『 Departure 』



そう言えば・・・


お母さんは、
どんなに遠く離れてても
どんなに鳥が沢山いても


一瞬でアタシを 見つけてくれた。



だから、こんなにも安心してこれたんだ。



どんなに離れていても、
見つけてくれると・・・
心のどこかで、安心していた。





ピピフィーは、足首に刻まれた刻印を少し見つめ、
原っぱにゴロンと寝転んだ。


足首の刻印


それは、一族の証。




土と・・・
芽吹いたばかりの柔らかい草の匂い・・・



・・・透明に透き通る水色の空・・・



・・・まだ少し冷たい風・・・



昼間だと言うのに、白い月が見える そんな春先。





ピピフィーは懐かしそうに空を見上げていた。














ピピフィーが生まれたのは、


無限に続く宇宙にある名のない星。


財閥のひとり娘として
生まれたピピフィーは
地位も金もある
何不自由のない暮らしだった。


毎日、笑顔が絶えない家族。


教養を身に付け、勉学にもに励んだ。


また、小さい頃から精神を鍛えるための
拳法を習い、見る見る間に上達していった。


そして、ピピフィーはとうとう、
恩師も敵わないほどの腕を持った。


誰にも負けない技と身の軽さ。





隙を与えない技と、
優雅に舞い戦う姿は、芸術とも言われた。



美貌も持ち合わせて生まれて来たピピフィーは、
誰もが瞬きを忘れてしまうほどの美しさだったのだ。




しかし、武術が発達した この星は、
争い事のない平和な星だった。



武術は精神を鍛えるためのもの。

誰かを傷つけるためあるのではないと。



ピピフィーも、また、その力を争い事で
誰かに向ける事はなかった。






時々、些細な事で、母とケンカした。


母の言う事に口答えして、
部屋に閉じこもった。


「ゴハンよ〜」

そう言う いつもの母の声。


腹が立っててもおなかはすくもの・・・


ムッとしながら、食卓へ足を運ぶと、


テーブルに並べられたものは・・・
アタシの大好きなクリームシチューだった。


母の暖かい手料理を食べると
なんだか心まで温まるんだ。



シチューを口に運びながら、
アタシはポツンと言った。




「さっきは、ごめん・・・」




母はただ、微笑んでいた。



優しい家族に囲まれ、
毎日、笑顔が絶えない
そんな裕福な生活。




美味しい母の手作り料理。


寝心地のいいフカフカのベット。


たくさんの楽しい友達。




ピピフィーにとって幸せすぎた。




生まれたこの星が、
この環境が、とてつもなく裕福すぎた。





でも・・・
だからこそ、
いつまでも甘えてはいけないんだ。



ピピフィーは15歳を迎えた日。




父と母から離れ、一羽で暮らそうと、
違う星に旅立つ決心をした。




父と母は、猛反対したが、
ピピフィーの真剣な眼差しに
しぶしぶ納得してもらえた。


母は赤い羽根を持ち、
青うさぎと言う名だった。


家庭を守りながら、
ロケットを設計する仕事もしていた。

メカ好きだった母は、
この職業を持つことで、喜びを得ていた。


部品一つ見逃さないよう
いつもより念入りに、ピピフィーの為に、
自動運転付きのロケットを作った。



行き先は、ピピフィーが生まれた時に、
父と母が、記念にと買ってくれた星。



いつか、ピピフィーが大きくなり、
その星で立派に暮らせるようにと・・・。



父と母の願いが沢山つまった星だった。




ピピフィーは、席に乗り込むと、
窓から見える両親を横目で、チラリと見ると、
ほんの少し涙目で、心配そうに見送る母がいた。



ピピフィーは、そんな母を安心させるように、
ニッコリ笑って、手を振った。


そして、前をまっすぐ見つめた。





ピピフィーの真剣な横顔に、
母は涙を流した瞳を緩ませ、
微笑みながら言った。



「まさか、こんな早くにあの星に行ってしまうなんて・・」


「まだ子供なのかと思ったら・・」


「あの子、いつの間にか・・・」

「大きくなってたのね・・・w」




「そうだな・・・w」

そう、少し寂しそうに言い、
隣りに立ち尽くす父は、励ますように、
そっと、母の肩を抱き寄せた。


シェルターが大きく開くと、
ロケットは未知の宇宙へと発射された。



轟音と共に、
未知なる未来への期待を胸に


ピピフィーは飛び立った。







数時間たっただろうか。

丸い星が、だいだんと見えてきた。


そして、
待っていたかのように、シェルターが自動で開く。


ロケットは吸い込まれるように、
その星に着地し、ピピフィーが、
ロケットから出た途端・・・


「お待ちしておりました!」

そこには、多数の召使がずらっと

見渡す限り立ち並び、頭をさげていた。


その道をピピフィーは、
よそよそしく歩くと、
その先に、少し年老いた女性が立っていた。


「よく、来たねw」
「さっwおいで、案内してあげるからねw」

その女性は、世話係として雇われていると言う。


全て両親が、一人娘ピピフィーを案じるが上に
用意しててくれたのだろう・・・。


そこは、ピピフィーが住むには
あまりにも大きすぎるお城だった。




無事に星についたものの・・・

これじゃあ・・・今まで育った所と、
変わりないじゃないか!!




やれやれと、ピピフィーは
用意されたフカフカのイスに座り込んだ。


座っているだけで、美味しい食べ物が、
次々と、目の前に並べられていく。



「はぁ〜・・・」
ピピフィーは、テーブルに肘をつき、
重いため息をついた。







大広間では、知らない鳥たちが、
ピピフィーの来日祝いで、
賑やかにパーティーをしている。


ピピフィーも着たくもない
ヒラヒラのドレスを着せられ、
退屈なすぎる時間を送っていた。



ここも、なんて幸せな場所なんだろ・・・。



ピピフィーは、目の前にあるスープを
いつまでもスプーンでクルクルと回しながら、


ここに来る途中、青く透き通った
すごーくキレーな星を思い出していた。



ブルーに透き通った地には
何があるのだろうか・・




自分の事を誰も知らない星。



あの星なら、

自立ができるかもしれない。



ここにはない・・・


何かがあるのかもしれない・・・



沢山の思いを膨らませ、
ピピフィーはドレスのまま、
再びロケットの方向へと走り出した。



まるで、青い星の引力にひきつけられるように。



運転席に乗り込むと、
自動運転装置は、目的につき、
既にOFF状態になっていた。



その方が都合が良かった。



スイッチをとりあえず、ONにすると、
轟音が鳴り出し、ロケットは発射する準備をし出した。


「これだったかな?」

ポチン。

ピピフィーは、発射ボタンを押した。




シェルターが徐々に開いて行く、
凄まじい音に、
召使達が驚いた顔で集まって来るのが見える。


「・・・ごめん・・・アタシ・・・」


「これ以上・・誰にも甘えられないんだ・・」







独り言のように言うと、ピピフィーは1羽、
誰にも行き先を言わず、

・・・自分の力で、幸せをつかむために・・・

大きな宇宙へと旅立った。




もぉ、誰にも、止められない。


ピピフィーの心は駆けて行く。





―――あの青い星を目指して―――







母の仕事している姿をいつも見ていたピピフィーは、
なんとなく、操縦の仕方を知っていた。


青い星に入ると、一気に加速する。



ガガガガガガガガガガガ!!!



すごい摩擦が起きてる!!



視界が見えないくらいのの振動と轟音。
そして、窓から見えるモクモクとした煙。



ロケットはすさまじい摩擦熱で
火を噴いていたのだ。





熱い―――!!!!



落ちるーーー!




大気圏に入ると、ロケットは、
ピピフィーを乗せたまま、
そのまま墜落していく。




「うぁあああああああ!!」





ピピフィーは、気を失った。







気が付くと、見たこともないくらい綺麗な
エメラルド色の羽を持つ女の子 シトラスが、
ベットの片隅で心配そうに覗き込んでいた。


咄嗟にベットから、起き上がろうとした。


「いたたたたた!」


体中、ひどい火傷をしていた。


シトラスが帰宅途中、
偶然、空から降ってくる
大きな火の玉を目撃して向かうと、
奇跡的にロケットから、
振り落とされていた
ピピフィーを見つけたと言う。


数日間、眠ったままのピピフィーを
手当てし、助けてくれたのだった。



「だっ!だめだよ!無理しちゃ!」


「でも・・・よかったぁ〜目覚めてくれて・・w」


シトラスが、優しい微笑で見つめた。



ベットにガクンと横になり、ピピフィーは、
全身の痛みに耐えながら、
自分がした無謀さに反省の色を見せた。



ベットの脇にあった窓に目を映した時。

ピピフィーの目が、釘付けになった。



まん丸な目を開けて見入っていた。


「ど・・・どーしたの?!」

「まだ、どこか痛い?!」


「薬塗ってあげたから、」
「少し痛みが取れてると思うんだけど・・」

心配そうに、シトラスがピピフィーを見つめた。



ピピフィーはケガの事を忘れ、
目を輝かせ、窓の外を見たままだった。



そう、今まで、大気を持たない星に育ち、
シェルターの中での暮らしを余儀なくされていた
ピピフィーにとって、
大気がある星は初めてだったのだ。




灰色の廊下と灰色の部屋で覆われた
シェルターと比べて、
なんて、広い世界なんだろう・・・



「ここは・・・なんて星?」

シトラスに目線を移す事なく、
空を見つめたまま、ピピフィーはゆっくりと尋ねた。


「ここは、地球だよw」

「やっぱり!アナタ宇宙人なんだ!」

シトラスが物目ずらしそうに、ピピフィーを見つめ、
金切り声を上げ、興奮しながら返事をした。


「ちょwww傷に響く!w」
「アタシはピピフィーwピピって呼んでw」
ゆっくり視線をシトラスに移し、
痛みに耐え、ほんの少し微笑んだ。


「うああ(><;ごめんっ」
「私はシトラス!よろしくねっ!」

ピピフィーは、布団の中から、
火傷で包帯だらけの痛々しい手を差し出した。


シトラスは、優しくピピフィーの手を取り、
ニッコリ微笑んだ。


そんなシトラスの優しさに、
ピピフィーは安心し、緊張した笑みを
ほんの少しだけ、緩ませた。




「ありがと・・wシトラスw」





「ねぇ〜シトラス〜」
「あの上に広がってる青いのって・・・何?」

ピピフィーは、再び、窓の外に目を移し、
青く広がる上空を仰いだ。



「そ・・ら・・・?の事かな?」

不思議そうに、シトラスは言った。


「・・・空かぁ〜・・・w」

「キレ―――・・・」



痛みも忘れてしまったかと思うくらい
穏やかな表情で、ピピフィーは、
高く広がる真っ青な空を
ずっと、見つめ、



独り言のように、一言つぶやいた。







「ステキな星だね・・・w」






これが、忘れもしない
アタシたちの出会いだったんだ。







数週間経ち、傷も癒えて来た頃。


ピピフィーは、自分の足で、
この地を踏みしめた。


全てが、初めて見る風景だった。




草木・・水・・大気・・




なんて素晴らしい星なんだろう・・。




火傷がすっかり治ったピピフィーは、
見渡す限りに続く草原でクルクルとまわり、
ぱたっと、仰向けに倒れた。



そして、思いっきり息を吸い込み、
いつもより高く見える空を仰いだ。




見つけた!



見つけたよ、お父さん!お母さん!




ここが、アタシが生きて行く星!







・・・お父さん・・・お母さん・・・




もぉ、会えないのかな・・・。




ロケットは墜落した時に、
木端微塵になっていたと言う。



シトラスの家から少し離れた場所に、
ロケットが落ちたとされる焼け野原があった。



一度だけ、ピピフィーは、その場所に足を運んだ。



破片だけが、空しく残っていた。




ロケットは・・もうない。




作る事も不可能だった。


文明が発達していない この地球には、
一般の鳥が・・・
ロケットを作る高度な技術も部品さえも、
手に入れる事ができない。





まだ、15歳だったピピフィーは、
母を思い、寂しい気持ちを募らせた。







もぉ・・・帰れない・・・。







優しく照りつける太陽の下、


翼で目を覆った。



一粒の涙が頬をつたっていた。



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