そんな時、弟者は、一羽の天使にあった。



死の匂いをかぎつけた弟者は、
その鳥の肩に触れず、その場に立ち尽くしていた。



どうしても助けたくなってしまったのだ。



なぜなら、その鳥は、まだ10歳ほどの男の子。

手には、この季節には珍しい一りんの花を
握り締めたまま、地面にパタリと倒れていた。



必死に、つかんでいた茎の部分の葉が
クシャクシャになり、
鮮やかだった花は色あせ、
シワシワになって、少ししぼんでいる。



この花を誰かに渡そうとしていたに違いない。




数日間、飲まず食わずでも なお、
少年は、意識が朦朧とする中、
それでも、クシャクシャになった花を
ギュっと握ったままだったのだ。





もう歩く事すらままならない少年の横で
弟者は、行ったり来たりしていた その時。



赤い羽根を持った天使 ルビーが舞い降りてきた。




「待って!アタシが助けてあげるから!」




そう言い、その天使はそのボロボロになった少年の肩に
チョンチョンと白い杖を振ると・・・
まるで、エネルギーが注ぎ込まれたように、
その少年の意識が戻った。




そして、最後の力を振り絞るように
ヨタヨタとしながらも、山を下りて行った。



「ありがとーw」
弟者は、また歩き出した少年の小さな背中を
見つめて、嬉しそうに言った。



「いいぇーwアタシ天使なのw」

「いつでも手助けするわよw」

「(*´艸`)」
ルビーは、白い杖をクルクルっと回して見せた。



少年が気になって、
弟者とルビーは、少年の後を追うと、
山のふもとに、小さな小屋があった。




その小屋の前には・・・

柔らかそうな白い羽をフワフワと風になびかせ、
誰かを待ちわびるように、
小さな背中を丸めて、泣いている
女の子がいた。




その少女と花を持った少年は、


きっと、兄妹なのだろう。





ぁ・・・
そーいえば、この家は・・・



上空から見る景色に、弟者は、息を飲んだ。




先週、その小屋に住む母親の命を
奪った事を思い出していた。



毒草を食べてしまったのか、
高熱を出し、ひどく苦しむ姿に
弟者は、その子達の母親の肩に触れてしまったのだ。



「あの子たちの・・・母親だったのか・・」


「なんて事を・・・してしまったのだ・・・」



苦しい表情を見せ、弟者はうつむいた。




しかし、そんな弟者の翼をツンツンと叩きながら、
ルビーは優しく囁いた。



「・・・見てw」



ルビーの視線の先を見ると、






強く握り締めすぎて、
そのクシャクシャになった花を
少年は大切そうに妹へ渡していた。

「ごめんな・・・遅くなって・・」
「ほら、おまえの好きな花だろ?w」




「おにーちゃ〜〜〜ん!!(;m;)」

妹は、兄の手の中にあるボロボロになった花を見つめ、
大粒の涙をこぼし、
兄に抱きついて、ワンワン泣き始めた。




母の死に、悲しみに沈む妹を
元気付けようと花を贈った兄。




どんな花より、兄の優しさを知った妹。







「大丈夫・・・w」

「きっと、あの子たちは、これからも強く生きていけるよ」


ルビーは、優しく微笑んで言った。





弟者とルビーは、上空から暖かく見守っていた。







「ぁ・・・僕、弟者」


弟者のそっけない挨拶に、ルビーはニッコリ微笑むと
元気よく白い杖を振りかざして言った。



「アタシはルビー!」



ルビーの生き生きとした表情を見て、
弟者は静かに言った。

「天使はいいね・・・w」





「・・・ぇ・・・?!」

「天使も楽そうに見えて、何気に大変なのよっ!」


プっと頬を膨らませて、ルビーは、怒った表情を見せた。



「だって、僕は鳥たちの命を奪う事しかできないけど・・」



「天使は、助ける事ができる・・・」


「僕には助ける事すらできないんだ・・・」


「死んで楽にさせる事だけ・・・」


「それって・・・助けてるって言わないでしょ?」



弟者の問いかけに、ルビーは、少し考えを巡らせ言った。

「うーん」

「アナタ変った悪魔くんねw」


「天使には天使しかできない事がある」


「だから、悪魔にも天使にはできない事があるでしょw」


「悪魔もこの世にいなければ」
「きっと、この世の鳥たちがイパーーーイになって」
「あふれちゃうじゃない?!w」


冗談交じりに、オーバーなリアクションを取りながら、
ルビーは、翼を大きく広げた。


「そぅだけど・・・」
どこか、納得していないままの弟者がそこにいた。



ルビーは、そんな弟者の背中をポンと叩いた。

「しっかりwww」




今まで、天使や同じ悪魔にも会った事がなかった
弟者は、励まされた事が初めてで、
恥ずかしいやら、ほんの少し嬉しいやらで、
うまく返事をする事ができなかった。




悪魔と天使が仲良くするって・・・
聞いたことがないけど、


なんか、ルビーと仲良くなれそうな気がしたんだ・・・。




弟者の中に、心地のいい そよ風のような
ほんわか暖かい気持ちが流れていた。








「ねね・・・w」


ある水色の空が晴れ渡る日、
ルビーは僕に教えてくれたんだ。



「天使や悪魔って生まれる前なんだったか知ってる?」




「ぇ?!前ってあるの?!覚えてないよっ!」


驚いた弟者の口ぶりに、ルビーは、コクンとうなづき、
(´・ノω・`)<ナィショ♪ねと、小声で教えてくれた。






『この地にいる鳥だったんだよ』





「ぇ???」

「あの鳥たちと同じだったの?!」


驚きの声をあげる弟者のクチを
ルビーは、慌てて翼でふさいだ。





「神様に聞こえちゃうよ〜(><;」




『ぇ・・・』

『神様?!』
自分が神だと、思っていた弟者は、
驚きを隠せず、目を大きくさせた。



『いるの?!』


青空の下、崩れたオベリスクに座って、
ひそひそ声で話す悪魔と天使。




『そなの・・・w』
『アタシたちはねw普通に生きていた鳥なのよ』

『残念な事に』
『死んでしまったのだけどね・・・』


『死んだら、みんな、神様に会えるの』




『それで、天上界へ行くか・・』

『それとも、この世で悪魔や天使になって働くか』
『自分で決められるの』




『じゃあ・・・』
『僕は、悪魔になりたいって自分で選んだのか・・』
弟者は顔をしかめて、つぶやいた。




残念そうに弟者を見つめて、
ルビーはコクンとうなづき、話し続けた。



『天上界に行く鳥たちは』
『生きてきた記憶を持ったまま行けるんだけど』



『悪魔や天使を選んだ鳥たちは・・・』
『今まで生きた記憶を全て消去して』
『また、地上で生きるチャンスをもらえるのw』

『悪魔や天使としてだけどね・・・w』


『つまり、神様がくれた・・・』





『最後の贈り物なのかもね・・・w』






『再スタートってやつだよw』




『でも・・・今まであった・・生きていた記憶は・・・』

『神様にマッシロにされちゃって・・・』

『何があったのか気になるんだよねぇ〜』



『でも・・・そうしたいと願ったのは・・』

『アタシたちなんだよねぇ〜・・・』


ため息混じりに言うと、
ルビーはオベリスクにもたれかかった。





「僕が生きていた時の記憶って何だろう・・・」

弟者は雲ひとつない青空を見て、ポツリと言った。





「なんだろぉ〜〜〜それが判れば・・・」
「苦労してないってw」


「まぁ、最後に与えられたチャンスを見逃すなって事さw」


ジメジメした話題を吹っ切るように、
冗談交じりのルビーの言葉に、
なんとなく、ほっとさせられる。




・・・前世の記憶・・・



自分が消してしまいたいと・・・
願ったのだろうか・・・



ひどい思い出だったのか・・・?!





・・・なんだろう・・・







真っ青だった空が、夕刻を向かえ、
夕日で赤く染まっていく。





記憶の中に、このキレーな夕日もあったのだろうか・・・


同じ空の下で、二度の生きていた弟者は、
今日の任務を終え、
夕暮れがかったオレンジ色の空を見つめていた。







・・・前世にあった思い出・・・




思い出したくもない悪い記憶かもしれない。





知らない方が、自分の為なのだろう。





記憶を抹消すると、自分で決めた事なんだ。




知らない方がいい。




そう思っていた。







寒い寒い冬が訪れた。


しかし、弟者は、何もない素振りで
粉雪が舞う大空を羽ばたいていた。


鳥には、ひどく寒く感じるが、




悪魔は温度を全く感じない。



寒いかも暑いかもわからない。




きっと、北極の氷の上でも生きていけるだろう・・・w




寒い日も

暑い日も

大嵐の日も


悪魔は日課のように、
来る日も来る日も
死の香りを追いかけた。




氷点下マイナス10℃の山道で、
遭難しかかった一羽の鳥。


サカナを取ろうとした矢先、
刺さるほど冷たい大波にさらわれた鳥。


そして・・・
土砂崩れがあり、
岩の下敷きになってしまった鳥。




弟者は、またも、その鳥たちを見て、
助けてあげたくなってしまったのだ。



どの鳥たちも、生きる希望を見失っていなかったから・・・



一生をまっとうした老いた鳥が、まだいるに違いない。
だから、この鳥たちは助けてあげたいと・・・。



と、そこへ、
任務を終えたルビーが、いつもより遅い弟者の所に
駆けつけて来てくれた。


ルビーは、弟者の様子に気づき、
気持ちを察するように杖を軽く一振りする。



雪は暖かな雪に変り、

波は鳥を陸地へ運んだ、

そして、岩は、うまい事半分に割れ、救出された。



「すごい!すごいよ!」

「僕も、天使に希望すれば良かったなぁ〜」

「なんで・・・悪魔なんかっ僕は選んだんだ〜」


やけっぱちな その発言に、「コラコラw」と、
ルビーは弟者の肩をポンと叩いた。






「弟者の助けたい鳥たちは、アタシが必ず助けるよw」





そう言って、ルビーは、弟者に向かってウィンクをした。


弟者は、そんなルビーに笑顔を返した。



知らないうちに、いつも・・いつも・・
ルビーに勇気付けられていた。







ルビーは、弟者と一緒に居る事で、
1日のうちに、10匹以上の鳥たちを助けていた。


優しい弟者は、沢山の鳥たちを助けたいと願っていた。


ルビーはその弟者の気持ちを大切にしてあげたかった。




そして、

助けてあげた後に見せる弟者からもれる笑顔が


大好きだった・・・。



弟者といる時間は、とっても楽しい時間だった。

心が和む時間だった。



大切な物が何なのか・・・


ルビーは弟者に教えられた。




いつの間にか、天使は悪魔に恋していた。







今にも雨が降り出してきそうな
モクモクとした雨雲が立ち込めていた
そんなある日。




いつものように、鳥たちを助けていると、
弟者とルビーの間に、
悪魔が舞い降りてきた。




初めてみる・・・仲間だった。



「さっさと任務終わらせたいから」

「ちょっと、ごめんよ」


そう言って、助けたい鳥の命を
さも簡単に、その悪魔は奪っていった。




「ちょっと待てよーーーーーー!」

弟者は凄まじく怒りをみなぎらせ、
その悪魔にぶつかって行った。





「何するんだよっ!」
もちろん、その悪魔は、弟者をにらみつけた。



「ひどいよっ!!!」
「なんてヒドイ事をするんだっ!」
「まだ・・あの鳥は・・生きる事を望んでいたんだっ!」

弟者は、今にも泣きそうな顔で、にらみ返した。



「何を言うかと思ったら・・・」
ヤレヤレと、その悪魔は、顔をしかめ、言った。




「おまえ・・・悪魔だろ?」

「なぜ、助ける??」


ワナワナと震える拳。

何も言い返せない自分にも腹が立ち、
弟者は、くいしばり、うつむいた。



その悪魔は、そんな弟者を見つめて言った。


「それよりもよりも、自分のこと考えろよ」

「俺たちの任務は一日3羽、命を奪う事」

「雨雲の上にある太陽を見てみろよ」


「日が暮れかかってるぞ」




日が暮れるまでに、
3羽の命を奪わなければならなかった。



雨雲に覆われた天気で、太陽が見えなかったのだ。




急いで、弟者は雨雲を突き抜け、
太陽が見える雲の上へ出た。




太陽は、まぶしい光を放ちながら、
静かに、その姿を消していった。




鳥を助ける事に夢中になってしまったあげく・・・





弟者は、任務を終えることができなかった。




罰があるのだろうか・・・



徐々に暗くなっていく景色の中、
金色の大きな翼を持つ鳥が、
弟者のさらに上空をクルクルと舞っていた。





弟者は、逃げる事はせず、じっと罰を待った。





金色の鳥が、弟者の目の前まで、
フワフワと舞いながら近づいて来た。




「ごめんなさい!」
弟者はバサバサと羽ばたかせながら、謝った。



何も言わずに、その金色の鳥は、
ついてくるように促すと、
大きな翼を優雅に羽ばたかせながら、
導くように進んで行く。



弟者は、すっかりキラキラと光る黄金のその翼に魅せられ、
目をパチクリとさせながら、
あれが神様なのか・・?と疑心暗鬼で後を追った。








こんな所があったのか・・・



たどり着いた場所は、フワフワとした真っ白な羽が
何十にも敷かれた幻想的な場所だった。



あまりにも、フカフカのその居心地のよさに、
弟者は、黄金の鳥を見失っていた。




目の前には、キラキラと光る
黄金の羽が落ちている・・・



それを、手にした時、
誰かが僕を呼ぶ声がした。




『・・・弟者・・・』



それは、耳から聞こえる声ではなく・・・



心に響いてくる声。




弟者は、姿が見えなくなった黄金の鳥が
近くにいるのではないかと、
キョロキョロとあたりを見回した。



「神様ですか?!」





弟者の その呼びかけには答えずに、
ゆっくりと心に話し続ける。




その声は、年老いた男性の声だったが、


とても優しくて・・・


とても温かみがあって・・・


とても懐かしい気がしたんだ。






『貴方は、悪魔と言う任務は合わないようだね』




『もう、悪魔をやめるかね?』



『記憶を戻し、天上界に行くかい?w』



『もし・・・悪魔を選ぶのなら、』
『これからは、今後このような事がないように』
『任務を終えないと、いけないよ』




『本当は天使にピッタリだがなぁ〜』



『途中で、天使に変えることは不可能なんだ』



『弟者、前世の貴方は始めから悪魔を選んでいた』

『天使じゃない・・・』






『それと・・・』



『弟者、貴方は少し、天使の力を借りすぎのようだね』



『天使や悪魔は、一日3羽以上助けるとどうなるか・・』



『教えてあげよう』





『天使や悪魔だって、寿命がある』






「ぇ・・・!」



そうだったのか!




ずっと、生き続ける事ができると、
思っていた弟者は驚きの声をもらした。




『悪魔は、1万羽の命を奪った時』

『天使は、1万羽の命を助けた時』



『寿命が来る』

『そして、悪魔も天使も結局は、天上界に行く事になる』




『記憶をなくしてでも』
『もう一度、この地上で生きたいと願った鳥たちは、』
『悪魔・・・または、天使になってでも・・』
『懸命に何かを見つけ出そうとしているんだ』



『前世で、探せなかった物を探している』




『その命を短くさせる事は許されない事』




『悪魔を選ぶとしたら、ルビーを頼らずに』


『悪魔としての任務を果たしなさい』





『そして、貴方も、地上で生きたその証に・・』


『・・・大切な物を見つけなさい・・・』












『さぁ・・・』

『記憶を戻し、天上界に行くか』

『天使を頼らずに、悪魔として生きて行くか』





『どっちにするかね?』



・・・ぇ・・・




「天上界に行くのはイヤだ・・・」

「だって・・・」

「まだ、僕は大切なものを見つけてないんです!」





『そうですか・・・』



『わかりました・・・』





『しかし、悪魔に戻る為に、2つの約束をしよう』




『再度、任務を完了しなかった時・・・』
『私は、やむを得ず、貴方を天上界に還します』




『再度、天使の力を利用したのならば・・・』
『天上界にもいけず、悪魔にも戻れず』





『・・・貴方の存在は・・・』


『・・・消えてしまうでしょう・・・』





『わかりますね・・・?』

『それほど、天使の命も大切なのですよ』





弟者はゆっくりと、その声に大きく頷いた。






・・・すると・・・


意識がゆがんで行くのがわかる・・・



目の前が真っ暗になり、弟者は意識を失った。







「・・・あれ?・・・」


数時間が経っていた。


すっかり日が暮れた頃、

夢を見ていたかのように、
弟者は、目覚めた。



意識がまだ朦朧とする。



パチクリと何度も瞬きをすると、
ぼやけていた景色が重なっていき、
意識もハッキリとしていく。



見上げると、そこには、
心配そうに覗き込むルビーの顔があった。



周りを見渡すと、白い羽など どこにもなく、
草木と白いオベリスクに囲まれた
いつもの風景だった。










さっきまで、手の中で黄金に光っていた羽は、
黄土色に色あせ、パサっと、
音を立てて、手の平から落ちた。







また、悪魔になれたと言うのに、
弟者は、とても苦しく悲しい気分になっていた。


いつもと変らずに、元気に飛び回るルビーを見て、
とても胸が痛んだ。




弟者よりも長く天使をしていたルビーは、
それだけでも寿命が減っていたのに、
弟者と出会ってから、さらに、拍車をかけて、
グングンと寿命を縮めていたのだ。





それとは・・・知らずに、
毎日のように、ルビーにお願いし、
助けてもらっていた自分の浅はかさに、
弟者は涙を流した。


突如流した涙に、ルビーは困惑の表情を浮かべ、
駆け寄ってきた。


「どどどどーしたの?!」




「ルビー」

「ごめん!!」

「この通りだっ!」



土下座して、弟者は頭を地面につけて謝った。



「ぇぇぇえええ!ちょっとー!」
「弟者やめてよぉ〜何事よぉ〜〜〜」

慌てふためき、ルビーは翼をパタパタとさせた。




「僕は・・・ルビーの命を短くしていたなんて・・・」

「全然・・・知らなかったんだ・・・」




「さてはw神様と会ったの?!」
弟者の言葉に、ピンと来たのか、
ルビーは驚きの声をあげた。



ルビーも、過去に一度だけ、
黄金の鳥にあった事があった。


ある時、山火事が発生し、
救助に向かうはずのルビーは恐れて、
その場にいた悪魔に手伝ってくれるように
お願いしてしまったのだ。

多数の悪魔達でその山は覆われ、
助けるはずだった鳥たちも山も全て、
焼き尽くされてしまったと言う。

恐ろしさのあまりルビーは、その場から立ち去り、
天使と言う立場からも逃げまどい、
結局、黄金の鳥に捕まってしまったのだ。





膝間づく弟者の顔をのぞきながら、
ルビーは、笑顔で答えた。



「私ねwわかってたのw」


「助ければ助けるほど、命が短くなるって」



「でもね、やめられなかった」





「この命、削ってでも・・・助けたかった」




「だって、アタシにとって・・・」



「大切な物を見つけたから・・・w」



「(*´艸`)」






「ぇ・・・?」
ふと、顔を上げて、弟者はルビーを見つめた。




「助ける事が生きがいだったの?!」


「いや〜〜〜そだったのかぁーwまさに天職だね!w」

「d(≧ω≦)b」

「そかそかーw大切な物見つけられてw」

「(ノ≧∇)才━×━〒"━卜━ ☆」

「いつ、天上界に行っても、大丈夫ってことかぁ〜!w」


この弟者の言葉に、ルビーは、
頭を殴られた気がしたが、
ルビーはそれでも良かった。



弟者が笑顔であれば、ルビーには、
それ以上の物なんて、いらなかったから。





ルビーはそんな弟者に、
思いっきり大きな笑顔を向けた。

「天使になれて、学んだ事は多い!」

「弟者の言う通り!天職かもね!w」



この地上で、弟者との一緒にいられる時間は
後わずかに迫っていた。




ルビーが助けられる鳥は・・・
たったの数十羽だけになっていたのだ。



もうすぐで、1万羽の鳥たちを助けた事になる。

そして、天上界に行く。




考えても涙が出てきてしまうくらい、
弟者との別れは、寂しい・・・。



けれども、その寂しい気持ちを
弟者に決して見せる事はなかった。





せめて、この地上にいる最後の日まで、
弟者の笑顔を見ていたいから・・・




そして、

また、天上界できっと会える・・・w


そう、ルビーは信じていた。


ルビーは、本当に弟者と会えて良かったと、
心から思っていた。





「先にさw天上界で待ってるからw」


「絶対に来てよね!w」


ルビーは弟者に満点の笑顔を向けて言った。




決して、いつもの冗談ではなかったその言葉に、
弟者は、ただ微笑むだけだった。







それは、春を知らせてくれる
居心地のいい暖かな風と共に訪れた。




弟者は、まだ太陽があがらない
早朝の薄暗い中、空に羽ばたいた。



寝ていた弟者を起こしてしまうほどの

強烈な死の香り。



いつもの数倍という鳥たちが、
命をさらされているに違いない。



弟者が目指した先には・・・
無数の害虫がはびこっていた。



その害虫に毒をもられ、
多くの鳥が地に倒れている。



皆が寝静まる深夜から、
害虫に襲われたに違いない。



昨日まで平和だった その島は、
半日で、地が灰色に変色し、
木々は、ことごとく倒され、
一つの面影もなく変貌していた。





赤子を抱く母親も、
害虫に囲まれ、倒れたまま、
ピクリとも動かない。



子供を守り、必死に抱きかかえる母親の表情が
重なる害虫の隙間から見える。






なんて、ヒドイ事だろう・・・!





島に はびこる害虫を
弟者は、にらみ付けた。







と・・・


そんな中、害虫に真正面から戦う一匹の鳥がいた。



その姿を見た時。






弟者の中で、時が止まったかのように思えた。




「・・・兄者・・・」


無意識に、弟者のクチから、もれた言葉。





・・・ぇ・・・



今までに見た事のない鳥なのに



その鳥の名前を弟者は知っていた。




瞬きするのも忘れて、兄者を見つめ、



そして、


兄者は、自分の兄だと感じた途端、



とうとう、封印された前世の記憶が
弟者の頭の中で、フラッシュバックし始めた。






まさか記憶が戻るとは・・・

神さえも、予測しなかった事。




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♪夢の続き
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