『夢の果て』
〜第六章 旅立〜





水色の大きな空に浮かぶ鮮やかな虹。




それは

心に潤いを与えてくれるもの。





それは

心の架け橋。




それは

願いを込めた希望の光。




それは


いつかは消えてしまう



つかむ事のできない



はかない幻。







草むらにチョコンと座り、
一匹の年老いた雄ネコが絵を描いていた。


そっと近づき、
後ろからスケッチブックを覗き見ると・・・


青い空と野原と木々が
水彩でフワリと描かれていた。


そう、この島は、とても自然豊かな島だったが、
花一つ咲いてない
殺風景な場所だった。



生い茂る草木と青い海と空が広がっているだけ。



他の島と比べて、圧倒的に色彩が少ない、
少し寂しい場所だった。



景色とスケッチブックを交互に見つめるネコは、
やっと、アルたちに気づき、機嫌良く挨拶をした。

「おやwめずらしいw」
「何十年とココで絵を描いてるが」
「この島にお客さんは数年ぶりだよw」



「そうなんですか?」
「知らずに、この島にたどりついたのですが」
「この島は、草木ばかりで・・・」
「あまりココに住んでる方はいらっしゃらないですね?」
アルは周りを見渡しながら、言った。

誰もいないだけじゃなく、
虫や生き物自体いない。


「そうじゃな・・・」
「ここの島は、一度大きな火事があって」
「全て燃えてしまったんだ・・・」
「何十年って月日が経って、草木が生えたが」
「災害があってから、タタリがあると噂されて」
「誰も近づかなくなってしまったんだよ」

「誰も近づかないから、見ての通り花一つない」
「花の花粉でさえ、運んできやしないよ〜」
「風が運んでくれるほど、近くに島はないしなぁ」
ネコは、筆を動かしながら、話してくれた。



ネコの横には、
色とりどりの絵の具のチューブ。


これだけの色彩の絵の具がありながら、
使うのは緑と青と茶色、白くらいだろう。



色んな色彩の花や景色がある島に行った方が
より多くの絵の具で絵が描けるのに、
なぜ、草木しかない島で
絵を描き続けているんだろうか?





アルは思い切って聞いてみた。
「あのぉ・・・」
「この島のどこが、いいのですか?」






ネコは筆を置き、一息つくと、
ニッコリ微笑んで言った。

「この島には、よく天気雨が降るんだよ」

「天気雨の後によく現れるんだ・・・w」



「私の描きたいモノがねw」
ネコは、いたずらっぽくウィンクをした。





「何が現れるんですか?!(><;」
「ま・・・まさか!!」
「タタリって言われてる・・・」
「何か得たいの知れないモノですか?!」
トニーは身を乗り出して、叫んだ。



「いやーw違う違うwww」
ネコは右手をブンブンと動かしながら、
アハハと高笑いした。





「虹が現れるんだw」






天気雨が降りやすいこの島は、
よく虹が架かり、
どの島にも見られないほど、
大きい虹が空にかかるのだと言う。





七色の光の橋。

それを描くために、
この島に住み続けるネコ。




絵の具を良く見ると、
緑や青の他にも色んな色が
使われている事が分かった。



きっと、この島の虹は、
素敵な色彩を見せてくれるのだろう。



「私は色んな島を渡り、色んな風景を見てきたが」
「この島ほど、美しい場所はないと思ってるよ」

ネコは真っ直ぐな眼差しで、
広がる野原を見つめ、満足そうに言った。







しばらくたつと、ザーっと地面を叩きつけるような
雨が降ってきた。


空はカラっと晴れているのに、
何だか変な感じだ。



「ほら、ごらんw」


小雨になっていく空を、
ネコはユックリと指差した。



アルとトニーが、
視線を向けると・・・。



青く澄み切った空に、
見た事がないほど大きな虹が、
空に架かっていた。



ちょっと飛んで行けば、
虹まで手が届きそう・・・

錯覚して、アルとトニーは思わず歩み寄った。



しかし、そこは、決して
たどりつけない場所。



アルとトニーは息を飲むほどの綺麗な虹に、
言葉も出ず、ポカンとクチを開けて、
しばらくの間見入っていた。




ネコは雨宿り場所に移動すると、
早速、スケッチブックを広げ、
描いていた風景に虹を描き加えている。


光の反射の仕方で、
毎回、虹の色が違うと言う。


この島に何年も住みつく理由が
分かるような気がした。



そして、虹を見た瞬間、
アルの心に何かが引っかかった。


「トニー。オレここに来た事あったか?」
アルはトニーに聞いたが、
トニーは首をかしげるだけだった。



昔にも見たような気がした。



でも、それが何だか思い出せない。





アルは、大きな虹を記憶に焼き付けるように
瞬きするのも忘れて、見続けた。




・・・虹が空に溶けて、消えていくまで・・・







ネコにギンの事を聞いたが、
全く知らないとの事だった。


旅を始めてから、1ヶ月あまり。

あらゆる島を渡り、島中探し回ったが、
ギンは一向に見つからなかった。



気が付くと、日が傾いてきている。

「ココには宿泊先も何もない」
「何のもてなしもできないが」
「ワシの家に来るといいw」
絵画道具を丁寧にしまうと、
ネコはアルたちを
親切にも家に招いてくれた。


「お気遣い、ありがとうございます!」
アルは即座にお礼を言い、
ネコの後ろを案内されるまま歩き続けた。


「日が暮れたら、真っ暗で何も見えなくなる」
「先を急ごう!」
ネコはアルたちが付いて来てるか、
時折後ろを振り返りながら、
ピョンピョンと走っていく。


こんなに木々があるのに、
鳥の鳴き声すらしない
シンっと静まった林の中。


草を踏みつけるオレ達の足音だけが、
カサカサと鳴っていた。


「アル。アル」
ネコには聞えない小さな声で、
走りながら、トニーはアルに話しかけた。
「ネコは鳥を食べると聞いてます」
「罠かもしれません・・・」
「十分お気を付けてください」
「まぁ、何かあったら!」
「このワタクシにお任せください!」
疑い深そうにネコを見つめながら、
たくましそうに胸を張ると、
アルの目の前を先導して走り出した。


「おいwww」
「それを先に言えっつーの!」
アルはトニーの言葉に、
少し大きい声を出してしまい、
Σ(゜д ゜) はっと、
クチをつぐんだ。



さっきから、トニーがネコに対して、
言葉少なめだったのは、
そのせいだったのか。



・・・でも・・・
あのネコは、鳥を襲うようなネコに見えない。

ましてや、友を食べるような薄情な感じもしない。


とても温和な心の優しいネコだ。
あの透き通るような瞳にウソはない。



アルはネコを信じ、
ネコの背中を追い続けた。




しばらくすると、小さな木で出来た
カントリー風の素敵な家が見えてきた。



全て、ネコの手作りの家だと言う。


家具もテーブルも
木で出来たとても暖かい家。


ネコはシンプルなテーブルにあるイスを引き、
かける様に、笑顔でもてなしてくれた。



アルはそっと、テーブルに耳を澄ませるように、
パタっと、ほっぺをつけ、目を閉じた。



心が落ち着く木の香り。



なぜだろう。
来た事がないのに・・・
とても懐かしい気がする・・・。






トニーはキッチンに行こうとするネコを
引き止め、大きな声で言った。
「あ!オレはロボットなので」
「お気持ちだけで十分です!」


「ええ!!」
「君・・・ロボットなのか?!」
「いや〜〜〜生身の鳥かとばかり思っていたよ」
「長い間生きてきたが」
「君みたいなロボットに出会ったのは初めてだ」
そう言いながら、
ネコは驚いた面持ちで、トニーをグルグルと見つめた。



数分後、食卓に出てきたのは、
暖かいコーンスープに、ロールパン。


「こんなものしか ないが」
「さぁ、召し上がれw」


ネコはロボットであるトニーに興味津々で、
ねほりはほりトニーに聞いていた。

あれほど警戒してたトニーは気分上々で、
自分ほど強いロボットはいないと、
自信満々に話している。


きっと、ネコの懐っこい表情が、
半信半疑だったトニーの心を
溶かしたのだろうw


いつものようにペラペラとしゃべるトニーを
アルは見つめ、
ネコを信じて良かったと、胸をなでおろした。


夕食が済むと、お風呂にゆっくりつかり、
ベットがある部屋に案内してくれた。



「オレが見張ってるから」
「安心して寝なw」
ネコが部屋から出て行くと、そう言い、
トニーはベットサイドにペタっと座った。


「あれだけ話しててwまだ警戒してるのか?w」
アルは、フカフカのベットの上で、
ポワンポワンと跳ねながら、フフフと笑った。



たいてい野宿をしていたアルは、
その夜、数日ぶりに、寝心地のいい
暖かな布団で寝られると思うと
嬉しくてたまらなかった。



とても、静かで、暖かい夜。


今日はグッスリ寝られそうだ。





窓の外は、真っ暗で、
かすかに打ち寄せる波の音が
聞えてくるだけ。


「今、気づいたけど・・・」
「ここって、浜辺の近くなんだな」







オレ達は違った目で、
ネコを非難したのに、
美味しい食事に
お風呂やベットまで用意してくれた。


一瞬でも疑った自分が情けない。



「こんなに良くしてもらって」
「お礼の一つもないなんて・・・」
その日暮らしのアルの手元には、
ドングリさえ残っていなかった。



「なぁ、トニー」
「これから貝を拾いに行かないか?」


貝を売れば、
絵の具の一本くらいは買えるだろう。


そのくらいの事しかできないが、
何もないよりは、いい。


「ぇえ?これからですか?!」
トニーは真っ暗な窓の外を見ながら言った。


「ああwこれがあれば、何とか大丈夫だろw」
もしもの時にと、
ネコが部屋に置いていったランプを
アルはトニーにホイっと投げた。


ロウソクの火が消えるまで、
30分あれば帰って来れるだろう。



ネコも寝静まった深夜の12時過ぎ、
アルたちは波音を頼りに
部屋の窓から浜辺に飛び立った。







「アルーーー!」
「こんな所にコロリツヅミありましたよ!」

トニーは、ランプをプラプラとさせて、
赤い貝を高々とあげながら、
アルの方を振り返った。


「おおwww」
「でかしたーwトニーww」
アルは走りながら、トニーに近づくと、
トニーは、アルの後ろにある何かを見ながら、
少し驚いた表情をしていた。


振り返ると、そこには・・・
小さな明かりが、チラチラと見えた。
家・・・?



なんだぁ・・・
他にも、住んでるのかw


ネコの話しでは、
誰もいないような口ぶりだったから、
無人島かと思っていた。


誰が住んでいるんだろう。
また、ネコだろうか?
それとも、鳥?
それとも・・・ギンがここに・・・?



あらゆる想像がめぐり、気づいたら、
アルは吸い込まれるように、
明かりへと羽ばたいていた。



「ちょっと待ってくださいよー」
「危ないですって!」
「危険な動物だったら、どうするんですか?!」
警戒心たっぷりのトニーは、
急いでアルを追いかけた。







ドアノブには、『OPEN』という表札。


真夜中にお店?



ランプの火を消し、
窓から中を覗き込んだ。



喫茶店らしい。




チャリーーーーン。



ドアノブを引くと、鈴の音が、
誰も居ない店内に響き渡った。



カウンター奥の食器棚には、
綺麗にコーヒーカップが並べられ、
コーヒーメーカーが、
コポコポと音を鳴らしていた。



ただでさえ動物が少ないこの島で
こんな夜中にお店やってるなんて・・・




アルが静かにイスに座ると、

不審そうに周りを見渡しながら、
トニーも続いて、
アルの向かい合わせの席に腰を下ろした。




「いらっしゃいませ^^」
カウンターから出てきたのは、
小さな仔猫だった。



「ほ?」
「キミが・・・ここのオーナー?」
小さい仔猫を覗き込むように、
アルは聞いた。



ニコニコと愛想よく笑いながら、
「はいwボクがオーナーです^^」
「何でもお申し付けください☆」と、
仔猫は言った。



「お子様は、もぉ寝る時間だろ?」
トニーは怪訝そうに、仔猫を見つめた。




「いえwボクこう見えて何年も」
「ずっと、ここで働いてるんですw」
嫌な顔一つ見せず、答える仔猫は、
お水がこぼれないようにソーっと、
テーブルの上にコップを置いた。



「ほぉ〜こりゃすまない!」
トニーは関心するように、
ペコリと頭をさげた。


「夜中に、こんな可愛いオーナーさんに出会えるなんて」
「光栄ですよww」
アルは仔猫の手を取り言った。


仔猫はポワーっと頬を染めて、
慌てて、おぼんを抱え、
カウンター奥に走って行ってしまった。



「おいおいwアルw」
「仔猫ちゃんw口説くなよ☆」
トニーは冗談ぽく笑った。




カウンターの奥では、
カップのカチャカチャという音が
ぎこちなく聞える。



大丈夫かな・・・?



数分待っていると、
今、落ちたたてのコーヒーだと、
仔猫はアルとトニーに持ってきた。





「ああ、オレ、ロボットだから飲めないんだw」
トニーは近くのイスを持ってくると、
そこに仔猫を座らせ、言った。
「オレの代わりにどうぞw」
「可愛いオーナーちゃんw」と。


「こらwあんまり からかうんじゃないぞw」
「オレはからかって言ったんじゃないからね^^」
アルはさっき言った自分のセリフを
フォローするように笑いながら言った。


「ぁぁ・・・はい!」
仔猫はまた頬をポっとさせると、
アルから視線をそらし、
砂糖とミルクをドバドバ沢山入れて、
グルグルとかきまぜた。




その光景があまりにもおかしくて、
アルとトニーは、しばらくの間、
仔猫と一緒に過ごした。


思ったよりずっと美味しい
コーヒーを飲みながら、
たわいのない話で、盛り上がり、
オレ達は笑い合った。



あっという間に楽しい時間は過ぎていく。



「ああ!もぉ2時だよ!」
そう切り出したのは、トニーだった。





ドアノブを押して出て行くアルを
仔猫は大きな声で引きとめた。


「あの!!」



「明日も来てくれますか?」

仔猫はアルをジッと見つめ、返事を待った。




「ああww来るよww」

「約束だw」



アルは仔猫にニッコリ微笑むと、
トニーと共に、元来た道へと飛び立った。




「アル、モテモテだなw」
トニーはイタズラっぽくニヤニヤしながら、
アルの横を飛んだ。


「トニーだって、ネコさんにモテモテじゃないかw」
アルは夕食の時の事を思い出しながら、笑った。




「ネコじーさんにモテてもなぁ〜w」

「アハハハハハwww」




なんて、楽しい夜なんだろう。




旅をして、色んな友達ができる事が、
こんなにも楽しい事だと知った。




真っ暗な夜風が波のように
島を吹き抜けたが、
不思議な出会いに、心が踊り、
オレたちは、いつまでも笑い合いながら、
いつまでも、クルクルと空を飛びまった。







翌朝、窓から入ってくる
眩しい太陽の光で目が覚めた。



久しぶりにグッスリ寝たぁ〜。



アルは、まぶしそうに、目を開け、
リビングへと歩き出した。



「ネコさんwおはようございます!」

ネコは朝食をテーブルに並べていた。


「これ、少しですが、海岸に落ちてたのでw」
「どうぞ・・・w」


昨日拾って来た赤い貝を渡すと、
ネコは、急に顔をこわばらせた。


「近くの海岸に行ったのか?!」
「ランプのロウソクがなくなっていたが・・・」
「深夜に出かけたのか?!」
「真っ暗でここ辺りは危険だ」
「日が沈んでから外出してはいけない!」
「いいですか!!!」
「もぉ、深夜に抜け出すような事はしちゃダメですよ!」
突然、ネコはすごい剣幕で怒鳴りつけ、
怖い表情をした。



「ごめんなさい・・・」

とアルが謝ると、
近くに居たトニーもペコリと頭を下げた。



ランプがあるとはいえ、
昨夜は楽しすぎて、ロウソクの火が尽きるまで、
外を飛び回っていたのだ。

ちょっと、予定外な行動だった(汗)


ネコが心配し、
怒るに決まっている。


「この貝はありがたく受け取っておくよw」
「昼間に貝を探しても良かったのに・・・」
「気遣いありがとうございます」
と、ネコは大切そうに貝を受け取った。




「オレたち、本当はすぐ島をたつつもりでしたが」
「もう1日、泊めてもらえませんか?」

アルは、仔猫との約束を覚えていた。


「いつまで泊まってもかまわないが」
「昨夜・・・何かあったのかね?!」
「何もなければ、この島に残らんだろう?」
ネコはジーっと不審そうにアルを見つめ、
問い詰めた。


怒っていたネコにこれ以上、刺激するような
変な話をしてはいけない。


「いえ・・・何も・・・」
アルは咄嗟に、
昨夜行った喫茶店の話を隠した。







『日が暮れる前に、家に帰るように』と、
アルとトニーに強く言い残して、
ネコは絵を描きに出かけた。



「昼間のうちに行かないとなw」

太陽が高く昇る昼下がり、
アルとトニーと再び、
海岸にある仔猫の喫茶店へ羽ばたいた。




ドアノブには、『CLOSE』の表札。



まだ、寝てるのかな?


お店のドアノブを回したが、閉まっている。



「夜中しかやってない喫茶店か」
困った表情をして、アルは喫茶店を見上げた。


その日は、仕方なく、
何もない この島を探索し、
日が暮れる前に、
アルたちは部屋に戻った。







「頼む!!!この通りだ!!!」
アルはトニーに土下座して、頼んだ。



昨日、はしゃいでた時、
途中でランプが消えてしまい、
鳥目で全く目が見えなくなったアルを
トニーがこの部屋まで連れてきてくれた。


トニーのロボットの目なら、
ランプがなくても
夜道が見えるのだとアルは知り、
土下座までして、
トニーに仔猫の所まで、
連れてって欲しいとお願いしているのであった。


「男が!!!約束一つ守れないなんて!」
「イヤなんだ!m(>×<)m」


昨日も今日も行ってる場所だし、
方向的にもわかってる。


「トニーが行ってくれないのなら」
「オレは独りでも行くぞ!!」



トニーは土下座するアルの肩に翼を置き、
アルをなだめた。
「約束は守るっていう気持ちは大切だ」
「だからって、ネコさんとの約束はどうなるんだよ」
「こっちも約束だろ?」



「だから、こうやってお願いしてるんだ」
「ネコさんにバレないように」
「ロウソク使わずに行けるすべは・・」
「トニー、おまえしかいないんだぁ〜」




「アル・・・約束を守るって」
「バレないようにする事かよw」
あきれたようにトニーは、アルを見つめた。


「だって・・・」
「次、いつ会えるか分からないのに・・・」
「約束も守らず、何も言わずに消えるなんて」
「オレにはできない!」
「あんなに楽しい時間一緒に過ごしたじゃないか!」
涙ながらに、アルはトニーに訴えた。



「・・・そうだな・・・」
「オレたちが何事もなく戻って」
「黙ってれば・・・」
「ネコさんも心配しないだろうし・・・」

「仕方ないな・・・」
とうとうトニーは、
アルの説得に折れてしまった。




明日、オレたちはこの島をたつ。



せめて、その前に、もう一度会って、



・・・サヨナラを伝えたいんだ・・・







その晩、ネコはアルたちの旅の門出を祝って、
美味しい料理を振舞ってくれた。

アルとトニーは、ここぞとばかり、
ネコにお酒をどんどん勧め、
何も知らないままネコは、
ソファに横になりスヤスヤと眠り出した。


アルはネコにそっと毛布をかけてあげると
「すぐ、戻ってくるからw」と告げ、
トニーに引っ張られるまま、
暗闇の中、羽ばたかせた。







「わぁ〜〜〜!!」
「約束通り来てくれたんだね!」
嬉しさのあまり、仔猫はアルに飛びついた。


昨日のように輪になって座ると、
香ばしいコーヒーの香りの中で、
ひとしきり、楽しい話をした。


「こんな風に、お客さんと一緒に」
「楽しくコーヒーを飲むのは初めてですw」
クリープがクルクルと回って、
コーヒーになじんでいくのを見ながら、
嬉しそうに仔猫は言った。


「実はね・・・」
「ここに来るのは、今日で最後になるんだ」

「ネコおじさんの所に泊まってるんだけど」
「日が沈んだら、家から出ちゃいけないって」
「すごい怒るんだよwww」
「オレとトニーの方がw」
「仔猫ちゃんよりwよっぽど子どもみたいだろ?w」
寂しさを隠すように、
アルはアハハハと笑った。

「今日はネコさん酔っ払わせて、その隙に来たんだw」
「そろそろ、ネコさん起きちゃうと思うし」
「帰らなくちゃ・・・」


時計の針は1時を過ぎていた。


「そ・・・そんなぁ・・・」
仔猫はひどく寂しい表情をした。



「それに・・・」
「オレたち、明日の朝、この島を離れるんだ」

仔猫ちゃんに会えて、すごく楽しかった・・・
素敵な思い出をありがとう・・・w
そう言おうと思っていたのに・・・

どうしてだろう。

オレは全く違う事を口走っていた。


「良かったら・・・オレたちと来ないか?」
「ここで独りよりよっぽどいいよ?」
アルは両手で、今にも泣きそうな
仔猫の手を取り、表情をうかがった。



トニーも思いがけないアルの言葉に、
ビックリしたが、
「仔猫ちゃんなら、オレの肩に乗せて悠々飛べるぜw」
「一緒に来いよ!!w」と、
肩をポンポンと叩きながら言った。
トニーも大賛成だった。





「・・・ありがとう・・・」
「・・・ボク・・・」
「そんな事言われたの初めてだよ・・・」
仔猫の大きい瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。



誰もいない島で、
しかも、深夜に喫茶店をしているからだろう(汗)



「ボク・・・」
「一緒に行きたいよ・・・」
「・・・でもね・・・」
「アルおにーちゃんが、ギンさんを探してるように」
「ボクにもやらないといけない事があるんだ〜」
「それはね・・・」


何をやる事があるのだろう。


昼間いなかったのは、
その用事だったのだろうか?


仔猫のクチから出た言葉は、
頭にもない意外な言葉だった。


「あのネコおじさんの事を見張る事です」



ほ?


何でだ?


「あのネコおじさんはすごく危険なんです」

「催眠術を使う事ができて・・・」



沈んだ声で、仔猫は話し出した。


特殊な話し方をするだけで、
脳に特別な刺激を与え、
脳内麻薬を強制的に分泌させて
自分の思うように操ってしまう催眠術。


それを、ネコは悪用し、
訪問者を幻覚を見させたり、
感情をコントロールし、、
簡単に死へも追いやってしまうと言う。


島を訪れた動物たちは、
帰る事なく次から次へと自殺し、


取り残された家族達は、
ネコの催眠術にかかって
殺害されたとも知らずに、
タタリだと言っている。


タタリだとウワサされて、
もぉ誰もこの島には近づかない。


この島に降り立ったら最後、
誰も帰る事ができない『魔の島』と、
呼ばれるようになった。


仔猫は、この島のタタリの謎を話し終え、
アルにしがみ付きながら、言った。

「あのネコが訪問者全てを」
「催眠術で操って、亡き者にしているんだ!」

「危険だよ!!!」
「お願い!あの家には帰らないで!」

「朝までここにいて、ココから旅立てばいいよ!」

アルは必死に訴える仔猫の頭をなでながら、
とても戸惑っていた。



「そう言う事でしたか・・・」
「オレも初めに言ったじゃないですか!」
「あのネコはアヤシイ!!って!」
「警戒して、ほんと、良かった!!」
トニーは仔猫の話をうのみにし、
言い放った。


「おいおい・・・w」
「オマエ・・・全然警戒してなかったろ^。^;?」
アルは、得意げになっているトニーをとがめた。



トニーが催眠術にかからない事を知って、
今まで、手を出さなかった。



これで、ロボットの事を、
ねほりはほり聞きたがる理由も分かった。



・・・でも・・・


あれだけ、親切にしてくれたのは、
どうしてだろう。


今夜の夕食だって、
旅の安全を祈り、乾杯してくれた。



あの笑顔にウソがあったのだろうか?



トニーがいたから、
手を出さなかった。

ただ・・・それだけだろうか?




仔猫の話しに、納得できず、
アルは言った。
「じゃあ、この事件、一緒に解決しないか?」と。




仔猫は、アルの言葉に少し動揺をしたが、
「ダメだよ!これはボクがやる事なんだ!」
「アルを危険な目に合わせられないよ!」
(><;仔猫は足をバタバタとさせて、
アルの申し出を断った。


「トニーがいるから」
「オレは大丈夫だよ^^w」
「殺られるなら、今頃、死んでるってw」
「もう、2泊目で殺されないんだw」
「さぁ、この手を離してw」
アルは、自分にしがみ付いている
仔猫の手をそっと離した。


「オレ、この事件解決したら・・・w」
「また、キミを迎えに来てもいいかな?」
そう、アルが言うと、
さっきよりも一層、悲しげな表情をし、
うつむいた。



そして、
仔猫はただ、歯を食いしばり、
涙がポロポロとあふれる瞳に
腕を押し当てて、ワンワン泣いていた。





その涙のワケが、その時のオレには、
全く分からなかった。


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