、
ギンの命が危険にさらされてしまった。

もぉ、あんな体験はゴメンだ。




アルは早く夢から覚めたいと、
ホッペタをつねってみたが、
痛みが走っただけ。


イテェェェΣ(+Θ+);




「だ・・・大丈夫ですか?アルさま・・・」
「それがですね・・・」
ほっぺを押さえ、
痛みを堪えるアルを見ながら、
ノッポな騎士は、フツフツと話しだした。


「亡者の封印を解いた悪者を見つけて欲しいのです」

「悪者はこの夢の世界にまだ、いるはずです」
「亡者を封印した人形がまた狙われ」
「先日、私達は悪者に襲われました」

「何とか、人形を持ち逃げることができましたが・・・」
「また、何時、封印を解きに来るか分からない」

「その前に、アルさまに捕らえてもらいたいのです」




「私達の力では、捕まえられません」
「どうか!おチカラを!!」

2羽の騎士は話し終えると、
アルに深々と頭を下げた。



夢の中だし、

危険な事はないだろう。

そう思い、アルはしょうがなく、
首を縦に振り、承諾した。



「ありがとうございます!」
「我らも、悪者が捕まれば、安心して暮らせます!」


「でゎ・・・これを・・・」
騎士は金色に輝く小さな時計をアルへ渡した。

「これは魔鳥が作ってくれた時計です」



「この時計のこのボタンを押すと」
「封印できる仕組みになってますw」
時計の横側にある赤ボタンを指しながら、
騎士は説明を始めた。


また、封印かよ・・・
アルは、ヤレヤレと肩を落とした。



「後、方位磁針のようなものが付いてます」

確かに、時計針とは違う針が、
文字盤の下に付いていた。


「この針が悪者がいる方角を指し、導いてくれるでしょう」


「・・・しかし・・・」
騎士は少し苦い顔をさせ、
重たい口調で話を続けた。

「時間制限があるのです・・・」
「タイムリミットは、朝の7時」

「この時計は7時にアラームが鳴るようにセットされてます」
「目覚まし時計が鳴る頃、この夢は終わってしまいます」
「アラームが鳴る前に、必ず悪者をつきとめてください!」


「そうしないと・・・アル様は夢にさらわれてしまう・・・」
「現実世界のアル様は目を覚ますことなく・・・」
「この夢の世界で、さまよい続ける事になる」


「二度と現実世界に帰れなくなるんです・・・」


「夢にさらわれる前に、現実世界に帰られければならない」



「いいですね?時計の針が朝7時をさす前に」
「悪者をつきとめ、封印してください!」




「さぁ!時間はありませんよ!!」
「お気をつけて!!!」



そう言い、2羽は心配そうに強く手を振った。





真剣な騎士の目を見ると、
どうやら本当の話しらしい。





目覚めなくなるって・・・





え・・・?


しばらく、頭の整頓ができず、
アルは羽の中にある時計を見つめた。




はぁぁぁぁぁぁああ?!



ちょ!!!!待ってくれよ!!!


そんな重大な事!!


了承する前に言ってくれよ!!(汗)




そう怒鳴ろうと、アルは、
騎士たちがいる方へ目を向けた。




・・・が、
目の前は、ただ草原が広がり、
草花が揺れているだけ。


騎士たちの姿はもう、どこにもなかった。





「はぅ・・・」
「言いたい事だけ、言って・・・」
「いなくなりやがって・・・」
ムっとした表情で、アルは時計を見つめた。



時間は深夜12時を少しまわったところだ。
方位磁針は、北を指している。





しかたなく、アルは、
亡者の封印を解いた悪者を追う為、
北へと翼を羽ばたかせた。







しばらく、飛んでいると、空は真っ黒な雨雲に覆われ、
稲光と共に、ザーっと雨が降り出した。


下には、見渡す限り、深い森が続いている。


飛んで行かないと、時間がない。


しかし、雷が危険だ。



暗闇の中、凄まじい音をたてて、
ビカビカと、空を切り裂いている稲妻を
アルは険しい表情で見つめた。



仕方なく、
アルは地に舞い降りると、
木の下をトボトボと歩き出した。


道という道はない。


行く手をさえぎるように生い茂った草木を
わけながら歩いた。


上を見上げても、
枝が空を隠しているように生い茂り、
一つも明かりが届かない、暗い森。



暗闇がずっと続いているように感じて、
心細くなり、アルは早足で進んでいった。




「ヒィイイイ!」


「な・・・なんなんだよ(><;」


小枝がアルの足首に巻きつき、
行く手をはばんだのだ。



そして、
話すはずもない木々が、
『この先に行くな』と、引き止め、
ユラユラと揺らめきながら、
アル目掛けて、襲ってきたのだった。




「ギャァァァア!!」


とうとう、アルは叫び、走り出した。





「痛っ!!!」

激しい痛みがアルの右肩に走る。




危険な森の中、
恐怖から逃れ、無我夢中で走ったアルは、
折れた枝に肩を刺してしまったのだ。



「ヤメロォオオオ!!!」

「くるなぁぁぁぁ!!!」


容赦なく、アルへと伸びる木々、
どんどん足にまき付き、
離そうとしない。



恐れおののき、
痛みに堪えながら、
アルは両翼で、
ブンブンブンと追い払った。


しかし、
追い払っても、追い払っても、
まとわり付く木々。




アルはおびえ、
心臓がバクバクと高鳴り、
訳もわからずに、ギンの名前を叫んでいた。





「ギンーーーーー!!」





すると、どこから出て来たのか、
ギンがスンと、アルの目の前に立っていた。


「ギン!!オマエ!!!」
「何そこで突っ立ってんだよ!!」
「助けろぉおおお!!」



ギンはアルに近づき、笑いながら言った。
「アルゥ〜wきっとねぇ〜〜w」
「ボクのハム食べちゃうからバチ当たったんだぉ☆」



確かに、
木々は、全くギンを攻撃していなかった。

どうして、オレだけーーー!!



やっぱり・・・。

ハムを食べちゃったせいなのかーーー!!!(ぉぃ




「なぁ〜んちゃって☆」
ふざけた面持ちで、ギンは話をつなげた。



「これはねw」
「強い風が、木々をグラグラと揺らして」
「大暴れして見えるだけw」
「襲ってくるように見えているだけだぉw」



「足にからまった枝は」
「アルが早く走るもんだからw」
「小枝につっかかってるだけw」

「木が襲ってくる訳ないでしょ?」


ギンは無邪気に笑いながら、
そう言って、足首にからまる小枝や草を
はらってくれた。


「全ては、アルの中にある恐怖が作った幻」



あるはずもない虚像を
アル自ら作り出し、おびえていたのだ。





「ここはね・・・その名も」

「恐怖を映し出す森だよ」



「心の中の不安や恐怖が、そうゆう風に見せているだけ」




「コワイと思うと」

「幻となって襲ってくる」






・・・オレは・・・
あるはずもないものから、
逃れようとしていたのか・・・?





アルは、ハタと我に返った。





「だから・・・w」
「コワイって、思わないように」
「歌いながら進めばイイ!!!」
そう言うと、ギンはアルの手を取り、
メチャクチャな歌を歌いながら、
森の外へとスキップして歩いた。


「フニャニャニャニャ〜〜〜♪」

「ほらwアルも歌おうww」
「ふにゃにゃにゃにゃぁ〜〜♪」




「なんだwその歌はwww」
噴出しそうになりながら、
アルの顔から笑みがこぼれた。


「って言うか、早く助けに来いよ!!w」
と、ぶっきら棒に言うアルの言葉を無視して、
ギンはドンドン進んでいく。


険しい森で、あれほど、
道が一つもなかったのに、
ギンが歩む前には、
道がちゃんと出来ていた。



ギンの歌声と共に、
暗い森が少しずつ明るくなっていくのを
感じていた。







やっと、森の外から出ると、
いつの間にか、雷雨はおさまっていた。


アルが来た道を振り返り、
森の上空を見ると、真っ黒な雨雲に覆われ、
いまだに、雷雨で稲光が、
ピカッと走るのが見えた。


「この森はね、いつも雷なんだぁ〜」
ギンは疲れたのか、その場にペタンと座り込むと、
いつものように、リュックサックから
お菓子を取り出し、モグモグと食べ始めた。
「はいwアルもwコレ美味しいよぉ〜w」
そう言うと、ギンは栗まんじゅうをアルに渡した。


「オレ、朝の7時までに、亡者を封印から解いた悪者を」
「見つけないといけないんだ!」
「栗まんじゅうなんて、食べてる暇なんて・・・」
「ないんだよ!モグモグ・・・」
と、栗まんじゅうを食べながら、アルは叫んだ。


「全部知ってるよぉ〜w」
「まぁまぁ。あせらずにww」
焦るアルの肩に手を置き、
ギンは言った。
「夢の世界では、現実世界より、時がユックリ流れてるb」
「見てごらんよw」
ギンはアルの翼の中で光る時計を指差した。


容易に5時間は経ったと思ったが・・・
時計の針は、まだ12時半を指していた。


「えええ?!」
「あれから30分しかたってない!!」

驚きの声をあげ、アルは目を丸くさせた。



「(b'v`*)ね☆」
「さぁw旅は始まったばかりだよ!」
「のんびり行こうぉ〜〜☆」

そう言い、ギンは、ペタペタと歩き出した。



結局、ギンと、また一緒に旅をする事になった。



今回は、巻き込まないように・・・
自分でどうにか解決しようと思ったのに・・・


でも、ここは夢の世界。
案内役のギンがいてくれると助かる。


ギンがいてくれなかったら・・・
あの森から出られなかったかもしれない。


はぅ・・・夢の世界なのに、
自分だけじゃ何もできないなんて・・・
情けない・・・((´・ω・`))



「ま・・・待てよぉ〜〜」
アルは力なく言い、ギンを追いかけた。







テクテクと歩き続け、

午前1時。



岬が遠くに見えてきたと思うと、
真っ白に広がる綺麗な砂浜に出た。


あれ・・・?!


瞬間移動したのか?!


ザブーンと打ち寄せる波が、
太陽の光を反射し、
キラキラと眩しいほど輝かせている。

さっきの雷雨とは、180度違う天気。


ギンギンの太陽が、アルたちを照らし、
ドシャブリで濡れた体が、徐々に乾いていった。


「暖かい場所だねぇ〜〜w」
いつになく浜辺に沿って、
のんびり歩いていたオレたちの目に、
ある1羽の少年が飛び込んできた。





いつの間に、いたんだろう。



寂しげな目で、
海を見つめていた。



「こんなに天気がいいのに〜」
「どうしたの?」
アルは放っておけず、
少年に近づき、声をかけた。



その少年はアルをしばらく見つめたが、
何も言わず、
また、海へと視線を向けた。




アルには、なぜか分かっていた。


その少年の心が悲しみであふれている事を。




悲しい時。

アルはいつも浜辺に座り、
この少年のように海を見ていた。


海を見ていると不思議と、
心が癒された。



波の音と水平線の下へ静かに沈んでいく夕日が、
とても好きだった。





アルは、少年の横に
しばらく座り込んだ。




ただ、一緒にいてあげたかった。




ギンもアルの横にペタンと座ると、
いつものごとく、
お菓子を出し始めた。



「ほら・・・w」
「これでも飲んで元気になりなぉw!」
そう言い、ギンは少年の手の中に
紙パックのオレンジジュースを
強引に握らせた。



パキュ。



ストローを通して、
ジュースを飲むが、少年の視線は
再び、海に注がれたまま。




そして、ポツリと話しだした。


「ボクがずっと暖めていた気持ちが」

「飛んで行ったんだよ」

「ほら。見えるでしょ」


遠くに、カモメが1羽、気持ちよく
空を羽ばたいていた。



「カモメ?」
意味が分からず、
アルは聞き返した。





「うん。カモメ」



「あ!!!!!」
「今、カモメが海に沈んだ!」
突然、少年は立ち上がり、
指差して叫んだ。


カモメを見ると、
沈んだわけではなく、
水平線より遠くへ飛んで行っただけ。



沈んでないと思っていた。




しかし、ギンもカモメを見て叫んだ。

「ああ!!沈んじゃったねぇー・・・」と。



「アルゥ〜あれね・・・」
「水平線じゃないんだよぉ〜」
「あれは、海の終わり」
「この視界から遠くの海は存在してないの」
ギンは残念そうに、顔をしかめ、
アルに説明した。





「ぇぇ・・・じゃあさ・・・」
「本当にカモメが海に沈んじゃったの?!」
「キミの暖めていた気持ちも・・・」
「沈んじゃったの?!」
アルは、本当に沈んだのかと、
目を凝らして、遠くを見つめたが、
カモメの姿は、もう、どこにもなかった。





そして、少年は悲しそうに言った。




あのカモメは、
真実の望みを映すカモメ。




ボクは決心し、
ずっと暖めていた想いを
ずっと迷っていた想いを
あのカモメに たくした。




・・・でも・・・




ボクが本当に望んでいたことは、




想い続けることでも、



それを届けることでもなく、






ただ・・・


深い海に沈め、忘れる事だった。








少年の目から涙があふれ、
頬に涙がつたったのを最後に、
少年は、フワっと姿を消していった。






「あれ?!」
「どこだーー!おーーーーい!!!」

アルはキョロキョロと周りを見渡し、
叫んだが、
少年は再び現れる事はなかった。





アルはとても切ない気持ちになり、しばらく、
少年がいなくなった浜辺に立ち尽くした。






「さぁ〜アル!先を急ごうw」

砂浜にたたずむアルの手を引いて、
ギンは歩き出した。





いつの間にか、日が傾き、
全ての景色をオレンジ色に染めていた。







午前2時。



いつの間にか、
雪がチラチラと舞っていた。



しかし、不思議な事に、
まったく寒く感じない。



雪道をアルとギンは歩いていた。



フワフワと止めどなく降り積もる雪。



始めは足が埋もれた程度だったが、
進むにつれて、ドンドン深くなっていき、
体が雪に沈んでいく。





「これじゃー全身うもれちゃうよ(><;」
「グハ!!!ゴホゴホ!!」
喋った途端、クチの中に大量の雪が入り、
アルは、むせ返った。


とうとう歩くことが困難になり、
アルはギンを背負い、パタパタと飛んだ。



雪崩にあったかのように、雪に覆いつくされ、
雪以外に何も見えて来ない。



「どーなってんだこれぇ〜〜」
「こんな雪が積もってる所、初めて見るょ」
アルは、フンワリと積もった雪景色を見つめた。



「ここはね〜ずっと雪が降ってるんだ〜」
「やむことがないから〜」
「実はボク・・・」
「飛べないし〜ココは初めて来るんだぁ☆」
目をキラキラさせて、ギンは見下ろしている。


「えええ!!そうなのかー!!(汗」

ギンの言葉に不安をつのらせ、
アルは銀世界の中をひたすら飛び続けた。






すると・・・。

遠くの方に、トンガリ屋根が
ポツリと、見えてきた。



家の大部分は、雪で埋もれてしまったのだろう。






少し羽を休ませてもらおうと、
アルは、その屋根の上に降り立った。




「アルゥ〜」
「ココ誰の家だろねぇ〜?」
ギンはアルの背後からヒョッコリ乗り出し、
大きな声で叫んだ。
「こんにちはぁぁぁあ!」



「うぁぁぁぁ!!鼓膜が破れる!!」
「オレの耳元で叫ぶな!!!」
アルは耳をかばうように、ふさぎながら言った。
「もうすぐで、この家も沈むじゃないか・・・」
「誰かいる訳ないだろ!」



そう、アルが言った時だった。




・・・ギィィィィーー・・・



屋根裏部屋の窓であろう、
屋根の扉が鈍い音を出して、
ユックリ開いたのだ。


窓の奥には、
背中を丸めた老婆が1羽、顔を出していた。


「おやwまぁ〜〜w」
「久しぶりのお客さんだねぇ〜w」
と、驚きの声を出し、
嬉しそうに老婆は微笑んだ。


「・・・!(@0@;」
「こ・・・こんな所に住んでたら」
「危険ですよ!」
「早く!!オレの背中に乗ってください!」

アルはギンを背中から振り落とし、
老婆に背を向けた。


「ぅぉーーぃ!ボクはぁ〜〜〜(;0;)」
と、ギンは屋根にしがみ付いた。


「ギンは後から!」
「さぁwおばあさん、オレの肩に捕まってw」
そう言うアルに、
老婆はユックリと首を横に振った。



「いいのですよ・・・w」
「私はココにいたいんです」



「この家は、私が生まれ育った場所」

「両親も夫も子供たちも・・・」
「この家に住み、長い年月」
「この家を守ってきました」

「そして・・・」
「私より先に、この家で他界しました」

「沢山の思い出がある この家から」
「私は離れたくないのです」

「最期まで、この家にいたいのですw」
そう言い終えると、老婆はニッコリ微笑んだ。




「でも・・・!」
「ここにいたら死んでしまう!」
「おばあさんの命よりも大切な事なんですか?!」

と、アルが説得しても、
ただただ、老婆は微笑むだけだった。






「・・・じゃあさ」
「この雪が止めばいいんじゃない?」
ふと、ギンが横からクチ出してきた。



「そんな・・・オレがどーこーできる問題か!」
「自然界はなぁ〜〜」
「そんな容易に操作できるもんじゃないんだぞ!」
アルはギンに向かって、言い放った。



「これはねw雪ではないのですよ^^w」
「ここで話してるのも、なんですからw」
「中へどうぞw」
老婆は優しく言い、
家の中にアルとギンを招いてくれた。


アルとギンは老婆に導かれるままに、
下へ下へと階段を降りていった。


20階建てとも思えるほど、長い長い階段だった。
各階には部屋があり、
とても大きい建物だったと思い知らされた。


「大家族だったんですね・・・w」
ギンが周りをキョロキョロしながら言った。


「いいぇ〜〜w違いますよw」
「私の家族は両親含めて5羽だけですw」
「この雪が積もった分だけ」
「毎年毎年、上へ上へと、家を増設していったのですよw」
「そしたら、こんなに高い建物になっただけですw」
「私には増設する力もありませんからねぇ〜」
と、老婆は説明しながら、
大きなテーブルがある客間へ
オレ達を通した。





何もかも大事にされ、
部屋の中は綺麗に整頓されている。




「ほぇ〜〜〜」
老婆のおかしな話を聞きながら、
アルは、窓に目を向けると、
真っ白な雪がギッシリ詰まっている、
と、言うような感じだった。




アルとギンは案内されるまま、
フカフカの椅子に腰掛けた。






「確かに・・・冷たくはなかった・・・」
「雪じゃないとしたら・・・」
「何なんですか?」
近くの台所へ消えていった老婆に、
アルは待っていられず、話しかけた。



老婆はアルとギンに暖かい紅茶を入れ、
近くのイスにゆっくり腰掛け、
静かに話しだした。



「そう、雪ではなく・・・」

「白い塔に住む少女アンナが流す」
「やむ事のない涙の結晶なのです」


「その涙は、アンナの冷たい心と深い哀しみで」
「凍りつき、このように・・・」
「毎日毎日、休む事無く、降り続いているのです」


「涙の結晶はとても柔らかくて、暖かい」
「優しく私達の町を埋めていきました」


「寒さはないものの、家が埋まってしまう程の結晶」
「大部分の鳥達は非難していきました」
「でも・・・私達は」
「この町に残る決心をしました」


「それは・・・生まれ育った家にいたいという」
「気持ちもありましたが・・・」
「ここにとどまる理由が他にもあったからです」



「アンナは、それはそれは優しい子でした」
「しかし、ある日・・・」
「アンナを残して家族皆が出かけたまま」
「帰ってくる事はなかったのです」



「アンナは捨てられたのだと思い込み」
「それからずっと、塔の屋上部屋に閉じこもったまま」
「悲しみの涙を流しているのです」


「それから数年後、私達は発見したんです・・・」
「恐怖を映すと言われている森で」
「アンナの家族たちの遺体を・・・」


「アンナに伝えようと、塔を何度も訪れましたが」
「ドア・・・窓すら開けてくれないのです・・・」


「私達には、どうする事もできなかった」
「この町に居続ける事くらいしか・・・できなかった」


「あの森にとらわれ、家族皆が」
「森の餌食になった事を知らずに・・・」
「泣き続けているアンナを・・・」
「暖かい心を持つアンナを残して」
「私達は、どうしても、この町を去る事なんて出来なかった」


ひとしきり話すと、老婆の目から、
涙がスーっと頬をつたった。




「・・・そうでしたか・・・」
あまりにも悲しい話に、アルは心を痛めた。



アルとギンを安心させるように、
さっきと変わらない笑顔を取り戻し、
ニッコリ笑うと、老婆は言った。

「この町を去らなかった時から」
「アンナと供に、この町に埋まろうと、決心したのです」

「私の決心は固い」
「だから、お行きなさい。私を残して・・・w」
「私は大丈夫よw」


「何年も独りで、この家にいたの・・・w」
「アナタたちが来てくれてw」
「最期に楽しい思い出ができたわw」








アルは、あきらめられず、
少女の居場所を老婆に聞いた。



こんなに優しいおばあさんを・・・
少女を・・・見捨てる訳にはいかない。




・・・救ってあげたい・・・





もしかしたら、オレに何か出来るかもしれない。






北に5キロほど行った所に、高い塔があり、
そこの最上階に少女はいると言う。




アルは紅茶を飲み干すと、
老婆にお礼を言い、
降りてきた階段を、
一気に駆け上がった。





「優しい子だからこそ・・・」
「暖かい涙を流しているのかもしれませんね」


ギンはニッコリ笑い、
老婆を慰めるように言うと、
ペコリと一礼し、アルを追いかけた。







痛みと哀しみの涙。






・・・いまだかつて・・・




・・・これほどまでに暖かい涙を・・・




・・・オレは知らない・・・










ギンはヒョイっと、アルの背中に飛び乗り、
アルは、まるでヤリのように風を切り、
雪空を羽ばたいた。



しばらくすると、
白くそびえる高い塔が見えてきた。



高いと言っても、
最上階と屋根だけが、
雪の上に顔をだしている程度。




もうすぐ、この塔すら、
埋まってしまうだろう。




屋根の上にある風見鶏が、
雪をかぶりながら、
クルクルと回っている。



「いますかぁ〜〜〜?!」
「アンナさぁ〜〜〜ん?!」
アルが屋根に舞い降りると、
大声で、ギンは叫び、
ドンドンと扉を叩いた。



「だから・・・ギン」
「オレの耳元で叫ぶなっちゅーの!」
アルは耳をふさぎながら怒鳴っている傍で、
ギンは突然、窓を叩き割ろうとしていた。




ガンガンガンガンガン!!!




「うぉい!おいおい!!ギン!」
「返事がないからって・・・」
「不法侵入になるぞ!!」
アルはギンを止めたが、
ギンは窓を破る手を止める様子はない。


「ここはアルの夢の世界」
「大丈夫だおw」
「法律はアルが決めればいいんだおw」



ベリリリリr!

バリン!!!



「外扉が壊れた!」
「内扉も壊さないと!」
「早く、アルも手伝ってよw」
そう言いながら、
ギンは必死に塔の窓を壊している。


「うぎゃーー!」
「もぉ、どうにでもなれだ!」
「しっつれいします!!」

アルは外窓だった板を持つと、
思いっきりチカラを込めて、
窓に向かって、板を振り落とした。



バリィィィィーン!!!




窓ガラスが凄まじい音を出して割れ、
ガラガラと崩れ落ちた。




「もしもーし・・・」

「おじゃましまぁ〜〜す」


アルとギンは、窓から部屋の中に入ったが、
誰も居ない、何もないガランとした部屋が
広がっているだけだった。




塔の中を探し回ったが・・・
アンナの姿は、どこにもなかった。



鳥が住んでいた気配すらしない
薄汚れた室内だった。



「本当に、ここの塔で良かったんだよね?」
不安そうにアルがギンに聞く。



「ぅん〜〜ここしか見当たらなかったしねぇ〜」
ギンも少し迷った声で、
クモの巣が沢山はった部屋を
キョロキョロと見渡した。




ガタ!!!



「イタァァァーイ(;0;)」
あまりの古さに、床が崩れ、
ギンの足が、床に はまってしまった。
「痛いぉ〜〜〜(;m;)」




「おいおい・・・気をつけろ・・よ・・・」


ギンの方を見るなり、
アルは足がガタガタと震え、
ペタリとへたり込んでしまった。

声を出したいが、
クチをパクパクと動かすだけで、
声にならない。


「アル?どーしたんら?」
「ほんと、足痛いぃ〜〜(;m;)」



ギンが、ふと隣りを見ると、
幼い頃のアルが、立っていたのだった。



「おおwやっぱりチビアルかぁ〜w」
「いつ見ても、カワイイなぁ〜w(*´∇`*)」
知らぬ間に隣りにいた幼いアルを見つけ、
ギンは、ギューと抱きしめた。



幼いアルの曇りない瞳から、
ポロポロと止まる事のない涙があふれては、
雪となって舞っていく。





「ヒィィィ!!」
「な・・・なんで小さい時のオレがいるんだっ?!」
そう、言い、おびえるアルを見つめ、
ギンは、言った。

「これじゃあ・・・雪は止められないかぁ・・・」
「まぁw無理もない・・・w」


「んーーー。」
「これは、あんまり話したくないんだけど・・・」

躊躇するように、
ギンはフツフツと話しだした。





「夢の中に出てくる鳥は」
「自分自身。または、周りの鳥達」



「夢の世界は、アルの心の中の想いと」
「今まで見てきた記憶、」
「思い出で出来てる・・・」



「アル自身が作り上げた世界」




「アンナの本当の姿は・・・」
「アル自身なんだょ」





「ボクがアル自身のようにねw」





「アルの一部って言った方がいいかな」




「アンナは、アルの悲しみの一部」

「家族から捨てられた深い悲しみ」





「あの おばあさんも、アルなんだよ?」
「気が付かなかった?」


「家を守り続け、誰かのために」
「自分を犠牲にしてまで守りたいと願う気持ち」



「あの海岸にいた少年も、アル自身」

「暖めてきた想いを彼女へ届けないまま」
「捨ててしまった。過去の記憶」



悲しげに、ギンはアルを見つめた。






「カモメが想いを届けに行くのも・・・」





「あの家から離れるのも・・・」






「涙を止めるのも・・・」








「全部、アル自身なんだよ」










「これで分かったかな?」







「ここは、夢・・・。アルの夢だよ」





「できるのは、アルだけ」


少年も・・・
おばあさんも・・・
少女も・・・

思い出の中の自分自身の姿・・・。



自分自身のツライ記憶が、
夢の世界をこんな風に、
形作っているなんて
思いもよらなかった。



何も言い返すことができず、アルは、
ギンの話しに耳を傾ける事しかできなかった。




ギンは、幼いアルの涙を優しくぬぐい、
そして、力強い口調で言った。




「いつか・・・涙がやむ日が来る・・・w」

「今は、まだ無理かもしれない」



「でもね、きっと、いつか止む日が来るって」

「信じてる!!!」





「今は・・・悲しみばかりの世界だけど・・・」

「信じる心が、未来の自分が・・・」

「新しい夢の世界を導いてくれる」

「もっと、暖かい夢に変わっていけるんだw」




「そうすれば、少年もw」

「おばあさんもw」

「おばあさんの家族だって」

「また、楽しく暮らし出すよ☆」

「アンナちゃんだってねw」





「まずは、アル自身、夢の鳥達に情を移しすぎて」
「夢に飲み込まれないようにしてね!」

「ここにいる鳥達は」
「自分の分身だから、気持ちが分かりすぎてしまう」



「立ち止まってしまうのは・・・分かるけど」

「アル自身に何かあれば、夢の鳥たちだって」

「アルと共に、いなくなってしまう・・・」



「ボクだってぇ〜〜〜(;m;)ウルウル」

「だから、アル!!!シッカリして!!!」






「朝の7時まで、あと約4時間!!!」



時計の針は、午前3時を過ぎていた。





「さぁ、行こう!」


「ここで、立ち止まってる場合じゃないぉ!」





ギンはペタリと座り込むアルに手を差し伸べた。

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♪静かなる時
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