当時、行方不明者は多数、確認が取れた。 その数は、13名・・・。 いったい・・・この中に・・・いるのか。 ぽるるは、先日の事件の判決がくだされていない 赤い切子を作っていた彼の留置所へと足を運んだ。 サクラの事・・・ いや・・あの事件の事を知っているかもしれないと―――。 数日振りに見る彼は、心をすっかり入れ替え、 ガラスのように透明な澄んだ瞳をしていた。 純粋さを取り戻した彼に、ぽるるは、ニッコリ微笑み、会釈をした。 彼は、ガラス越しに、「あの節は、大変お世話になりました。」 と、ぽるるに、深々と頭をさげ、面接室のイスに浅く腰掛けた。 「今回は、別件でお聞きしたく、伺ったのですが・・w」 「お客さんのサクラさんて方ご存知ですよねw」 ぽるるは、さっそく、サクラについて聞き始めた。 彼は、少し不思議そうに目をパチパチと瞬かせたが、静かに頷いた。 「彼女は、僕の切子を大変気に入ってくれたお客さんでして、 最近から、よく あの小屋に足を運んでくれる お得意先ですよ」 彼は、サクラと とても仲がいいらしかった。 「あの・・・彼女が・・・どうかしたんでしょうか???」 彼は、少し怪訝そうな表情を見せた。 「いえwある事件のただの参考人ですよw」 ぽるるは、安心させるように、穏やかに微笑み、 更に詳しい情報を聞き出した。 「彼女の対人関係ですが・・・w知ってたら教えてくださいねw」 ぽるるは、先日捜査した13名の行方不明者の顔写真を 彼の目の前に、一枚一枚並べた。 「この中に・・・知っている方はいますか?」 彼は、その写真の中の一人を見て、 目を大きく見開き、顔を真っ青にした。 それは、まるで、彼自体が、知り合いのような素振りだった。 そして、何も言わずに、ガタンとイスから立ち上がると、慌てて、 ぽるるから逃れるかのように、そそくさと、面接室から出て行った。 彼の表情は、何か恐ろしい出来事を思い出したかのようだった。 ぽるるは、彼が凝視した写真を一枚手に取った。 そこには、純白の羽を持つ美しい女性 カナエが映っていた。 彼も何かを知っているようだな・・・。 ぽるるは、彼がいなくなった空の面接室を見つめた。 次の日、ぽるるは、カナエが住んでいた島を訪れた。 聞き込みをすると、美しい女性だっただけに、 誰もがカナエの事をよく覚えているようだった。 街でも評判で、気立てがよく、 誰にでも優しい女性だったという。 そして・・・あの火事の日から パッタリと姿を見せなくなってしまったらしい。 消息が途絶え、誰もが彼女の行方を捜し、 捜索願も提出されていた。 そして、この島に来て、捜査を進めていくうちに、 もう一つわかった事があった。 それは、この行方不明者の写真の中に・・・ カナエの彼がいたのだ。 優しそうな瞳を持つ その男性は、 アキラという名前だった。 アキラは、カナエがいなくなった その同じ日に、 姿を消していた。 誰もが、カナエは、同時にいなくなったアキラと どこか遠くへ行ったのだと信じていた。 あの焼死体は・・ カナエとアキラだったのか・・・ 火事にして全てを燃してしまい、 本人かどうかわからなくしてしまう策略だったに違いない。 赤い切子を作っていた彼に会って もう一度話を聞く必要があるな・・・ 彼は、もっと、何かを知っている・・・ ぽるるは、再度、留置所を訪れたが、 彼は、面接室に顔を出そうとしなかった。 ぽるるは、彼とカナエの間に何があったのか・・・。 再び、捜査が行き詰まりを見せた時、 サクラを知っている切子小屋の彼は、 六郎も知っているのだろうか・・・? と、ぽるるは、ふと、思い立った。 そして、翌日。 写真だけでも見てもらえるようにと、 留置所の方にお願いして、 『サクラと一緒に住んでいる』というメッセージと共に、 六郎の写真を届けてもらう事にした。 何か知っていたら、何かしらの反応があるかもしれない・・・ ぽるるは、面接室で、彼をしばらく待つことにした。 すると、面接室の扉が、パタと開き、 苦い面持ちをしている彼が、顔を出した。 「良かったら・・・話してもらえないかな」 ぽるるは、優しく彼を見つめた。 彼は、チョコンとイスに座ると、目をふせ、 苦しい表情を見せ、六郎の写真を握り締め、 「この男は・・・人殺しなんだ」と一言つぶやいた。 そして、ポツリポツリと話し出した。 「僕は、カナエさんに赤い切子グラスを届ける約束をしていたんだ」 「彼女に届に行く途中・・・」 「カナエさんが誰かの家に入って行くのを見て」 「僕は、その後を追うと、玄関が開けっ放しになっていたんだ」 「不信に思って中をのぞいたら・・・!!」 彼は、うつむき、ガタガタを手と足が小刻みに震えていた。 当時の状況を思い出しているようだった。 「カナエさんと・・・カナエさんの恋人らしき人が・・」 「コイツに殺されていたんだ!」 と、彼は、ギュッと目をつぶり、一気に吐き捨てるように言った。 「僕は、コイツに見られてしまい・・殺されそうになったが」 「なぜか見逃してくれたんだ・・・」 「そして、誰かに言ったら、おまえも必ず、殺すと・・・ ナイフを突きつけられ・・・><;」 「恐くなった僕は・・・今まで話さずに・・・きたんだ」 「こんな男と・・・サクラさんは暮らしているなんて―!」 「今は、留置所で暮らしてる身だし・・・それに・・」 「刑事さん・・・。あなたなら・・・」 「逮捕できると思って話しました・・・!!」 「あの危険な男から・・サクラさんを助け出してくださいっ!」 彼は顔をあげ、偽りのない純粋な瞳で、 まっすぐ ぽるるを見つめていた。 「それは大変な事件に遭遇してしまいましたね・・・」 「話してくれて、ありがとうございます」 「必ず、近いうちに、捕まえますよ」 「安心してくださいw」 ぽるるは、気が動転している彼の瞳をしっかりと見て、 にっこり微笑んだ。 彼の話は、全て真実なのだろう・・・ 彼を重要参考人として、すぐにでも、逮捕状を取り、 六郎を逮捕することは容易だった。 しかし、ぽるるは、すぐには、そうしなかった。 ぽるるは、彼の話を全て聞いてもなお・・・ ・・・納得できない事があったのだ。 それは・・・あの正義感溢れた六郎が、なぜ、 この2人を殺めてしまったのか・・・ 六郎と・・・カナエ・・アキラ・・・ 2人と六郎の接点がどこにも見つからない――――!!! それが、わからないと・・・ 逮捕なんて・・・できない。 親友だけに、六郎は、ぽるるによく友達の話をよくしていたが、 カナエとアキラの話など聞いたことが全くなかったのだ。 六郎が犯人なのか・・・? いや・・・真犯人が、他にもいるな・・・・。 ぽるるは、サクラが、たまに見せる あの憂鬱そうな表情を思い浮かべ、目を細めた。 サクラは、赤い切子を取りに来る予定だったと 留置所で彼から聞いた事を思い出した。 ぽるるが、小屋に行き、彼の言われた通り、棚を開けると、 そこには、すでに仕上がった赤い切子が、ヒッソリと輝いていた。 彼によると、赤い切子は、めったに作らないという。 カナエへ、ペアの赤い切子を作ってからというもの・・・ すっかり作らなくなったという・・・ 赤い切子を見ると、カナエたちの死体を目撃した事を思い出し、 作る事を避けてきたらしい。 しかし、お得意先のサクラが、どうしてもと、頼んできたらしかった。 そして、サクラのために、特別に作った切子だという。 どうして・・・赤い切子でないといけないのだろうか・・・ あの嵐の時の事件の時も・・・ カナエが殺害された時も・・・ まるで、赤い切子が殺人事件を 呼んでいるかのようにその場にあった。 この赤い切子が、サクラの手に渡った時、 また、第三の事件が起きるのではないかと・・・ ぽるるは、手の中で、光り輝く赤い切子を見て、 背筋をゾクリとさせた。 ぽるるは、切子屋の彼に了承を得て、 イチカバチカの勝負に切り出した。 ぽるるは、切子小屋に行き、 そこから、サクラへ渡すはずの赤い切子を持ち出すと、 大きいオークション会場を訪れた。 きっと、この会場に、六郎たちはいるに違いないと、想定した。 お店もなく、果物のなる木すら立たないあの小さな島に 身をひそめて、ひっそりと住むには、限度がある。 おそらく、大きなオークションがある日には、 あの小さな島から街へ出てくるだろうと、ぽるるは、にらんだ。 主催者に、赤い切子を代わりにオークションに出してもらうように お願いし手渡すと、サクラに顔の知られているぽるるは、 近くの木の陰から、様子をうかがった。 想像以上の大勢の鳥達で、会場はごった返していた。 赤い切子が、会場の目の前に出された瞬間、 会場から多くの歓声がわきあがった。 赤い切子は、太陽の光で、 赤く透き通った光りをこぼし、光り輝いていた。 なんと、美しい切子だろう・・・ と、誰もがため息をこぼし、目を見張った。 「10万ドングリ!!」 「15万ドングリ!!」 会場から声が次々とあがる。 そして、その会場から、トーンの低い声がボソリとした。 「50万ドングリ」 その一声は、一気に会場を静まり返らせた。 ぽるるは、その声の主が、六郎だと判っていた。 その後に、声はあがらず、六郎が赤い切子を落札した。 隣には、嬉しそうに微笑んでいるサクラがいた。 50万ドングリもの大金を出してまで、どうしてそんなに 六郎たちは、赤い切子にこだわるのか・・・ ぽるるは、六郎の姿を見ながら、 きっと、これから起こるであろう事件に身構えた。 まるで、赤い切子が、事件を招いているかのように、 六郎の手の中で、光り輝いていた。 オークションがあったその夜から、ずっと、 ぽるるは、目立たないように、草むらに隠れ、 六郎たちが住む家を張り込んだ。 何かが起こる・・・ そう、ぽるるは思っていた。 しかし、想定していたぽるるの考えとは裏腹に、 何の変化もなく、夜が更けていった。 まだ太陽さえ昇ってこない朝の薄暗い中、 肌寒い風が、吹き抜け、ブルブルとぽるるは、体を震わせた。 そして、眠そうな目をショボショボとさせながら、 ぽるるは、家の様子をうかがった。 静寂に包まれた島は、波の打ち寄せる音が、心地よく響いていた。 事件など、起こる気配が少しもしなかった。 赤い切子グラスと事件は、全く関係がなかったのか・・・。 もう、六郎たちの家に乗り込もうと思った その時。 ガチャと、玄関の音が開いた。 六郎とサクラは、いそいそと、外出していった。 こんな早朝にどこへ出かけるつもりなのだ。 懐中時計を見ると、まだ、朝の4時だった。 きっと・・・これから、何かが起こるに違いない・・! まだ、薄暗い中、ぽるるは、2人の後を追った。 ←back   next→ メニュー
♪霞ヶ月

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