『 夢の果て 』
〜第七章 迷い/真実〜



誰も居ない。
音もしない。
何もない。


無機質で、
影一つない真っ白な世界。




果てすらない、
どこまでも続く真っ白な世界に、
オレはポツンといた。


叫ぶわけでもなく
泣くわけでもなく
困った感情もなく
寂しくもなく
悲しくもなく


ただ、オレはいる。





ふと、どこからともなく、
知らない誰かの声が聞えてきた。



周りを見渡すが、
姿がない。




耳に入ってくる声ではなく、
心に届いてくる静かな声。




『自ら捨て去った過去』




『ならば、アルという名前も捨てて行くがいい』




『アルとして生きていく事はない』




『自ら捨てた過去を探す事はない』




『好きに生きて行くが良い・・・』




『未来を切り開くのはオマエ自身だ』



声が消えると、
また静寂と空白の世界だけが残され、



オレは、なすすべもなく、立ち尽くした。







「・・・っく・・・」


アルは、ふと目を覚ました。
時計を見ると、まだ深夜3時。


・・・イヤな夢・・・


アルの額に冷や汗が薄っすらにじんでいる。




近頃、幾度も見る同じ夢。





せっかく、久しぶりに
フカフカなベットで眠れたのに・・・。



アルとトニーは、あれから数ヶ月、
広い海を渡り、
鳥たちが賑わう大きな街を見つけ、
小さな宿屋に泊まる事ができたのだ。



大きくため息をついて、
布団にもぐりこんだが、
眠れそうにない。





『・・・アルという名前も捨てて行くがいい・・・』




夢の声が脳裏に何度もリフレインする。





夢を見るたびに、
迷いが生じた。





・・・ギンを探す旅を続ける事を・・・









次の日の昼下がり、宿屋を出、
慣れない冷たいアスファルトの上を
アルとトニーは、テクテクと歩いていた。


しばらく行くと、
綺麗に敷かれたレンガの路が真っ直ぐ伸びていた。


商店街だろうか・・・

その路を挟んで、両側にはレンガ造りの建物。
果物や生活用品、家具屋、色々なお店が立ち並んでいる。


「そこのお兄さん!!」
「どうだい!?うちの果物は最高だよー!」
愛想よくお店の鳥たちが、話しかけてくる。


アルとトニーは、とても華やかな通りに、
キョロキョロ見回しながら、歩いていたが、
ふと、その足を止めた。



前方から、賑やかな音楽が近づいて来ていたのだ。



「パレードか?」
アルは背伸びするが、
通りにずらーっと続いている鳥たちの群れで、
視界をさえぎられ、見えない。




トニーは軽く地面を蹴り、空高く飛ぶと、様子をうかがった。

「あ〜〜〜あれは・・・」
「サーカスの一団だw」
「この近くで、サーカスのショーをやるんでしょうw」
「きっと、その宣伝に、ああやって周ってるんだよ^^」


ピエロの格好をした鳥たちが、
打楽器を持ち、演奏しながら、
ニコニコと風船やチラシを配っていた。
周囲は誰もが笑顔で、とても楽しそうだ。




「アルーーーー!」
「降りる場所なくなったから、ちょい先で待ってる!」
そう言うと、トニーはバタバタと羽ばたきながら、
混みあう通りの上空をどんどん飛んで行った。


アルはサーカス団を一目見ようと、
左右に頭を振りながら、背伸びをし、
鳥たちの隙間から、必死に見つめた。




そこには、太鼓を叩くピエロや
沢山のボールをポンポンと高くあげては手に取る
パフォーマンスを繰り広げていた。

その中でも、フワリとした淡いピンク色の羽を風になびかせ、
銀色の横笛を楽しそうに吹く可愛いらしい少女に
アルは目を奪われた。



心を映すかのように透明で澄んだその音色は、
優しく風に乗り、胸の中に心地良く響き渡った。




少女はアルの視線に気づき、
一輪の花とチラシをアルへと差し出し
優しく微笑むと
また横笛を吹き続けて通り過ぎていった。




夢でも見ているかのように、
アルは、ポワーっとなり、
後ろから来る鳥たちの群れに押し流されていった。




サーカス団の音楽が徐々に遠のいていき、


鳥たちの群れは、いなくなっていった。




少女の優しい笑顔が、アルの心から離れず、
鳥たちが行き来する路で、
かすかに聞える笛の音の方へ振り返った。





立ち尽くすアルの後ろ姿を見つけ、トニーが大きな声で呼んだ。

「アルー!?どうかした?!」




楽しそうなサーカスの音楽が、
いつになく、アルの心を躍らせていた。





「・・・なぁ。トニー」
「せっかくだし〜サーカス・・・見に行かないか?」

アルは少し照れくさそうに言った。



長い間、アルはギンを必死に探しまわり、
沢山の島を渡り歩いた。
しかし、すぐに見つかるワケでもなく・・・
記憶をなくし、自分すら分からないままで、
最近、自分を少し追い込み気味だったアルを
トニーは心配していたのだ。


『少しでも、息抜きになればいいだろう・・・』
そう、トニーは思い、笑顔を向け
アルの言葉に大賛成した。







アルが手にしていたサーカスのチラシには、




『本日、●▲広場にて、19時 開演』

の文字が刻まれていた。








アルとトニーは早めに広場に着くと、
懐にある わずかなお金を
サーカスの受付に払い、
できるだけ、前の席に腰掛けた。


広場には、大きなテントが張られ、
小さな子どもから大人まで、
大勢の鳥達が次から次へと集まり、
テントの中を埋め尽くした。


しばらくすると、
開演の音楽と共に、スポットライトが、
真っ暗だったステージを照らだし、
ショーが始まった。

賢い動物達が芸をやって見せたり、
綱渡りや、クルクルと宙を舞う空中回転を目の当たりにし、
沢山の観衆たちは歓声を上げ、大きく手を叩いた。


どれも、歓声が湧き上がるほど
すごいパフォーマンスばかり。


最後は、アンコールの嵐で、
拍手が鳴り止まぬまま、サーカスは終演をむかえた。



「すごかった!!」
「お金払って見るだけの事はあるな!」
トニーは興奮さめやまず、大きな声で話しかけた。


しかし、アルはキョロキョロと周囲を見渡すばかり。


アルは、あの横笛の少女を探していたのだ。


「おい。アル?どうした?!」

帰っていく観衆たちを逆行し、
歩き出すアルの肩をトニーはつかんだが、
アルはテントの奥へとグングン進んで行った。



アルは、サーカス団の1羽を見つけ、
横笛を吹く女の子を訪ねた。

「宣伝パレードの時に・・・」
「横笛吹いていた女の子がいたんですけど」
「このサーカス団の方なんでしょうか?」
「今夜は出てなかったようですけど・・・」


団員はアルの言葉に首をかしげ、少し考えると、
思いついたように、話しだした。

「ああwあの子ねwあの子はこの街に住んでる子でw」
「サーカスの一員じゃないよw」
「今回だけ、参加してもらったんだw」
「数が足りなくてね〜」
「楽器を演奏してくれていた子達は」
「皆、この街の子さw」
「あの子達がいてくれて、パレードが華やかになってw」
「今夜も大盛況で終わったし!w」
「ほんと、助かったよぉ〜〜〜☆」
そう、満足気に言うと、
サーカスの団員は、更にテントの奥へと入って行き、
お疲れ様ー!と言う、大きな笑い声が、
テントの中で明るく響き渡った。




鳥たちに笑顔を与えては、
街から街へ流れていくサーカス団員たち。


明日の朝には、隣町に行ってしまうらしい。



あれだけいた観衆たちは、家路へと散らばって行き、
すっかり暗くなった広場には、
明るく灯ったサーカスのテントだけが残された。




アルは、ガックリと近くのベンチに腰をかけた。


「なんだ?なんだ?!女の子目当てで来てたのかっ」

トニーはアルを覗き込み、ニヤニヤと笑って言った。


「まぁ・・・オレは、恋と言うものを知らないが・・・」
「いいもんらしいな!!!」


ドシンと、トニーはアルの隣りに腰掛けた。



「いや!!違う!!!」
トニーの言葉に、声を荒げて否定し、
アルは顔を赤らめた。


落ち着きを少し取り戻し、アルは話し始めた。


「あの・・・横笛がもう一度聞きたいんだ・・・」

「あの子の横笛を聞いた時・・・」

「心が穏やかになったというか・・・」




「全てを忘れられたんだ」





「記憶をなくしてしまった事も」

「過去を見つけようと、必死になっている自分も」




「今背負っている何もかもを」

「忘れられたんだ・・・」






「そうかぁー」
トニーは真面目な表情になると、
アルに向かって言い放った。
「分かった!!」
「あの子を探すの手伝ってやるって!」
「この街にいるって言ってたじゃないかw」
「すぐ、そこにいるかもしれないのに」
「そんなガッカリするなよwww」


トニーは、うな垂れるアルを励まし、
ポンと背中を叩いた。



「いやいやいやいやー」
「そこまでしてまで(・ω・;A)アセアセ…」
「今夜いると思って、楽しみにしてたからさ〜」
「ちょっとガッカリしただけだよw」

この島に来てから、数週間がたつ。

「これだけ滞在して、ギンの情報はこれっぽちもなかった」
「明日にでも、隣りの島へ飛ぼう!」


「そうか?」
チラリとトニーはアルを覗くと、
やはり会いたそうにしているのがミエミエだ(汗)



アルはガックリ肩を落とし、パタリとベンチに横になった。







「・・・あれ?トニー?」



ベンチでふて寝しているうちに、寝てしまったらしい。
肌寒さに目覚めると、トニーの姿がなかった。



目をこすりながら、周りを見渡すと、
空高くを飛ぶトニーの姿を見つけた。


よくよく見ると、何も言わず、
トニーは翼をブンブン振っている。



「・・・何やってんだぁ〜〜〜」

アルは、だるそうにベンチから起き上がり、
トニーが手を振る方向に歩み寄った。




と・・・。



聞き覚えのある横笛のメロディがかすかに耳に届いた。




アルは音がする方へと足を早めると、



広場近くにある川岸で、
あの少女が横笛を吹いていた。





ふと、上空を見たが、
トニーの姿はどこにもない。

知らない間に、
どこかへ行ってしまったようだ(汗)





川岸は、民家から少し離れていて、
とても静かな場所。



アルは、少女に気づかれないよう、
静かに近くの土手に腰をおろし、
音色に耳を傾けた。






横笛が夜の静寂と共に、流れる。








透き通るような音色にアルは心を奪われ、
そっと、目をつぶった。



ずっと聞いていたいほど・・・
心地のいいメロディー。





トニーから言われた事は図星だった。




心の奥に響く音色を聞くほど、
アルはその少女に惹かれていく・・・




アルは少女を好きになりかけていた。






好きになってしまえば、
ここにずっと居たくなる。










しかし、この島にとどまる訳にはいかない。
















夜空に笛の音が響き渡る中、
惹かれていく心を振り払い、
アルは、突然その場から立上がった。





その物音に、少女は振り返り、
笛の音がパタリと止まった。




静寂が流れる。





「・・・誰?」
少女が小さい声で、アルに話しかけた。




「オレは・・・」





『アルと言う名を捨てていけばいい・・・』

頭に、ふと夢の言葉がよぎり、
自分の名前を発する事に
アルは躊躇した。






名前を捨て、過去を捨て・・・
新しい未来を作っていけるだろうか・・・。




「・・・オレは・・・」




アルは、わからなくなり、
名乗ることもできず、
その場から立ち去った。







結局、オレは、
過去も未来も・・・
今すら見えなくなっていた。








どうしようもない自分の苛立ちと、
押し込めた少女への気持ちがあふれ、
瞳から涙が流れるのを必死に堪えながら、
ただ、少女に後姿を見せて歩き出した。









どこで見てたのか、
トニーは、そんなアルの後ろ姿追いかけ、
怒鳴りつけた。



「アル!!」
「一度も話さないままでいいのかよ!」
「こんなんでいいのか?!」

「過去にとらわれて」
「今を大事にしない生き方やめろよ!」



しかし、
アルはトニーの言葉に足を止める事なく、
当てもなく無我夢中で走り続けた。







今話しかけたら、




本当に好きになってしまう。









本当に好きになる前に、




立ち去った方がいい。







笛の音が届かない遠い遠い場所まで。







アルは街をさまよい続け、気が付くと、
再び、サーカスを見た広場へと戻ってきていた。



トニーは知っていたかのように、
ベンチに座り、アルを待っていた。




「どうだ??落ち着いたか?」

ひどくヤツれて見えるアルを慰めるように、
ベンチに座らせると、
トニーはその隣りに座り直し、
一つの話をし始めた。




アルは、何も言う事なく、
トニーの話しに、ただ耳を傾けた。





ある所に、とても機械の発達した国があった。

全て機械が動かし、
道という道には流れる歩道が設置してあり、
歩く事すらしなくてもいいほど。

各家には多数のロボットがあり、
家事や掃除してくれる。


優れた能力のあるロボットが次々と開発された そんな折、
隣りの国が、その知恵を欲しいと言ってきたのだ。


今まで、改良に改良を重ね、努力してきたのは自分達。
そう簡単に教える事はできない。


両国のいがみ合いは続き、
怒りを覚えた隣の国は戦闘を企てた。


自分の国にしてしまえば、我が国の知識になると。


そして、とうとう戦争が勃発した。


戦闘にかりだされ、多くの鳥が命を落とした。



そして、国民を守る為、国王は今まで作ることを許さなかった
戦闘用ロボットの開発命令をくだした。


一つの国を1日で滅ぼすほど、
計り知れないほどの力を持つロボット10体を作り上げた。



それは成功だったのか、失敗だったのか。

その時、誰も知るよしもなかった。



1日で、隣の国は火の海と化し、
空はケムリで覆われ、黒い雨が何日も降り続いた。


女、子供すら惨殺され、
鳥1体も残されてないほど・・・


今までにないヒドイ戦争だった。




隣りの国を落としたが、
ロボット達は気が狂ったかのように、
破壊する事をやめない。


自分を作ってくれた国まで
破壊し始めたのだ。


あまりの恐ろしいロボットに、
作った鳥達すら身震いした。



国王は、すぐに廃棄するように命令し、
ロボットに向けて攻撃を始めたが、
そう簡単に勝てる相手ではない。



そして、急遽、
予備で作っていた攻撃用ロボットを起動させた。


10体のロボットを壊すように
プログラミングして・・・。



同じ力を持っている戦闘用ロボット同士の戦いは、
引けを取らないほどの破壊力。


隣国との戦争以上に激しい戦いとなり、
数日後、終戦を迎えた。


どちらも無残に壊れたが、
機械の国も、自らが作ったロボットによって
全て破壊された。


高層タワーが立ち並んだ豊かな国だったが、
鳥達は別の島へと命からがら逃げ出し、
あれほど機械が発達した国は、
自国の知恵を守るがゆえに、身を滅ぼし、
知識や今まで築き上げた物全てを失ってしまった。




しかし、その後、
戦闘用ロボットを作る事に長年たずさわってきた
1羽の学者が、ガレキと化した国を訪れた。


ロボットをこよなく愛し、
他の鳥たち以上に熱心な その学者は、
完璧なロボットを作ることが夢だった。


しかし、1からロボットを作るには、
費用がかかりすぎる。


今まで作ってきたロボットを
どうにか再生できないかと、
学者はガレキの中をあさり、
使えそうなロボットを探した。


しかし、家庭用ロボットは、
真っ黒焦げになり、
使えそうもない。


どのロボットも、手足が動かないほど、
ヒドイ有様になっていたが、
修理すれば、何とか使えそうなロボットを一体見つけた。



しかし、
学者はそのロボットから一歩後ずさり、
頭を抱えた。



それは戦闘用のロボットだったのだ。






あの悲劇は決して繰り返してはいけない。



かと言って、
ロボットを自分で、
作るほどの力もない・・・



学者はしばらく考えた後、
夢を捨てきれず、
覚悟を決め、歩み寄った。






そして、一度離したロボットの腕を
優しくなで、言った。







「戦う為に、生まれてきたロボットよ・・・」





「次、生まれ変わったら、この腕に、そんな事は決してさせない」






一体の戦闘ロボットを改良に改良を重ね、
数年後、よみがえらせる事に成功した。



むごい戦争の記憶を消し、
新しくプログラムし直した。


普通の力にしようと努力したが、
学者にそれだけの知識はなく、

腕を何度作り変えても、
力はそのまま残ってしまった。



悪用されたら、大変だ。


学者自身が、主人となり、
そして、主人が亡くなった その時。
停止するようにプログラムされた。



学者は自分の事のように、
それはそれはロボットを大切にした。



しかし、長い月日が経ったある日、
戦闘用ロボットである事が、バレてしまい・・・




悪い奴らに追われる事になった。






学者には色んな島を点々とし、
懸命に逃げて、ロボットを守った。



どんなにロボットが強いか知っていた学者は、
ロボットにお願いして、
悪い奴らと戦わせる事もできた。


しかし、戦わせることは決してなかった。




『次、生まれ変わったら、絶対に戦わせない』と、
あの日誓った思いを
学者は一日たりとも忘れた事はなかった。




学者は悪い奴らを攻撃するポイポイ爆弾を作り、
自ら戦い、ロボットを必死に守り続けた。






そんな ある日。


学者は恋をした。






彼女とずっといたいと、
心の底から、彼女を守りたいと思った。








「そして・・・どうしたと、思う?」

唐突に、トニーはアルに尋ねた。




アルはクチをギュっとつむり、考え言った。

「ンー。それは・・・」
「彼女を守るために、しょうがなく・・・」


「悪い奴らに、ロボットを渡した・・・とか?」





「ちがっ!!!」
「渡してどうすんだよwww」
トニーは、おなかを抱えて笑い出した。





その学者は、そのロボットを捨てたのさ。


誰も、知らない。
誰も来ない。
誰も近づけない場所に、
ロボットを沈めた。




トニーは、苦しそうに顔をゆがめ、言った。



「・・・海の底にね・・・」




「広い大海原に、ロボットを捨てて」
「この世を平和な地にしたのさ」




「ずっと追い求め・・・」
「大切にしてきたものでも、それを手放して」
「手に入れるものがあるって事だぁー!」




戦闘用のロボットとして
生まれた事を知らずに、
海の底へと落ちていった。



主人に見放され、
もう、自分は不必要という想いを背負って。



必要になれば、
また、戻ってきてくれると、
かすかな希望があった。


しかし、信じ続けて数十年・・・。
主人は二度と戻ってくる事はなかった。



それでも、ロボットは、
学者の事を全く恨んではいない。



なぜなら、学者が自分の未来を
真っ直ぐ前を見て選んだ道だったから。




「ご主人様が幸せに暮らしているのなら、文句はない!」
満足げに、トニーは強い口調で言った。



「何が嬉しかったって・・・」
「戦闘用だとわかっていながら」
「最後まで、戦うことを命じなかった事かな・・・w」
「(*’v`*)☆+ポワー☆」




「あ・・・あのさ・・・」
饒舌なトニーの話を切ったのは、アルだった。

「そのロボットって・・・」

「ま・・・まさか!トニーか?!」

「チカラも尋常じゃないほど強いし・・・(滝汗)」





「あ・・・しまった。バレタ?(*・∀・)」
「バレないように話をしようかと思ったらw」
「感情が入ってしまった!!」


トニーの前の主人との思い出。
そして、後から知った自分の素性。
の話だったのだ。



「ええええええええええ!(滝汗)」
「おまwwww早く言えよ!!!」
「そんな大事な話し!!」
怒鳴るようにアルは、ベンチから立ち上がり、
バタバタと騒いだ。



「こ・・・この話し聞かれたら・・・!!」
「悪い奴らに狙われるじゃまいか!!!gkbr」



アルは茂みに隠れ、キョロキョロと、
誰もいる様子もない広場を見渡した。





いつの間にか、
サーカス団のテントも暗くなり、
広場の街灯と月明かりだけが、
アルとトニーを照らしていた。







「大丈夫だってー!」
「何十年、海にいたと思ってるんだw」
「ロボットだったら、数週間で塩水でダメになってるって!」
「とっくに、壊れて死んだと思われてるよw」

「それに、オレの羽、青いけど、昔はなぁ〜」
「透き通るようなスカイブルーだったんだぞ!w」
「フハハハハハハー☆」
トニーは、羽を交互に揺らして、
バタバタと自慢げに羽を広げた。


「まぁ、長年の海水生活で(ぇ」
「こんな色になっちまったけどよ」
「ご主人様と一緒だった頃は・・・」
「毎日、羽のお手入れしてくれたんだぜw」


今まで、自分の事はベラベラと話していたが、
過去の主人の話は多くの事を語らずにいたトニーが、
こんな風に話すのは初めてだった。



「実は・・・最近、自分の素性を知って」
「やっと、心の整理ができたもんで・・・w」
「話せるようになったというか・・・(ぉぃ」

照れるように、トニーはハニかんだ笑顔を向けた。


そして、真面目な面持ちに戻し、話続けた。



「ギンを探すのは分かる・・・でも・・・」
「前のご主人様のように」
「アルには、今を生きて欲しんだよ!」

「ギンだって、同じ気持ちだと思う」


「記憶をなくして・・・」
「過去に何があったのか、とらわれるのは分かる」
「でも、今、アルは未来に向いて歩いてるか?」

「それに・・・」
「アル・・・最近、夜うなされてるだろ?」
「そんなに苦しいのなら・・・」
「ギンを探すのは、もぉやめないか・・・」

「これからは、明日の事を考えて・・・」







バサバサ!!!

アルは、トニーの言葉を振り払うかのように、
茂みから飛び出した。



「オレより先に、自分の過去を探しあてて・・・」
「オレだって・・・負けていられるか!!」
アルはトニーに向かって、大声で言い放った。




「!!!(゚ロ゚ノ)ノそ・・・そこかよ!」
「オレ、そーゆー意味で話したんじゃありませんから!w」
「しかも、オレの話、最後まで聞いてないし・・・(汗」
トニーはガックリと肩を落としたが、
何だか元気を取り戻したように、
生き生きと羽をばたつかせているアルを見て、
トニーは少し安堵した。



「最近、姿が見えない時あったけど、そんなことしてたのか〜!」
「みずくさいぞー!」と言い寄ってくるアルに、
トニーは、困ったように言葉をはいた。


「いや・・・これだけ、チカラのあるロボットだ・・」
「オレは、普通のロボットじゃない」

「危険なことに、アルは巻き込めない・・・」






「友達だろぉ〜!」
アルは強引に、トニーの肩に羽をまわした。



「まぁ・・・いい。今日はそろそろ、帰ろうぜ・・・w」
アルは、トボトボと歩き出した。

「ああ・・そうだな〜帰ろう・・・って、どこにだよ!」
トニーはすかさず、アルの言葉に突っ込んだ。



「あーー!!」
「サーカス観るのに、なけなしのお金払って・・・」
「金もなかった(^p^)(ぉぃ」



「おいーwww」



「しかも、宿屋、もぉ、やってないだろw」




いつの間にか、時計の針は12時を回っていた。




広場で、アルとトニーはお互いを見つめ、
大きな声で笑い合った。




なんだか、おかしかった。





こんな風に一緒に笑えて、
真剣に心配してくれる友がいるだけで、
オレは、幸せなのかもしれない。




そう、思えた。




ベンチに戻り、アルは、
乱暴にバタっと仰向けに倒れた。



雲ひとつない天には、
キラキラと光る星たちが、
優しく瞬いていた。



トニーは、門番のように、
アルの眠るベンチの片隅に座った。







長い旅の途中、幾度も野宿をしてきたが、
どんなに深い森の中でも、
近くにトニーがいるだけで、
アルは安眠できた。



何気ないトニーの優しさが、
アルの支えになり、


いつの間にか、トニーの傍らが、
アルの安らぎの場所になっていた。




・・・でも・・・
トニーと出合った時の事すら記憶にない。



どうやって、オレ達は出会ったのか・・、
どんな風に、ギンと3羽で、
一緒に過ごしてきたのか・・・


知りたくて、
思い出そうとするほど、頭が痛くなる。




夢の言葉のように・・・



自分の名前を捨て、自分の過去を捨て、
自分すら捨てて・・・
新しい道を自分で切り開いて行く事もできたはず。




・・・しかし・・・




それは、本当の自分から
逃げいているだけじゃないだろうか。




トニーは逃げる事をしなかった。



ロボットであるにも関わらず、
自分から逃げず、自分を見つめて、
過去を探し当てた。



どんなに、悲惨な時代を生き抜き、
苦痛な過去でも、
それを前向きに受け止めていた。



ツライ過去ほど、相手を許せないものだ。
しかし、トニーは、
その困難さえ乗り越えている。





アルはトニーに教えられた。





今ある自分は・・・。



『今こうしている自分は、
生きてきた過去があったからこそ、
今の自分がいる』と、言う事を。



トニーのように、
全てを受け止めるのに
時間がかかるかもしれない。

でも、いつかは、
過去もまるごと愛せる自分になりたい・・・








夢の声が胸の中で こだましたが、
もぉ、アルの耳には届かない。




もぉ、心を揺るがすことはない。






今夜はゆっくり眠れそうだ・・・。







アルは久しぶりに、深い深い眠りに落ちていった。








一晩で、今までのモヤモヤがなくなり、
ぐっすり眠れたのはいいものの、
起きたのは、太陽が真上に上った昼下がりだった。


寝ているうちに、サーカスのテントはなくなり、
小さい子供達が、ボール遊びをして広場をかけまわっている。



やっと起きてきたアルを見て、
トニーは言った。
「お!何か、今までになくスッキリした顔してるなw」




薄っすら雲がかかる青く透明な空を見上げると、
アルは、照れくさそうに言った。



「オレさ・・・」
「過去も未来も今すら見えてなかった」
「自分を見失いかけてた」


「でも、トニーがいてくれて」
「オレは救われた・・・」


「本当に、ありがとなw」





「おおおおお!!」
「分かってくれたか!!!」
「そうそうb今を大事にした方がいい^^」
「じゃあ、あの女の子探しするか?!」
「って、ウワサをすればーーー!!」
トニーは大声をあげながら、アルの後ろを指差した。



少女もアルに気づき、「あっ!」と小さく驚いていた。


アルは昨夜とは一変して、堂々と少女の前に歩み寄ると、
丁寧にお辞儀をし、話しかけた。
「昨日は驚かせてしまって、ごめんなさい」

「あなたの笛の音があまりにもキレーで・・・」
「本当に心癒されましたw」


「ええっ・・・。あ・・・ありがとうw」
「そんな風に言われるの初めて(><w」
少女はポワーっと顔を赤くし、小声で言うと、
嬉しそうにアルに笑顔を見せた。



「いつも、あの川辺で」
「今度のコンクール目指して」
「笛の練習してるんですw」

「あの・・・」
「来月・・・この広場でコンクールあるの」
「良かったら・・・来てください!」


少女は、恥ずかしそうにモジモジと話していたが、
アルの顔色をうかがうように見つめ、返事を待った。


「・・・いつかな??」
アルは優しく少女に問う。



「えと!来月・・・6月6日です!」
少女は元気良く答えた。




「分かった!!!必ず観に行くよ!w」

と言うアルの言葉に、
少女は、一段と笑顔をこぼし、
嬉しそうにピョコピョコ跳ねて喜んだ。




「オレたち・・・旅の者で、これから、この街を出るんだ」
「でも、6日には必ず!戻ってくるから!!」

「あなたの素敵な音色をまた聴きに!」


そう言うと、アルはトニーを引き連れ、
手を振る少女に背を向けた。




と、少女が大きな声で、アルを引き止めた。



「あの!!!」

「アタシの名前は、シズク!!!」


「あなたの名前は?!」







アルは振り返り、大きく手を振りながら、
少女に笑顔を向けると、
大空に響き渡るくらい大きな声で、叫んだ。








「オレはアル!!!」と。









アルは少女との約束を胸に、
真っ直ぐ前を見て歩き出した。





『・・・このまま、この島にいてもいいだぜ?』
トニーがニヤニヤしながら、
ひそひそ声で話しかけた。


「いや・・・いいんだw」


「どんな事があっても」
「過去は捨てないw」


「でも、過去の為に犠牲をはらう事は絶対にしないw」







「今も大切にする!」






アルは隣りの島へつながる青く広がる海へ、
大きくジャンプし、泳ぎ出した。



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